蹂躙
美湖は、ゴブリンたちの前に立ちふさがる。両の手には赤道と黒銀の短剣をそれぞれ構えて。そして、殺気を放つ。ゴブリンたちはその殺気におびえひるんでいる。しかし、ボブゴブリンは怯えることなく、再び、こぶしを握り、正拳突きを放つように手を突き出す。
「っ!?」
突き出した瞬間に、すさまじい衝撃が美湖を襲う。全く目視できず、美湖は、3mほど吹き飛ばされた。
「なるほど、これがユーナちゃんを吹き飛ばした衝波スキルってことね。スキルの発動条件は、徒手による突き攻撃ね。それなら、やりようはあるかな。」
美湖は、ボブゴブリンが再度、正拳突きを出そうとしているのを見て、ぎりぎりまで引き付けた。ボブゴブリンが正拳突きを放つ瞬間、美湖は横に飛び、衝波スキルを躱す。そして、駆け出し、ボブゴブリンの周囲にいるゴブリンたちを短剣で切り裂いていく。ゴブリンたちも、応戦する。殴りかかり、投石、体当たり、繰り出す技のすべてを美湖はいなし、弾き、躱し、すべて一撃のもとに斬り伏せた。
「最後に残ったのはあんただけだね。どうする?」
ボブゴブリンが、人間の言葉を理解するとは思えないが、美湖は問いかけ不敵に笑った。しかし、それはボブゴブリンも同じだった。そして、大きな遠吠えを響かせた。
「...いったい何を?」
ボブゴブリンの遠吠えが終わるころ、周囲から何かが近づいてくる気配がした。そちらに目をやると、ゴブリンやボブゴブリンが、群れを成して近づいてくるのが見えた。
「っ、斥候に出していたやつらを戻したんだ。これはさすがにきついな。」
美湖は、少し焦りの色を見せる。そしてボブゴブリンが再び正拳突きの構えをした。衝波スキルを放つ瞬間、
「ダークミスト!!」
ゴブリンたちの周囲を黒い霧が覆った。ボブゴブリンも例外ではなく、衝波スキルは解除されていた。
「ユーナちゃん!大丈夫?」
声のしたほうを見ると、ユーナが上半身を起こしていた。その表情はまだ辛そうだ。
「はい、ご主人様。申し訳ありません。」
「いいんだよ。僕の不注意だし、それよりけがは?」
「大丈夫です。それより、今、私の魔法でゴブリンたちの視界を奪いました。今のうちに殲滅を。私の全魔力です。後5分は持ちます。どうかよろしくお願いします。」
ユーナはそういって、上半身を横たえた。意識はあるが、呼吸が荒い。
「わかった。後はご主人様に任せておいて。」
そこからは、美湖の一方的な殲滅だった。視界の奪われたゴブリンたちは、美湖の放つ斬撃に対応できず、一体、また一体と倒れていった。中には、気配を察知し、反撃してきた個体もいたが、それらも軽くいなし、斬り倒した。
「ふぅ、これで片付いたかな。ユーナちゃん、大丈夫?」
すべてのゴブリンを倒した美湖は、ユーナのもとへ駆け戻る。ユーナも体力が戻ってきたようで、何とか立てるくらいには回復していた。
「はい、少しは回復しました。すみませんでした。私のドジで、ご主人様を危険な目にあわせてしまって...」
「そんな顔しないでよ、何とかなったからいいじゃん。次は気を付けよう。だいたい、衝波なんてスキル初見殺しもいいとこだよね。」
「衝波!?あのボブゴブリン、スキルを持っていたのですか?」
「うん、持ってたよ?てかどうしてそんなに驚いてるの?」
美湖は、ユーナが驚いていることに驚いていた。
「いえ、魔物がスキルを持っていることはよくあります。しかし、それはだいたいレベル15くらいからなのです。ですから、倒せたほうが驚きで。」
「あ~そういうことね、確かにレベル15だったな。まぁ、倒せたしいいじゃない。それより、ゴブリンたちを回収しなきゃ。そうだ、ユーナちゃん。魔石って魔物からとれるんだよね?」
「はい、そうですけど。」
「じゃあさ、ゴブリンたちの魔石がどのあたりにあるか教えてよ。」
美湖は、銅の封じの札からナイフを二本取り出しながらユーナに聞いた。