出発
それからの日々は、淡々と過ぎていった。美湖とユーナはクランで依頼を受けお金を稼ぎながら、魔石を集めて魔札を精製している。出発に向けて様々な物資を運ぶのに、美湖のスキルほど頼りになるものはないからだ。
アリサは、サクラの店『安らぎの風』の修復にかかりきりだ。時折来る報告では、今のところ半分くらい、とのことだった。
スーリンは、屋敷の片づけや、私物の整理をしていた。ほかにも、ユリカたちに引き継ぐのに必要な書類の整理などもしてくれている。
エイルは、時折美湖の手伝いをするが、二手に分かれて、クランの依頼を受けている。こちらは、魔物の討伐などではなく、町の人々の悩みを解決する類の依頼を優先的にこなしている。美湖としては、ダークエルフの忌避感をなくすためらしい。 アリアからも、
「エイルさん、最近すごい人気ですよ?仕事は丁寧で速いし、性格も温和で話しやすいからって、わざわざ、エイルさん指名の依頼も来るくらいですから。」
と、大評判になっていた。
ユリカたちも活動していた。主には、依頼を受けての魔物討伐や、素材の採集などがほとんどだが、時折出る盗賊や無法者集団の討伐、捕獲依頼は率先して受けていた。塔がなくなったことで、一部の探索者は稼ぎが減り、盗賊行為を行う者が出てきており、アヤメの指示の下、信頼のおける探索者たちには、この手の依頼が指名依頼として出されていた。
「ったく、こんなに法を犯す探索者がいたとは、嘆かわしいことだ。」
と、日々上がってくる探索者上がりの盗賊捕獲報告を見るたびに、アヤメは頭を抱えていたのだが、それは美湖のあずかり知らぬところであった。
と、それぞれがそれぞれに必要な準備を行っており、さらに一か月が経過した。
美湖の屋敷のリビング。そこには、美湖のパーティーとユリカのパーティーに、アヤメ、サクラ、ソクラが集まっていた。
「今日を持って、サクラさん、ソクラさんの『安らぎの風』が完全に治って、営業を再開しました。また、僕たちが旅に必要になる物資も必要数確保できました。なので、明日、この町を出ます。急なことで申し訳ないけど、あまりダラダラしてると、いつまでもこの町にいてしまいそうなので。
で、アヤメ支部長と、サクラさん、ソクラさんには、この場でお別れを言いたいと思って今日は呼ばせていただきました。今夜は宴会です。みんな、大いに騒いでください。」
美湖の音頭で、美湖たちのラティアの町での最後の晩餐が始まった。
「おい、美湖よぉ。ほんとにこの町を出ていっちまうのか?」
最初に美湖に絡んできたのは、アヤメだった。すでにいくらか飲んでいるらしく、出来上がっている。
「ええ、そうですよ。この町は楽しいし、ほんとならずっと居たいくらいですけど。」
「ならさ、もう、ずっと居ればいいんじゃないか?町の住民も、エイルのおかげで他種族に対しての忌避感もなくなりつつある。お前たちがいなくなったら、みんなショックを受けると思うがな。」
アヤメは、グラスに入ったワインを少し口に含みながら問いかける。
「仕方ありませんよ。僕にとっては、塔を攻略するのが一つの目標ですから。それに、クリスティナとも約束しましたし。他種族の忌避感をなくす。この町だけでなく、世界からね。そのためには、やっぱり世界を回らないと。」
「はっ、やっぱりとどまる気はないか。まぁ、だめもとで聞いただけだ。忘れてくれ。私としても、お前の考えを継いで、カルアとももっと連携をとり、他種族が不当に扱われるのは防いでいこう。きっとユリカたちも協力してくれるだろうしな。」
アヤメはそう言って、美湖の隣を立った。そのまま、ユーナたちに絡みにいった。
「いい感じに考えてくれてるね。支部長も。」
「ああ、そうだな。隣いいか?」
そう言ってきたのは、ユリカ、レイク、エリザだった。
「どうぞどうぞ。」
「ありがとな。美湖さんには、でっかい借りばっか出来ちまったな。」
「ん?たとえば?」
「命を助けられて、家まで貸してもらって、強くしてもらった。たぶん、私たちだけじゃ、こんな短期間でここまで成り上がれるとは思ってなかったしな。ありがとう、この借りは絶対返す。今はまだ、何もできないけど、もし何か困ったことができたら、いつでも頼ってくれ。それにこたえらるように、できる限り強くなっておくよ。」
「気にしないでいいのに。なら、僕がこの街を去っても、カルアさんと協力して、犯罪奴隷以外の奴隷を助けてあげて。
僕の願いはそれかな。」
美湖は自分のグラスに口をつけ、中身を少し口に含む。ユリカ達もそれに続いてグラスに口をつける。
「そんなの、言われるまでもないよ。ユーナさんや、アリサさん、スーリンさん、エイルさん、みんなあんたに出会ったからあんな笑顔になれるんだ。私たちにそこまで出来るかわからないけれど、出来る限りやるさ。」
そういうと、ユリカ達も席をたち他のメンバ―に絡みにいく。美湖も立ち上がり、参加者の方に、ソクラに近づいていく。
「ソクラさん、楽しんでる?」
「あ、美湖さん!はい!とっても楽しいです。」
ソクラは、美湖に笑顔満開でこたえる。
「でも、今日で美湖さんとお別れだと思うと、少しさみしいです。」
「ごめんね。いつかまた会いに来るから。」
美湖はソクラの頭を優しく撫でる。ソクラは目元に涙を浮かべているが、嬉しそうに目を細める。
「美湖さん、わたしね、夢が出来たんです。」
「へぇ、どんな夢?」
「探索者になって、美湖さんや、皆さんと冒険するんです。ユリカさんたちに鍛えて貰って、絶対追い付いて見せますからね!!」
「うん!待ってるからね。いつか一緒に冒険しよう。」
美湖は、ソクラの頭から手を放し、
「なら、僕からソクラさんにプレゼントをあげよう。」
そういうと、美湖は一枚に魔札を取り出し開放する。そこには、今まで美湖が使っていた『氷剣・アルマス』があった。
「ソクラさん、この剣は僕が使っていた剣です。これをあなたに渡します。これは僕にとっても大切な剣です。いつか返しに来てください。立派な探索者になって。」
美湖が、剣を差し出すと、ソクラはそれを受け取る。
「はい、いずが、ぜっだい返しに行ぎます。」
その目からは大粒の涙を流していた。美湖は、ソクラを抱きしめ、
「大丈夫。きっとソクラさんなら、一流の探索者になれるよ。だから、焦らずに、自分の道をしっかり歩いてきてね。」
それから、ソクラが泣き止むまで、美湖はソクラを抱きしめていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
翌日、美湖たちは準備を終えて屋敷の前でユリカたちと別れの挨拶をしていた。
「じゃあ、ユリカさん、レイクさん、エリザさん。僕たちは行くから。この屋敷をお願いね。」
「ああ、美湖さん。絶対守って見せるよ。ただ、もしかしたら住人が増えてるかもしれないけど、いいよな?」
「うん、ユリカさんたちが認めた人たちならいいよ。じゃ、また会えるのを楽しみにしてるから。」
そういうと、美湖はユーナ、アリサ、スーリン、エイル、魔札の中にレミアを封じて、みんなを連れて屋敷を後にした。
「そういえば、ご主人様、アリアさんはどうされたのですか?」
ユーナが、アリアがいないことを美湖に尋ねる。
「ああ、アリアさんは、クランで待ってるよ。何でも引継ぎをしっかりしないといけないみたいでさ。クランで合流して、出発って感じかな。」
美湖はクランに向かいながら、道の端で開かれている露天に寄り道をしていく。
「あ、ご主人様ぁ。美味しそうなパンが打ってますぅ。一つ買ってきてもいいですかぁ?」
スーリンが、露天で販売していたパンを見て美湖に尋ねる。美湖は、許可を出し代金をスーリンに渡す。スーリンは、購入したばかりのパンをほおばる。
「んん~、おいしいですぅ。」
「まったく、さっき朝ご飯を食べたばかりじゃない。そんなに食べて太らないんだからうらやましいよ。」
美湖は、おいしそうに食べているスーリンを見て呆れながら微笑む。パーティーメンバーもそれを微笑みながら見ている。
クラン支部に着くと、アリアとアヤメが支部の前で待っていた。
「おお、来たな。アリアの準備はできているぞ。」
「おはようございます。美湖さん、皆さん。私の準備は済んでおります。」
アリアのいでたちもいつもの受付嬢の姿とは違っていた。魔法使いが来ているようなローブに、丈夫そうなマンと、先端に宝石のついた長杖を装備していた。
「?アリアさん、その恰好は?」
「ああ、そういえば皆さんは知らないんでしたね。私は、クランの受付嬢ですが、探索者としては、Eランクの実力のある水魔法師です。クラン証はないので確認はできませんが。」
「それは知らなかったですね。でも、頼りにしてますよ。」
「美湖さんたちほどの探索者がいるのに、私の出る幕なんてないでしょう。さて、目的地についてですが、美湖さんの目的が塔の攻略であることから、塔のある近くの町は、100階層を誇る塔を有する街、『リバーサイド』でどうでしょう。?」
『リバーサイド』は、大運河『ナール』のほとりにある街で、ラティアの町の2~3倍は大きい街である。大運河『ナール』は緩やかな流れで、氾濫も起こらないため、川魚の養殖なども発展している。また、町から数キロメートル離れた位置に、『アクエリアスの塔』がそびえている。
「『アクエリアスの塔』ですか...。」
(『ウーサーメイジョアー』、『アクエリアス』、この二つに共通する事柄は思い浮かぶけど、まだ、確定できないな。」
美湖は、少し考えるが、目的地については異論はなかった。
「わかりました。ユーナちゃんたちもそれでいいかな?」
メンバーに確認すると、
「はい、ご主人様。『リバーサイド』は『ナール』の恩恵で繁栄している街です。新鮮な魚が取れるため、魚の名産地でもあります。」
「私もいいぜ。アクエリアスの塔は、いまだ、半分も踏破されていない塔。腕が鳴るぜ。」
「私も異論ありません~。 『ナール』は流れも緩やかですのでぇ、水遊びもできそうですしぃ。」
「そうだな。私も問題ない。美湖殿の役に立てそうだし。そこらの魔物では物足りなくなってきたしな。」
と、みんなが賛成だった。
「というわけで、僕たちはこれからリバーサイドに向かいます。そこでしばらく活動しようと思います。」
「わかった。向こうにもクラン支部はある。向こうの支部長にも伝えておこう。道中気を付けていけよ。」
アヤメの見送りを受け、6人はクラン支部を後にした。
町の門に着くと、ソクラが『氷剣・アルマス』を持って待っていた。
「おはようございます。皆さん。」
「おはよう、ソクラさん。どうしたの?見送り?」
「はい、この剣、大切にします!絶対追いつきますからね。」
ソクラは、昨夜泣きはらしたのか、目元が晴れているが、すっきりした笑顔を見せている。
「うん、待ってるよ。僕たちは先に行くけど、約束だからね。その剣、絶対返しに来てね。」
美湖は、ソクラの頭をクシャっとなでると、5人を連れて街の門を出ていった。
「絶対、追いつきますから―――!!」
ソクラの、大きな見送りを背に受けて。
聖女の秘密と次の目的のあとがきで、二章は完結したといいましたが、
この出発の話を第二章の完結とさせていただきます。




