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少女たちの異世界漂流記~美湖の冒険~  作者: コウタ
異世界生活スタート
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プロローグ

「起立、礼、ありがとうございました。」


 終礼が終わり、クラスメート達が教室から我先にと出ていく。放課後のアルバイトや部活動に精を出すのだろう。そんななか、一人の少女-従 美湖-も帰える支度をして教室を出た。彼女は、教室を出ると下駄箱に向い靴をはきかえる。玄関を出ると校門までの20m程の通路をたくさんの生徒が歩いていた。美湖も半分位步いたところで、1人の男子生徒に呼び止められた。


「お~い、従、少し話があるんだが、いいか?」


「...ん、山田君?何?」


 その生徒は美湖のクラスメートの、山田明彦だった。明彦は、クラスの中では目立つグループに属しており、美湖とはあまりかかわりがなかったため、美湖は少し怪訝な視線を向けてた。明彦は、それでも自分の頼みを口にする。


「...悪いけどここじゃ話しにくいんだ。校舎裏まで来てくれないか?」


 美湖は少し考えた。山田明彦は、男子の中でも大柄である。いくらクラスメートとはいえ、それ程親しくない男子と一緒になるのは抵抗があった。しかし、校舎裏はそれなりに人通りがあり、又、生徒指導室も近くにある為、安全だろうと判断した。


「いいよ。行こ」


 二人は、下校する生徒や、部活動にむかう生徒に紛れ校舎裏に移動した。さすがに生徒はまばらだが、いないことはないし、生徒指導の先生たちも生徒指導室にいるみたいだった。


「それで、話ってなに?」


 美湖はそう切り出した。しかし明彦はなかなか、話を切り出さない。


「ねぇ、用がないなら、僕は帰りたいんだけど...」


 明彦は、何回か深呼吸してから意を決したように


「従 美湖さん、貴女が好きです。付き合って下さい」


 明彦は、美湖に告白をした。そして彼女の顔をうかがう。美湖は困り顔でフリーズしていた。


「...えっと、どうして?山田君は、秋穂の彼氏だよね?秋穂はどうしたの?」


「...あいつとは別れた。正直、あいつは重すぎるし、なんか怖いんだ。」


「それで、どうして僕なの?」


 美湖は少々疑問だった。美湖は、自分は明彦とそんなに絡んだことはない。クラスでも地味な方で、クラス男子とあまり話したこともなく、教室では、自分の机で本を読んで過ごしている。それに秋穂の方がルックスもスタイルもいい。正直選ばれる理由が解らなかった。


「従さんさ、毎日花の水替えてるでしょ?この間、見かけたんだけど、そのときの従さん顔がさ、何というか、心ひかれたんだ。この人は優しい人なんだなって。」


 美湖は驚いていた。花の水替えは自分が好きでしていることであり、褒められるのはやぶさかではないが、そんな細かいところを、誰かに見られているということが意外だった。


「...山田君の告白は嬉しいよ、でもそれには応えられない。ごめんなさい。」


 美湖は告白を断った。


「...理由をきいてもいいか?」


「ごめん、これは僕の問題なんだ。自分で解決しないと僕は先に進めない気がするんだ。だから、それが解決したら、その時に、まだ、君の心に僕がいれば、その時はもしかしたらOKするかもね。」


 美湖は、明彦に答えると、はかなげな笑顔を残して、校舎裏を後にした。



 その日の夜、美湖は夢をみていた。

それは、彼女にとって悪夢だった。

美湖の目の前には1人の中年男性とその男に罵られ、いたぶられる女性の姿があった。


「お父さん、もうやめて!これ以上お母さんを虐めないで!!J


 そう、その2人は彼女の父母の姿だった。父親は美湖の言葉に反応せず、母親を殴り.蹴り、罵り、そして母親が苦痛に苦しむ様そ見て、狂気に満ちた笑みを顔に張りつけていた。


「もうやめて!!J


何度も何度も訴えるが一向に耳を貸さない父親、痛みに耐えるだけで精一杯の母親。それを見続けさせられる娘、これがこの家族の歪な形であった。

その光景がどれくらい続いただろうか、母親が気絶してしまった。


「ったくよぉ、反応しねぇんじゃおもしろくねぇな。...まぁいい、おもちゃはもう1個あるしなぁ。」


父親は反応しなくなった母親には目もくれず、今度は、美湖の方に向かって来る。美湖は、動けないまま、ただ震えていた。そして、父親が手を振り上げたところで彼女の視界が薄くなり、消えた。


「...こ、美湖?大丈夫?うなされていたみたいだけど」


 そこには、夢に出ていた母親の姿があった。心配そうに見つめている。その顔を見て、ミコの瞳から涙が流れた。それは、彼女の精神を決壊させるきっかけとなり、彼女は大声で泣き始めた。


「怖かった。ぐずっ、夢にあいつが、うえっ、お父さんが出てきて、ひぐっ、お母さんを殴って、うわーーーん!!」


 美湖は、そのまま、泣き疲れて眠るまで、母の胸の中で泣き続けた。


 美湖にはかつて父親がいた。彼は、美湖が物心ついた時から、母親に常日頃暴力をふるっていた。美湖は、その父親の、残忍な笑顔しか知らない。彼が美湖に、やさしい笑顔を向けることはなかった。母親も、日ごろの暴力に耐えかね、美湖が小学校に上がったくらいで、民事裁判を起こした。結果は当然、父親の有罪判決となり、父親は、美湖の親権をはく奪され、美湖と母親に近づかないことを告げられ、4年の懲役刑となった。

 その4年の間に、母親は美湖を連れて別の地方に引っ越した。そこで、女手一つで美湖を高校生まで育ててくれた。しかし、過去の記憶というのは脳にしみついていて、時々、どちらか、あるいは双方が父親が夢に出てきて、暴力を振るわれる光景を目にしては慰めあいながら頑張って生きてきたのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ふぁ~~あ。」


 翌日、美湖は目をはらして登校した。歩きながら、少しふらふらしている。寝不足なのだろう。


(あんな夢久しぶり何見たな。てか、絶対あいつに告白されたせいだ。)


 本人の知らないところで、明彦の好感度はダダ下がりであった。


 午前中の授業が終わり、昼休憩に入った。みんな親しい者同士で昼食を食べる中、美湖は一人で食べている。親しいものがいないわけではないが、そんな人たちはほとんどが男子も同じ輪の中で食べている。男性恐怖症が克服できていない彼女にはなじめない空気であった。


(そういえば、山田君来てないのかな。会ったら文句の一つでも行ってやろうと思ったのに。)


 昨日の夢のことを、まだ根に持っているのか、ある意味で明彦に会いたいと思った美湖だったが、食事が終わり、読書をしていると声をかけられた。


「従さん、ちょっとついてきてくれる?」


 声をかけてきたのは、昨日告白してきた明彦の元カノの、矢岬 秋穂だった。


「うん、いいよ。」


 美湖は、二つ返事でついていき、屋上まで連れてこられた。


「...ねぇ、従さん、どうして連れてこられたかわかるかしら。」


「うん、だいたい想像はついてるよ。昨日、山田君が君を振って、僕に告白しに来たことでしょ。」


 屋上には、何とも言えない重い空気が漂い始めた。


「そうよ、どうしてあんたなの!?私のほうが見た目も、彼への愛情も勝ってるのに!」


「僕もそういったよ。秋穂のほうが僕よりも素敵だって。それに、僕は、彼を振ったんだ。」


「...え?」


「そう、振ったんだよ。僕は今誰とも付き合う気にはなれない。そう言ってね。ごめん、この話はこれで終わりにしてくれるかな。」


 そういって、振り返り屋上を後にしようとした美湖。しかし、『グサリ』という擬音と、とてつもない痛みを横腹に感じ、慌てて振り返る。そこには、血走った眼をして、自分の腹にナイフを突き刺してくる秋穂の姿があった。


「なに、あなた、何様?彼の告白を振った。彼からの告白を?図に乗らないでほしいわね。」


「っなにを?」


「あなたが彼を振ったってことは、その彼に振られた私は、あなたよりも劣っているということでしょう。そういいたいなら素直にそう言いなさいよ。」


 秋穂は、狂ったようにわめきながら、美湖の腹部に刺さったナイフを押し込んでくる。


「ちがっ、そんなこと思ってない!」


「嘘おっしゃい、それしか理由がないじゃない。彼が私を振る理由が。あなたが、あなたが悪いのよ。彼を誘惑したから。」


「ねぇ、ひとつ教えてくれないかな。山田君はどうしたの?今日は登校指定何みたいだけど。」


 美湖は、ひとつ嫌な考えが浮かび、秋穂に問いかけた。その答えを聞いて、彼女は絶句した。


「殺したに決まっているじゃない。私を振って、あんたなんかのところに行った、彼が悪いのよ。でも、安心して?彼の体は私の部屋に保管してあるわ。これからは、ずっと彼と暮らしていくから。」


 秋穂は、狂ったように話しながら、美湖の体中を刺しまくる。ついには心臓を、首を、人体の急所といわれる部分をすべて刺していく。もう、美湖には、言い返す力も、自身の体を支える力もなく、冷たい屋上にその身を倒した。秋穂は、倒れた美湖に馬乗りになり、さらに刺していく。


「あははは、あんたがいなければ、彼は私の者だったのよ!!あんたさえいなければ、私たちは幸せだったのに!!邪魔者は消えなさい。ハハハハハ...!」


 ついに、秋穂は壊れたように笑いながら、美湖を刺し続ける。その笑い声を聞きながら、美湖の意識はどんどん薄くなっていく。


(ああ、お母さん、ごめんなさい。僕、先に行くことになっちゃったかな。親不孝な娘だったね。)


 母よりも先に死んでしまうと自覚した彼女の頭に浮かんだのは後悔ではなく、自嘲の笑みだった。


(僕の人生、ろくなものじゃなかったな。)


 その思いを最期に、美湖は意識を手放した。


「ハハハハハハハハハハハハ」


 それからも秋穂は、壊れたように笑いながら、冷たく動かなくなった美湖を刺し続けていた。




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