奴隷の説明
「...奴隷ですか...」
アリアの零した一言は、他人が聞けばどうということはないこと、しかし美湖の過去の記憶に刺激を与えたらしい。
「っ?どうしたんですか?怖い顔をしていますよ。」
「ああ、すみません。少し嫌な過去を思い出してしまいまして。僕は小さいころ、父親に奴隷のように使われていたことがあったので。」
美湖は、悲しげな、しかし怒りをたたえた瞳で答えた。
「あ、すみません、変なこと言って...。しかし、奴隷といっても待遇はそんなに悪くはないと思いますよ。衣食住は持ち主の義務ですし、怠っていた場合は、下手すれば犯罪者となる場合がありますから。」
「...奴隷を買うのにはどうしたらいいんですか?」
「そうですね、この建物の裏に、クランが管理している奴隷商があります。そちらに行かれるのが手っ取り早いかと。」
「いろいろとありがとうございます。早速行ってみます。」
美湖は、クラン支部を出ていき、裏手に回った。そこには、大きな木製の建物があった。看板には、『スレイブ』と書いてある。
「すみません。少しお話を聞かせてください。」
玄関で、少し大きめの声で訪問を示すと、奥のほうから一人の男性が現れた。すらっとした長身に、びしっとした燕尾服を着ている。
「いらっしゃいませ、お客様。本日はどのようなご用件で?」
「はい、奴隷の購入を考えておりまして、よければ、話を伺いたくて来ました。」
「そうですか、それで、聞きたいこととは?」
「ここにいる奴隷の人たちはどのような経緯で奴隷になったんですか?」
美湖は、少し怒気を孕ませて奴隷商に尋ねる。
「...ふむ、そうですね。これは、どの奴隷商でもいえることですが、基本的に、奴隷とは、犯罪奴隷と、借金奴隷となります。犯罪奴隷とは、犯罪を犯した罪を、奴隷落ちという罰であがなうものです。借金奴隷とは、村や、各家族が、税金を払えなくなった時に、身売りを行い、その税金代わりにされたもののことです。」
「では、非合法で、奴隷にされることはないんですね?」
「いえ、残念ながら、非合法な奴隷というのも存在しています。村や、集落からさらわれてきた者が、闇市で売られてしまうのです。そうなれば、ほとんど解放されることもなく、裏で売り買いされながら、心を壊されてしまうでしょう。もちろん、非合法な奴隷は犯罪です。人さらいと、それを販売したものは、よくて奴隷落ち、最悪は死刑となります。それに、クランが管理する奴隷商は、すべて犯罪奴隷、もしくは借金奴隷です。非合法奴隷は見つけ次第開放し、クランが自立できるまでは保護しています。」
「わかりました。後、奴隷の金額を教えてください。」
「だいたいは、銀貨50枚から、上は天井知らずですね。こればかりは、こちらも商売ですので、不愉快でしょうが、お許しください。」
「わかりました。少し考えてきます。お話を聞かせて頂いたありがとうございました。」
「いえいえ、またのご来店をお待ちしておりますよ。」
奴隷商は、微笑みを浮かべながら美湖を見送る。美湖は、そのまま、宿泊施設が集まる区画まで来ていた。
「とりあえずは、今日寝るところを確保しないと。お、ここなんかよさそう。」
美湖が見つけたのは、『安らぎの風』という宿屋だった。