第1階層4
「アリサちゃんとスーリンちゃん、まだ塔で戦闘してないね。スーリンちゃんはヒーラーだからいいとして、アリサちゃんの実力は知っておきたいな。」
誰に言うでもなく、美湖がつぶやいた。
「といってもな。私のスキルは遠距離だからなぁ。お、あいつでいいかな。」
アリサが指さした方向には2頭のコボルトがいた。距離は30mのんびりと何かの果実を食べている。その見た目は、犬のような頭にスラッとしたすばしっこそうな体躯、石や、少し錆のついたナイフを装備していた。
「大丈夫?あいつ結構すばしっこそうだよ?」
「大丈夫だよ。私の弓ならここからでも当てられる。みんなはコボルトの視界に入らないようにしてくれたら大丈夫なはずだ。」
そう言ったアリサは月光樹の長弓をかまえ、矢をつがえた。その矢が光を帯びる。
「おお、あれって長弓の能力なの?」
「えぇ、聖属性が付与されています。おそらく風属性は発射時に効果があるのかと思います。」
ユーナは軽くタダークミストをつかい、美湖、スーリンをかくす。それにより、3人の姿は他の物たちに気付かれにくくなった。
アリサは2頭のコボルトの死角に入り、聖属性を纏わせた矢を1頭の後頭部向けて射る。矢はコボルトの後頭部に吸い込まれるように刺さった。頭を射ぬかれたコボルトは、声を上げる間もなく息絶えた。しかし、それにより、2頭めのコボルトはアリサの存在に気づいたようで、ナイフを構え接近してきた。アリサは再び矢をつがえ、放つ。
「GYA?」
しかし、コボルトはその矢を避ける。そして、アリサに飛びかかる。しかしアリサはそれをかわし、弓をしまい、紅の短剣を抜き応戦する。
「ちっ、すばしっこいなっ。」
アリサは紅の短剣でコボルトの足や腕の関節を狙い斬りつけていく。しかし、コボルトのナイフ攻撃もアリサを気付付けていく。徐々に、コボルトの速度が落ちていく。そして、満身創痍になったコボルトの動脈を切り裂き止めを差す。
「あー、しぶとかった。ご主人様、終わりましたぜ。」
アリサは美湖を呼ぶ。アリサの近くに来た美湖はアリサを抱き締めた。いきなり抱き締められたアリサは慌てる。
「...アリサちゃん、危なっかしいよ。どうしてあんな戦い方するの?もうあんな戦いはしないで。無理だと思ったら、僕や、みんなを頼って。君は、僕の仲間なんだから。」
「......、はい、ご主人様。これからは、無理しません。」
「うん、僕こそごめんね。僕がアリサちゃんの実力を見たいなんて言ったから。スーリンちゃん。アリサちゃんの傷、治せる?」
美湖は、アリサから視線を外し、スーリンに問いかける。
「大丈夫ですぅ。ではアリサさん、行きますよぉ。『癒しの恵みを、ヒール!』。」
スーリンが、白水晶の長杖を掲げ呪文を紡ぐ。すると、長杖が淡い緑色を発し、その光がアリサを包む。すると、アリサが負った傷が見る見るうちにふさがっていく。
「おお、こりゃすげぇ、もう痛くねぇ。スーリンさん、ありがとうよ。」
「スーリンちゃん、すごいね。これなら、ポーションの出番もなさそうだね。でも、魔力の配分は気を付けてね。いざというときに、魔力切れなんて馬鹿すぎるからね。」
美湖はスーリンをほめつつ、くぎを刺す。そしてアリサの傷が問題ないか確かめると、コボルトのドロップアイテムを調べる。そこには、魔石と、犬歯が二本落ちていた。
「これは、コボルト軒端ですね。主に武器や、アクセサリーに使われることが多いです。」
ユーナが説明してくれる。ミコは魔石と牙を魔札に封じた。表記には、『塔コボルトの魔石 (2/20)』、『塔コボルトの牙 (3/20)』となっていた。
4人は、次の獲物を目指して、歩き始めた。