招待
美湖たちは、市場で食材を買い込み家に帰ってきた。ドアを開けると、
「皆、お帰りなのじゃ~!」
レミアが元気よくむかえてくれた。
「ただいま〜、レミアちゃん。今日はごちそうだよ!」
美湖は、飛びついてきたレミアを抱きしめる。レミアもうれしそうにされるがままになる。
「ではご主人様。私は料理を始めますね。」
ユーナは、買い込んできた食材を持って台所に向かう。スーリンもそれに続く。
「じゃあ、僕はソクラさんたちを呼んでくるよ。せっかくのお祝いなんだし、人数は多いほうがいいからね。」
そう言って、美湖は一人でソクラたちが経営している宿屋『安らぎの風』に向かった。『安らぎの風』は、依然、教会の司祭によって焼き討ちされたが、ラティアの町の補助もあり、何とか経営を再開できるように建築が始まっていた。数日の期間なのに、すでに骨組みが完成しており、あとは、壁を張っていく段階まで、建築は進んでいた。
「おーい、ソクラさーん!」
美湖は大きめの声で、ソクラたちを呼ぶ。すると、敷地の奥のほうから元気よく走ってくる小柄な人影が見えた。
「美湖さん!!いらっしゃいませ。」
元気に走ってきたソクラは、飛び切りの笑顔で出迎えてくれた。
「ソクラさん、今日は、僕の家に泊まりに来ない?今日、『ウーサーメイジョアーの塔』を攻略したから、そのお祝いをするんだ。どうかな?お母さんも呼んできていいよ。」
美湖はソクラに問いかける。するとソクラは、
「えっ!? いいんですか?行く!行きます!!」
と、凄い勢いで喰いついてきた。その顔はとても嬉しそうだった。ソクラは家の奥へ走っていき、
「お母さーん、ミコさんがご飯一緒に食べませんかって!行こ、行こうよ。」
すると、奥からソクラにつれられてサクラが出てきた。
「ミコさん、よろしいんですか?恥ずかしい話、ここ数日しっかりした食事を食べていませんので、申し出はすごく嬉しいんですが...」
「かまいませんよ。それに、お二人がこんな目に合たのも、僕達に原因があるようですし、少しでもお二人の力になれるなら、何でもさせて下さい。」
「ここがうちのバカが燃やしてしまったという宿屋ですね。」
美湖が言い終わるくらいで、後の方から女性の声が割り入ってきた。その人物は古いフードつきローブを着ておりフードを深くかぶっているため、ソクラ達にはその人物が誰かわからなかった。
「こんなところになんの用ですか?聖女様。」
「あら、聖女様だなんて他人行議はやめてくださる?気軽にクリスと呼んで下さいな」
と、フードを軽く上げ顔を見せる。
「「せ、聖女様!!?」」
ソクラとサクラは、クリスティナの登場に心底驚いている。
「あら、そんなに驚かないでくださいな。今日はお詫びをさせていただきたく参りました。この度は、わたくし共の教会員が、あなた方の経営する宿泊施設を焼き討ちしたこちに対し、深く謝罪申し上げたいのです。」
クリスティナは、表情と口調をただし深々と頭を下げた。その行動に、ソクラとサクラもいくらか平静を取り戻したようで、
「...どれだけ謝られても失った家は戻ってきませんし、あの時、私たちは大けがを負いました。ソクラは心に大きな傷を負ったのです。それに、美湖さんや、クランにも多大な迷惑をかけてしまった。失ったものが大きすぎるのです。しかも、焼き討ちした張本人は美湖さんが返り討ちにしてもういない。
どれだけ謝られても、私たちの気は収まりません。」
サクラは、静かな怒りを燃やす。
「そうだよ!!お母さんは、すごいやけどだったんだよ!私もけがをしたし、美湖さんやクランのみんなが魔法で直してくれなかったら、今頃は死んでたかもしれないんだよ!!」
ソクラも、感情を爆発させている。美湖は、そのやり取りを黙ってみていた。
「本当に、返す言葉もございません。どう繕うともあなた方の怒りを収めることはできないでしょう。私どもを許してくれとは申しません。ですが、せめて、償いをさせてください。」
クリスティナは、懐からきんちゃく袋と、一枚の札を取り出した。
「こちらの袋には、白金貨10枚が入っています。お金で解決できるとは思いませんが、どうかお納めください。
そして、こちらの札は、私が守護の魔法を込めた札です。こちらを対象に張り付けることで、経年劣化、外敵損傷から守ります。
あなた方が、教会に対して警戒心、恨みを持っていることは存じております。しかし、ご理解ください。このたび、あなた方を害したものは、教会の指示を無視し強行したのです。教会は、一般市民に対して危害を加えることはありません。いまさら、こんなことをいっても意味はありませんが...」
クリスティナは、苦虫をかみつぶしたような顔をして頭を下げる。
「もういいです。何を言われても、何をされてもあなた方を許すことはできません。それだけです。ソクラ、私は家でいろいろしてるから、貴女だけ美湖さんのところにお邪魔してきなさい。」
それだけ言うと、サクラは家の中に戻っていった。美湖、ソクラ、クリスティナはその場に立ち尽くしていたが、
「...何してくれてんの!?クリスティナ。せっかくのお祝いムードが台無しじゃん!!」
その静寂を打ち破り、美湖はクリスティナにつかみかかった。
「...と言われましても、私としては、被害を被られた方に、せめてものお詫びをしたく来たのです。タイミングが悪かったのは謝罪しますが。」
クリスティナは、美湖に謝った後、思い出したように、
「そうそう、美湖さんにも用事があったんです。今日話していたお詫びの件ですわ。先ほどこの町の教会支部で準備してきましたの。こちらですわ。」
そう言って、クリスティナはサクラに渡した巾着よりも少し大きめの巾着と、一振りの短剣を差し出した。
「巾着には、白金貨30枚が入っていますわ。それから、こちらの短剣には、わたくしの加護が施してあります。戦闘には全く使えない装飾用の短剣ですが、これを見せれば、ほとんどの教会員は反抗してこないでしょう。」
「なるほど、金銭と、聖女っていう後ろ盾ってわけ。」
美湖は納得したように答える。
「ええ、あなたは確かに強い。それに、あなたのメンバーもそれに勝るとも劣らない。ですが、世の中は非常です。あなたが対処できない状態を少しでもなくすことができるなら、私も協力いたしましょう。」
「どうして、そこまで僕たちの味方をしてくれるの?人間が一番じゃなかったの?」
「それに関しては、ここでは話せませんわね。どうでしょう。今日のお祝い、わたくしも参加させてくれませんか?そこでお話いたしますわ。場合によっては、そちらにもメリットがございますわよ。」
クリスティナはそこまで言って言葉を切った。
美湖は考える。
「この人、悪い人じゃなさそうなんだよなぁ。それに、僕と同じ趣味なら、問答無用でユーナちゃんたちを傷つけることはしないだろうし。何より、敵の最高幹部クラスだもんなぁ。」
「あの、美湖さん?心の声が駄々洩れですわよ。信用してくださるのはありがたいのですが。」
クリスティナが、頬を赤らめて伝えてくる。美湖も、恥ずかしいのか頬を赤らめ、
「まあ、いいよ。みんなは僕が説得するから。ソクラさん、こんな流れになっちゃったけどどうする。一緒にご飯食べる?」
美湖は気まずそうにソクラに向き直る。ソクラは少々不機嫌だが、
「行きます。せっかくの美湖さんの招待なんですから。それに、この人の話を私も聞いておきたいので。」
ソクラはそう言って、美湖の片腕にしがみついた。美湖は少し微笑み、
「じゃあ、行こっか。」
二人を連れて、家の方向に向かった。
「説得、どうしようかなぁ。」
「ですから、心の声が漏れてますわよ。」
いつも読んでくださってありがとうございます。
年内更新はこれを持って終わりとさせていただきます。
少女たちの異世界漂流記シリーズ
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