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ガンスリンガーの矜持

戦乙女の戦線

作者: 梨乃 二朱

 ひたすら強い女の子の戦いを、ゲームのトレーラー風に書いてみました。

 いやはや、趣味趣向が駄々漏れですね。

 ホバー走行を行う兵員輸送用車輌の上部。そこに備え付けられた『FF M22』重機関銃を手繰り、『12.5×90mm 特装弾』という大口径機関銃弾を怒濤の如く撃ち放つ少女が一人。

 名をクリスチーヌ・リンカーン。

 白い頭髪に幽鬼のように白い肌をし、それと相反するように掛けられた黒いサングラスが特徴的なアメリカ人の少女。白い肌を際立たせるような白い僧服を着込んだ眉目秀麗の少女は、足下に群がる槍、剣、弓を主装備とした甲冑兵士へ無慈悲に銃弾をお見舞いする。


 方やマケドニアの軍勢。

 方や武田騎馬隊。

 円卓の騎士も居れば、どこぞの独眼竜も見える。かと思えば飛竜に跨がり空を自由に飛び回るお伽噺の騎士まで居る。

 それを指揮するは、フランスの救世主として名高いオルレアンの聖女か。

 正しく英雄、英傑の集うこの『ヴァルハラ』に於いて、クリスはたった一人で善戦し続けていた。


 嵐のような重機関銃弾は騎馬隊を薙ぎ倒し、飛竜隊を蚊のように撃墜し、歩兵の群れを殲滅する。

 やがてクリスが機体から飛び降りたのは、単に無人輸送車輌が行き止まりにぶち当たり動きを停めたからか。それとも車上から鴨撃ちを楽しむのにも飽いた故か。


 何れにせよ、クリスは重機関銃を車輌から取り外し地に足を付ける。

 まるで西暦時代に勃発した人類史上最悪の戦争と謳われる第二次世界大戦時期の塹壕のような場所。それにしては道幅が広い戦場に降り立った純白の尼僧。

 彼のシスターは首から下げた金色の十字架を指で恭しく掴み上げると、その交点に短い口付けをする。「Amen」と呟いて。


「我は、我こそは神罰の地上代行者。我の使命は神に仇為す愚者を抹殺する事なり。例え英霊と言えど過去に死した怨霊ならば、容赦はせぬぞ」


 そして吹き荒ぶは銃弾の嵐。

 少女の身で在りながら、荒れ狂わんばかりの重機関銃を腰だめに難なく御す姿は何と説くか。

 槍兵の一団がクリスを串刺しにせんと突撃するが、無惨にも瓦解していく。

 ただの鉄屑である鎧兜を銃弾は容易く貫通し、その内奥に隠された肉片を千切っては、英霊の命とも言える核を破壊する。


 しかし、やがては弾尽きるのが通常兵器の重機関銃。

 迫り来る脅威を粗方撃破したクリスは、弾切れを告げた重機関銃をあっさりと捨ててしまう。これにて丸腰と見た敵兵は好機と取るが、彼女は我先にと目前まで迫り来ていた剣士の刃を片手で白刃取り、「ふっ!」とまるで息を吐くような掛け声と共にへし折った。

 それでは終わらず、終わるはずも無く、立て続けに空いている片手に拳を作ると、剣士の腹部へ貫くような空拳を繰り出す。

 たった一発の拳打。

 しかし、剣士はその一発で噴血砕身。事切れた。


 そして矢継ぎ早に徒手空拳を繰り出し、次々に敵兵をほふって行く。

 頭蓋を壊し。

 頸骨を砕き。

 心臓を潰し。

 丸腰にも関わらず、重機関銃を装備していた時と同等かそれ以上の奮戦を見せるクリス。女だてら、見事の一言に尽きる近接戦闘である。


「我が身こそが武器なれど、うぬらにはこれで十全と見た」


 そう宣言するや、まるで虚空より取り出されたかのように右手に出現した漆黒の自動拳銃。その銃先に施した刃が、ぎらりと威圧するように光る。

 『SIG sauer GSR』の名前を冠したセミオートマチックピストルを呼び出した僧服の少女は、一呼吸の内にマガジンに納められた八発の銃弾を撃ち放った。


 放たれた八発の『.45 ACP弾』は、八人の騎士を確実に撃ち倒す。

 それを確認するも束の間、直ぐ様弾倉を排出するや、やはり何もない空間から新たなマガジンを左手に呼び出し素早く装填を行う。


 これがクリスの『適性銃器』だ。

 『コルト M1911』、俗に『コルトガバメント』と呼ばれる大型拳銃を、SIG ARMS社がコピーした物。高品質に同社らしい角張ったデザインをし、何よりアクセサリーレールを備えているところが最大の相違点だろう。

 元が『コルトガバメント』だけあって発砲時の反動は大きいが、そこはそれ、重機関銃を単身で御し切るクリスだ。この程度の反動は片手で御し切っていた。


「やはり最後に頼りとなるものは、自身の腕と――――『適性銃器』のみ、か」


 一人ごち、背後から斬りかかる侍の首筋に銃剣を振るい、一息に動脈を切り裂く。

 そのまま身を低く保つと、まるで這い回るように敵を蹴散らしていくクリス。

 目に付く敵を銃弾を撃ち込みながら。

 銃剣で切り裂きながら。

 クリスは歩を進める。












 複数の銃声が木霊する塹壕窟内に、火炎放射器で全てを焼き付くさんと奮闘する少女が一人。

 名をチコ・アジャーニ。

 砂漠戦仕様の迷彩服にフラグジャケットやヘルメットで身を固め、ブルーの偏光レンズと黒いマスクで顔のほとんどを隠したフランス人の少女。旧世紀のフランス軍の標準装備を施した女兵士は、小銃や突撃銃で武装した兵士を消し炭にしていく。


 方や大日本帝国陸軍。

 方やフランスのレジスタンス。

 アメリカのデルタフォースが居れば、イギリスのMI5の姿も見える。

 それを指揮するのは、第三帝国の総督か。

 英霊も特殊部隊と呼ばれた兵士に囲まれながら、たった一人で対峙する少女は意に介さず奮戦する。


 腰だめに引っ提げたタンクから伸びるノズルを両手でしっかりと保持し、火炎を絞り出すチコ。『FF M2FT』火炎放射器の威力を惜しみ無く発揮する女兵士は、音速を超える鉛弾をも瞬時に熔解させながら敵兵の体を、脂肪から臓腑から骨髄から融かして尽くす。

 それだけの熱量に脅かされれば、如何に英霊と言えど洞窟内での戦闘は不利と見るだろう。

 旧世紀では天下無双の特殊部隊と言われていた兵士達が、追い立てられるように塹壕窟の外へと飛び出して行く。


「逃がしはしません! 悪鬼共め!」


 気高く言葉を吐きながら、チコは手近な『エインヘリアル』を何物か分からぬ熔解物へと変えて行く。

 例えSEALSであろうと。

 例えベトコンであろうと。

 例え幼い少年兵であろうと、一縷の差別無く燃やして融かして無力化していった。


 やがて誘われるように洞窟の外へと足を踏み出した女兵士は、思わず身をすくませた。

 流石にこれを融かすのはキツいか、と胸中で嘲笑するも束の間、全速力で右手に備えられたバリケードの影へ滑り込んだ。


 直後、怒濤の如く唸りを上げる銃声。

 コンクリートで固められたバリケードを穿たんがばかりに激突するライフル弾。

 総勢百人は居よう集中射撃を受けるチコは、まだ燃料を半分以上残した火炎放射器を敵方へ投げ付けるように捨てる。それが丁度中空で銃弾を受けた瞬間、激しい爆発が一帯を襲った。


 数千度に熱された大気。

 マグマの如き熱を蓄えた空気は、一番近くに居た英霊を熔解させる。

 しかし、それで敵軍を葬れるわけではない。勿論、チコとてそんなことは百も承知である。


 目的はあくまで火炎による目眩まし。

 本命は別にある。


「この程度で私を圧倒出来るとお思いで?」


 やがて火炎が晴れた先に、佇むはフランス軍兵士の少女。

 その手には、一挺の軽機関銃。


 『Mk.48 Mod.0』の名を持つそれは、俗にミニミと呼ばれる『FN MINIMI』の改良型。

 これは旧世紀にて『5.56×45mm NATO弾』の威力に不安を感じてきた頃、アメリカ特殊作戦軍の要請で開発された『7.62×51mm NATO弾』を使用する分隊支援火器である。

 分隊支援も何も一人きりで戦場に立つチコには支援するような分隊など存在しないが、こういう対複数戦では重宝している。何よりこれが、チコの『適性銃器』であった。


「さぁ、地獄へお送り致しましょう――――!」


 怒号と共に唸りを上げる機銃。

 右から左へ。

 まるで薙で草木を刈り取るかの如く、敵が倒させて行く。


 跳ね上がる銃身を女の細腕で御し切って。

 それでいて照準は粗末にならず、一発一発を無駄にせず敵をほふっているという。

 正に神業。

 偏に『適性銃器』だからという理由だけで、これ程精確な弾幕を張る事は出来ないだろう。


 銃剣を備えた小銃を構え突撃を敢行する兵士を撃ちながら。

 高台から狙撃を行うスナイパーを制圧しながら。

 チコは歩を進める。











 何処からか立ち込める霧を振り払うが如く、日本刀を振るう少女が一人。

 名を瑞木メグミ。

 怪奇な鮮血で汚れた白いカッターシャツに黒いビジネスパンツを履いた日本人の少女。オレンジレンズのサングラスを掛けたキャリアウーマン風の女侍は、迫り来る魑魅魍魎の数々を一刀の下、両断して行く。


 方やゾンビ。

 方や合成獣(キメラ)

 狼男も居れば、ドラキュラのようや創作物の化物の姿も見える。

 それを指揮するのは、九尾を持つ女狐か。

 この場に於いては地獄絵図を体現したような戦場の中で、メグミは孤軍奮闘の勇姿を見せていた。


 刃渡り二尺三寸、重さ千七百グラムの打刀をか細い女の身にて自在に手繰り化物の軍勢を斬り伏せて行く。

 戦力比にして一対百。

 意思の無い小物なれど数が多ければ、普通は苦戦して然るべき。


 しかし、メグミは圧倒的不利を諸ともせず。

 たった一本の打刀のみで、形勢を徐々に逆転していっている。


「フッ、私も過小評価されたものだ。こんな物は雑兵の相手。私の手を煩わせないで欲しい」


 メグミは高飛車に嘯く。

 群がるオークを斬り裂いて。

 猛進の牛鬼を両断して。

 ドラキュラの心臓に刺突を入れて。


 最早、どちらが化物か分かりはしない。

 腐敗した体を引き摺るゾンビや様々な動物が合わさったキメラよりも、血塵に汚れながらも華麗に舞う花も恥じらうような美少女を化物と評価せずして何とするか。


 しかし、地上に於いては無敵の剣技を見せるメグミだが、上空を自在に泳ぐガーゴイルだけは(かち)の彼女にはどうしようも無かった。

 地面を這うことしか出来ぬ女侍を嘲笑うが如く、遥か天空より手槍の投擲を行う悪鬼の群。それを刀で防ぎ、かわしながらメグミは舌打ちを一つ。


「面倒な。けど、そこまで届かないと思ったら大間違いだ」


 そして前記の二人同様、メグミの片手に一挺の小銃が呼び出される。

 『Remington RSASS』自動小銃。『7.62×51mm NATO弾』を使用弾とする『コルト AR-10』を基に、レミントン社が開発したカスタムセミオートマチックライフル。ラピッドファイアが可能な狙撃銃をコンセプトとして開発された本銃の有効射程は一キロ。

 つまり、精々が百メートル上空のガーゴイル等、的撃ちも同然だった。メグミは口の端に微笑を刻みながら、セーフティを外し射撃体制を整える。


「笑って笑って……はい、チーズ」


 マウントレールに備えられた高倍率テレスコピックスコープを覗き込む、事などせず。

 そのスコープの右側にオフセットされたBUIS(バックアップアイアンサイト)を利用して。

 日本刀を左手に持つが故に小銃を右手のみで保持したまま。

 メグミはラピッドファイアもかくやというほどのスピードで、遥か上空へ『7.62×51mm NATO弾』をばら蒔く。


 そんな適当な射撃は、端から見れば数撃ちゃ当たるの神頼み、運頼みにしか見えないだろう。

 しかし、二十発入り弾倉が空になった時、二十体以上のガーゴイルが天空より地面に叩き落とされていた。


 驚異の狙撃能力。

 正しく神業。

 メグミは百発百中以上の射撃能力を披露したのだ。


「ったく、私を殺したければ核兵器でも用意することだ。もしくは真性の神様か」


 弾倉を再装填しながら、メグミは詰まらなさそうに溜め息を漏らす。

 狙撃の隙を突き襲い来る魔物を斬りながらとなると、果たしてその業は神の域すら超越し得るか。


「何れにしても、お前達じゃ役不足も甚だしい」


 上空のガーゴイルを狙撃しながら。

 地上の魑魅魍魎を斬り伏せながら。

 メグミは歩を進める。











 こうして孤軍奮闘しながら三人が辿り着いた先は、一件の小さな診療所であった。そこには少女が一人。

 名をアオコ・ヴィルヘルム。

 金色の長髪を後ろで編み込み、真っ白な白衣を返り血で赤く染めたドイツ系日本人の少女。今時は地味子ですらしないような黒縁の丸眼鏡を掛けたこの世のもの成らざる美貌を携えた女医は、自身の『適性銃器』である『H&K MP7』短機関銃を傍らに、薄汚れた担架の上に腰掛けて優雅に三人の少女を待ちわびていた。


 方や旧世紀の騎士と戦うアメリカ人少女。

 方や旧世紀の兵士と戦うフランス人少女。

 方や旧世紀の化物と戦う日本人少女。


 それらを一望しながら。

 それらを駆逐する少女らの腕前を、時には柏手を打って喜びながら。

 自身に迫り来る脅威を足蹴に、アオコは待ちわびていた。


 そして三人が。

 クリスが診療所の玄関を蹴破って。

 チコが診療所の窓を割って。

 メグミが診療所の壊れた屋根から飛び降りて。

 それぞれが『適性銃器』の銃口をアオコに向ける様を、さも愉快そうに出迎えた。


「嗚呼、美しい! 貴女達は私の最高傑作よ」


 眼鏡の奥に覗く日本人らしい焦げ茶色の瞳を爛々と輝かせながら、三つの脅威を歓迎する。

 然もありなん。

 彼女らがアオコを敵視するのは、当然の事であった。


 何故なら彼女こそ、このドイツ系日本人の少女こそが。

 この事態を引き起こした諸悪の根元であるからだ。


 彼女は『ヴァルハラ』の『エインヘリアル』を呼び込んだ戦犯者である。

 彼女は『適性銃器』を開発した発明者である。

 そして彼女こそ、『銃器使い』を世に産み落とした大いなる母であった。


 希代の天才科学者。

 人類史上、類を見ないテロリスト。

 世紀の大悪党にして救世主。

 それがアオコ・ヴィルヘルムの正体である。


「ゲシュタポめ…………」


 チコが小さく言い捨てる。

 他の二人もアオコへ銃口を油断無く向けたまま、静かに殺意を立ち上らせる。


「さて、ガールズ。次に私達が相手取るのは、こいつらよ」


 敵対する三人など意に介さず、アオコは背後の窓を指差した。

 他のどの窓よりも大きく間取りされた、ガラスなど当に打ち割られた大窓。その向こうに広がるのは、今までに見たことの無い生命体だった。


 混沌が居る。

 悪逆が居る。

 恐怖が居る。

 あれこそは人類史に記される事の無かった生物。或いは神。

 幾度も文明を破壊してきた厄介者。

 災厄の具現体。

 死、そのものなのであろう。


 三人は顔を見合わせ、誰からともなく大窓に写る怪異へと照準を変える。それを見届けたアオコも『MP7』を手にし、窓の向こう側に群がる暗黒へ真っ向から対峙する。


「神の思し召しのままに。Amen」


 クリスが祈る。


「何であろうと屈しはしませんわ!」


 チコが奮起する。


「今度のは、わりと楽しめそうだ……」


 メグミが武者震いをする。


「諸君、この私に存分に実力を見せ付けなさい」


 アオコが不適に笑う。


 果たしてこれら人成らざる邪悪なる神に、人として生を受けた者が敵うのか。

 そんな弱気な考えを持つ者など、この中には居なかった。










 これが『第一次ヴァルハラ侵攻作戦』の一幕。

 この場に集いし四人の少女こそ、後に語られる事となる戦乙女である。

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