ユーナと食事
部屋に入ると、二人は装備を外し始めた。
「そういえば、僕、普段着を買うの忘れていたよ。ま、明日でいいか。ユーナちゃん、ご飯食べに行こうか。」
ユーナは、ウルフレザーシリーズを外し、チュニックとショートパンツの格好になっていた。
「ご主人様って、案外抜けてますよね。ごめんなさい、謝りますから、ほっぺグニグニはやめてください。私もおなかすきました。ごはん行きましょう!」
「まったく、調子いいんだから。じゃあ、隣の食堂に行くよ。」
美湖はユーナを連れて、宿屋に併設されている食堂にむかう。扉を開けると、またもどぎついアルコールの匂いが美湖の鼻を襲う。美湖は、ユーナの手を引き、アルコールの匂いがあまりしない、窓際の席に座った。
「ここ、安いし近いんだけど、このお酒の匂いどうにかならないかな?」
「仕方ありませんよ。ここは、探索者が良く集まる食堂のようですから。皆さん、疲れた体を自分で慰めるために来ているのでしょう。それなら、お酒のにおいがきつくなるはずですから。」
「ふーん、お酒っていいものなのかな?僕飲んだことないから、いまいちわからないんだよね。」
ユーナと話していると、従業員が注文を聞きに来た。
「んー、僕は黒イノシシのステーキと赤キャベツのサラダを、ユーナちゃんはどうする?」
「...本来奴隷にまともな食事を与えることはないんですけどね...、僕も同じものをお願いします。」
注文を聞くと、従業員は厨房のほうへ戻っていった。
「ご主人様、案外重たいの食べますね?」
「ん~、これ以外にまともに食べられそうなものが見つからなかったんだよね。何?ゴブリンのハンバーグや、オークの生姜焼きって、イメージだけで食欲なくなるよ。」
「まぁ、ゴブリンの肉は固いうえにまずいですからね。でもオークの肉は、脂も載っていてジューシーでおいしいんですよ。」
「そうなの?でもどうしても見た目を想像してしまうとね。僕の昔居たところじゃ、すんごく太った人間に豚の顔を付けたようなものだったからさ。それを食べるとなると、どうしてもね?」
「そうなんですか?このあたりで言うオークというのとあまり違いがなさそうですが?」
「まぁ、価値観の違いだよ。ほら、ご飯もきたし食べようか。」
そうして横を見ると、従業員が食事を持ってきたところだった。目の前に、いまだ音を立てる分厚いステーキが置かれる。
「じゃ、いただこうか。」
「はい、ご主人様。」
二人はステーキとサラダを1時間くらいかけて食べた。時折、世間話をしたり、今後の方針を話したりして、楽しい食事の時間は終わった。
宿に戻ると、二人はリラックスしていた。
「ふつう、奴隷にはこんな待遇ないんですけどねぇ。」
「そうなの?まぁ、いいじゃん。僕も変にかしこまられるよりは自然体でいてほしいからね。」
「...ご主人様、ありがとうございます。私、もう普通の生活ができないと思ってました。でも、ご主人様に買っていただいて、今日一日、すごく楽しかったです。これからも、一生懸命尽くしますので、どうかよろしくお願いします。」
ユーナは、涙目になって、しかし、その表情はとてもうれしい感情を映し出していた。
「そっか、うんわかった。これからもよろしくね。あと、もしこれから困ったことがあっても、奴隷だからって遠慮しないで、ジャンジャン僕を頼ってね。」
美湖は、えへんと胸を張ってユーナに伝える。ユーナは、少し鼻をすすってから、
「はい、ありがとうございます。...あの、ご主人様、早速で申し訳ないんですけど...」
「なになに、言ってごらん?」
美湖は、ユーナに詰め寄って尋ねる。
「......血を吸わせてください......」
ユーナは、すごく小さい声で、しかし、はっきりと告げたのだった。