死後の世界
「...はっ、ここは?」
美湖は、見覚えのない空間で目が覚めた。そこは、見渡す限り真っ白な空間だった。
「僕、確か、秋穂に刺されて、死んだはずじゃ?」
美湖は、自分の腹部を確認するが、刺された痕跡などはなかった。周囲を確認していると、前方に、ひと際まばゆい光球が現れた。
「死者の魂を確認、これより、転移の手続きに取り掛かります。」
いきなり、電子音のような口調で、一方的に始まった会話。
「魂の最適化、肉体の最適化、精神の改変、記憶の引き継ぎ、完了。本来の因果の遮断、規定範囲内で完了。」
「待って待って、意味が分からない。説明をしてください。」
美湖は、電子音の一方的な話に割り込み、説明を要求した。
「了解。死者の魂の要求を確認。これより状況及び、今後の説明を行います。あなたは、友人の刺傷により殺害されました。ここは死後の世界であり、来世への道しるべとなる場所です。現在、あなたの魂、肉体、精神、記憶、因果を最適化しています。最適化が完了したのち、来世に転移します。転移先は『ストライド』、剣と魔法が発展した世界です。この世界にて生活可能なようにあなたを最適化しています。」
「最適化って、僕はどうなるんですか?」
「どうにもなりません。最適化とは、ストライドにて生活するために、あちらの環境に適応するためです。あなたの体がおかしくなるわけではありませんし、この世界と同じ感覚で生活できるでしょう。」
「私は、その世界でどうすればいいのですか?」
「自由に生きていただいて構いません。後程ストライドについて説明いたします。それを聞いてから考えてはいかかでしょう。間もなく最適化が終わります。終了しました。これよりあなたの体、精神について説明いたします。」
最適化とやらが終了したようで、光球がひと際瞬いたのち消えてしまった。
「いや、説明するって言って消えないでくださいよ。責任者出てきてください!!」
美湖の声が、真っ白な世界に響く。すると、奥のほうから一人の少女が現れた。
「そう騒がないでください。こちらにも準備というものがあるんですから。」
否、少女という言葉では彼女の容姿を説明できない。そこにいたのは、絶世の美少女であった。そんなありきたりの言葉しか出てこないくらいの美少女だった。その姿を見た美湖は、固まってしまった。
「?、どうしたのですか、固まってしまっていますよ?おーい、大丈夫ですかー?」
「...か...」
「か?」
「...可愛いいいいい!!!何この可愛い生き物。女神!?天使!?この子欲しいいいいい!!!」
美湖が暴走してしまった。
彼女は、男性恐怖症を持っていたが、そのトラウマのせいで、年月を重ねるにつれて、女性が好きになってしまったのだった。それが、男性恐怖症を克服できなかった一つの理由でもあった。美湖は、現れた美少女に抱き着いて、頬ずりをしていた。
「ちょ、やめなさい、私を誰だと思っているのですか?私は女神ですよ。離れなさい。」
その美少女は、自分のことを女神と名乗った。しかし、その言葉は、美湖を暴走させるスパイスとなるだけだった。
「何この子、チョー痛いんですけど、痛可愛いんですけど!?、あーもう、このままお持ち帰りしていいですかね!?」
美湖の暴走は止まらない。耐えかねた女神さまは、手に持っていた杖で美湖をどついた。
「私は女神です。いい加減に離れないと殴りますよ!」
「...もう殴ってます。」
殴られて、正気に戻った美湖は、小さく突っ込みを入れた。自業自得ではあるが...。