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少女たちの異世界漂流記~美湖の冒険~  作者: コウタ
聖なる闇
110/117

招待

美湖たちは、市場で食材を買い込み家に帰ってきた。ドアを開けると、


「皆、お帰りなのじゃ~!」


レミアが元気よくむかえてくれた。


「ただいま〜、レミアちゃん。今日はごちそうだよ!」


 美湖は、飛びついてきたレミアを抱きしめる。レミアもうれしそうにされるがままになる。


「ではご主人様。私は料理を始めますね。」


 ユーナは、買い込んできた食材を持って台所に向かう。スーリンもそれに続く。


「じゃあ、僕はソクラさんたちを呼んでくるよ。せっかくのお祝いなんだし、人数は多いほうがいいからね。」


 そう言って、美湖は一人でソクラたちが経営している宿屋『安らぎの風』に向かった。『安らぎの風』は、依然、教会の司祭によって焼き討ちされたが、ラティアの町の補助もあり、何とか経営を再開できるように建築が始まっていた。数日の期間なのに、すでに骨組みが完成しており、あとは、壁を張っていく段階まで、建築は進んでいた。


「おーい、ソクラさーん!」


 美湖は大きめの声で、ソクラたちを呼ぶ。すると、敷地の奥のほうから元気よく走ってくる小柄な人影が見えた。


「美湖さん!!いらっしゃいませ。」


 元気に走ってきたソクラは、飛び切りの笑顔で出迎えてくれた。


「ソクラさん、今日は、僕の家に泊まりに来ない?今日、『ウーサーメイジョアーの塔』を攻略したから、そのお祝いをするんだ。どうかな?お母さんも呼んできていいよ。」


美湖はソクラに問いかける。するとソクラは、


「えっ!? いいんですか?行く!行きます!!」


と、凄い勢いで喰いついてきた。その顔はとても嬉しそうだった。ソクラは家の奥へ走っていき、


「お母さーん、ミコさんがご飯一緒に食べませんかって!行こ、行こうよ。」


すると、奥からソクラにつれられてサクラが出てきた。


「ミコさん、よろしいんですか?恥ずかしい話、ここ数日しっかりした食事を食べていませんので、申し出はすごく嬉しいんですが...」


「かまいませんよ。それに、お二人がこんな目に合たのも、僕達に原因があるようですし、少しでもお二人の力になれるなら、何でもさせて下さい。」


「ここがうちのバカが燃やしてしまったという宿屋ですね。」


美湖が言い終わるくらいで、後の方から女性の声が割り入ってきた。その人物は古いフードつきローブを着ておりフードを深くかぶっているため、ソクラ達にはその人物が誰かわからなかった。


「こんなところになんの用ですか?聖女様。」


「あら、聖女様だなんて他人行議はやめてくださる?気軽にクリスと呼んで下さいな」


と、フードを軽く上げ顔を見せる。


「「せ、聖女様!!?」」


 ソクラとサクラは、クリスティナの登場に心底驚いている。


「あら、そんなに驚かないでくださいな。今日はお詫びをさせていただきたく参りました。この度は、わたくし共の教会員が、あなた方の経営する宿泊施設を焼き討ちしたこちに対し、深く謝罪申し上げたいのです。」


 クリスティナは、表情と口調をただし深々と頭を下げた。その行動に、ソクラとサクラもいくらか平静を取り戻したようで、


「...どれだけ謝られても失った家は戻ってきませんし、あの時、私たちは大けがを負いました。ソクラは心に大きな傷を負ったのです。それに、美湖さんや、クランにも多大な迷惑をかけてしまった。失ったものが大きすぎるのです。しかも、焼き討ちした張本人は美湖さんが返り討ちにしてもういない。

 どれだけ謝られても、私たちの気は収まりません。」


 サクラは、静かな怒りを燃やす。


「そうだよ!!お母さんは、すごいやけどだったんだよ!私もけがをしたし、美湖さんやクランのみんなが魔法で直してくれなかったら、今頃は死んでたかもしれないんだよ!!」

 

 ソクラも、感情を爆発させている。美湖は、そのやり取りを黙ってみていた。


「本当に、返す言葉もございません。どう繕うともあなた方の怒りを収めることはできないでしょう。私どもを許してくれとは申しません。ですが、せめて、償いをさせてください。」


 クリスティナは、懐からきんちゃく袋と、一枚の札を取り出した。


「こちらの袋には、白金貨10枚が入っています。お金で解決できるとは思いませんが、どうかお納めください。

 そして、こちらの札は、私が守護の魔法を込めた札です。こちらを対象に張り付けることで、経年劣化、外敵損傷から守ります。

 あなた方が、教会に対して警戒心、恨みを持っていることは存じております。しかし、ご理解ください。このたび、あなた方を害したものは、教会の指示を無視し強行したのです。教会は、一般市民に対して危害を加えることはありません。いまさら、こんなことをいっても意味はありませんが...」


 クリスティナは、苦虫をかみつぶしたような顔をして頭を下げる。


「もういいです。何を言われても、何をされてもあなた方を許すことはできません。それだけです。ソクラ、私は家でいろいろしてるから、貴女だけ美湖さんのところにお邪魔してきなさい。」


 それだけ言うと、サクラは家の中に戻っていった。美湖、ソクラ、クリスティナはその場に立ち尽くしていたが、


「...何してくれてんの!?クリスティナ。せっかくのお祝いムードが台無しじゃん!!」


 その静寂を打ち破り、美湖はクリスティナにつかみかかった。


「...と言われましても、私としては、被害を被られた方に、せめてものお詫びをしたく来たのです。タイミングが悪かったのは謝罪しますが。」


 クリスティナは、美湖に謝った後、思い出したように、


「そうそう、美湖さんにも用事があったんです。今日話していたお詫びの件ですわ。先ほどこの町の教会支部で準備してきましたの。こちらですわ。」


 そう言って、クリスティナはサクラに渡した巾着よりも少し大きめの巾着と、一振りの短剣を差し出した。


「巾着には、白金貨30枚が入っていますわ。それから、こちらの短剣には、わたくしの加護が施してあります。戦闘には全く使えない装飾用の短剣ですが、これを見せれば、ほとんどの教会員は反抗してこないでしょう。」


「なるほど、金銭と、聖女っていう後ろ盾ってわけ。」


 美湖は納得したように答える。


「ええ、あなたは確かに強い。それに、あなたのメンバーもそれに勝るとも劣らない。ですが、世の中は非常です。あなたが対処できない状態を少しでもなくすことができるなら、私も協力いたしましょう。」


「どうして、そこまで僕たちの味方をしてくれるの?人間が一番じゃなかったの?」


「それに関しては、ここでは話せませんわね。どうでしょう。今日のお祝い、わたくしも参加させてくれませんか?そこでお話いたしますわ。場合によっては、そちらにもメリットがございますわよ。」


 クリスティナはそこまで言って言葉を切った。


 美湖は考える。


「この人、悪い人じゃなさそうなんだよなぁ。それに、僕と同じ趣味なら、問答無用でユーナちゃんたちを傷つけることはしないだろうし。何より、敵の最高幹部クラスだもんなぁ。」


「あの、美湖さん?心の声が駄々洩れですわよ。信用してくださるのはありがたいのですが。」


 クリスティナが、頬を赤らめて伝えてくる。美湖も、恥ずかしいのか頬を赤らめ、


「まあ、いいよ。みんなは僕が説得するから。ソクラさん、こんな流れになっちゃったけどどうする。一緒にご飯食べる?」


 美湖は気まずそうにソクラに向き直る。ソクラは少々不機嫌だが、


「行きます。せっかくの美湖さんの招待なんですから。それに、この人の話を私も聞いておきたいので。」


 ソクラはそう言って、美湖の片腕にしがみついた。美湖は少し微笑み、


「じゃあ、行こっか。」


 二人を連れて、家の方向に向かった。


「説得、どうしようかなぁ。」


「ですから、心の声が漏れてますわよ。」








いつも読んでくださってありがとうございます。

年内更新はこれを持って終わりとさせていただきます。

少女たちの異世界漂流記シリーズ

来年もよろしくお願いいたします。

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