裏の世界
修正箇所は多いですよ、きっと。何故なら・・・・(一番下に続く)
これは、知っているようで知らないあの公園に来る、数時間前のこと。
それは、偶然の出来事が集まったに過ぎなかった。
目の前の世界が、唐突に、突然に、変化した。
非常識な世界に紛れ込んだ、なんて、ゲームとか、漫画とかだけの話だと思っていた。
・・・・まさか現実に起こるなんて、思いもしなかった。
キッカケはおそらく、この、私の左手に握られた、この薄桃色の携帯端末《ECT》だ。
この場所に来る前、私はあるゲームをしようと、自分の部屋にあるベッドの上でECTの電源を点けた。
『 Eternal Connect Thinker 』・・・・略してECTである。
私の知り合い、とでも言えば良いのだろうか、その人が、偶然開発した超次世代型携帯端末だ。
性能は従来のものより大幅に効率アップしているし、新機能だってある。
そして、このECTの専用ゲームが、おそらく、キッカケになったのだと思う。
ゲームの名は『 Joke Game Online 』―― 通称『冗談遊戯(冗談遊戯)』と呼ばれるゲームの事を指す。
きっと、いや、絶対的に、これが原因だ。
やはり夢なのか・・・・いや、証拠なら、ある。―― この異常な世界に、何処となく見覚えがあるのだ。
来てから5分は経過していた。なのに、私はその5分の間、何もせず、その場でキョロキョロとせわしなく首を回していただけで、言葉なんて、発せるはずが無かった。
「・・・・何、これ」
やっとの事で出てきたのは、既に今更感を漂わせ、におわせる、場違いではないし、時代遅れでも無いけれど、微妙な一言としか言いようの無い言葉だけだった。
「・・・・」
また言葉を失いつつ、現在の状況を把握する為、呆然とせずに周りを見渡した。
フワフワしたベッドの上に、私は座っている。何故か、正座で。
ベッドの傍には昔のドラマにある卓袱台みたいな形の、ガラス製テーブル。中古の割に綺麗。
ドアは木製で、近くに木製の本棚がある。数々のお土産品がその2/3を埋めている。
そして窓の傍には机。くるくる廻る椅子で、昔はよく遊んだっけ。
で、この特徴から察するに――
―― ここ、私の部屋?
疑問系になる理由は、すぐ傍にあった。
私の部屋って、桃色、オレンジ、白、黄緑っていう、いわゆる鮮やかで明るい色で統一されている部屋、なのだけれども、これはそのキャッチコピーを完全否定、完全無視してしまっている。だって・・・・
黒と白しか無いのだもの!
黒い背景を細く白い線で区切ってあるだけの、全く遠近感の無い平面的な空間。でも間違い無く、此処は私の部屋だ。そもそも私は、こんなことになる直前までベッドに座っていたのだから、そうでなければ更に混乱の度合いが上がっていただろう。
とてもじゃないけれど、信じられなかった。やっと回転し始めた頭は、何故か「違う島かな?」なんて、ありえない事を考えている。
私が住んでいる青桐町は、虹尾島という名の島の中にある7つの町の1つ。海上に架かる橋を走る汽車と、海底トンネルを走る列車でしか『他の島』へ行く事の出来ない、この世の何処かにある九十九列島、その内の一島だ。ちなみに、九十九は『きゅうじゅうきゅう』じゃなくて『つくも』と読む。
「・・・・あ」
そうしてやっと回転スピードを上げ始めた私の脳は、とある1つの解答を引き出しから引っ張り出した。それは言葉ではなく、とある見慣れた映像。
今から約6年前、この世界の科学を軽く10年以上進化させたと言われる、超次世代型携帯端末ECTが世間に出回るほんの少し前の事。私がまだ6歳の時に、この携帯端末が私の元に届いた。兄妹の知り合いから誕生日プレゼントとして贈られたそれが、このECTだったのだ。
当時はこれの凄さが理解できなかった。お子様用の携帯電話すら買ってもらえない年齢だったので、その前に出ていた物がどのような物なのか、皆目見当も付かなかったからだ。
小さな脳の中で『これは凄い物だ』という言葉が暗示のようにグルグルと脳内を這いずり回った。離れない暗示がやがて目的となり、何が『凄い』のかを調べようと思った。調べると、ただ調べてみても、科学とやらをかなりの短期間で、かなり進歩させたらしい、という事ぐらいしか、分からなかった。
進歩させたのはどうやら私の『お兄ちゃん』と同じ年齢の人で、そして2年前、違う町から青桐町に移り住む事になって、今私とその人は、先輩と後輩の関係に当たる。
まるで誰かに仕組まれた陰謀のように、偶然が重なり合って私に繋がる感覚は、不思議だった。どこもかしこのどこもかしこも全部が全部私に繋がって、そのまま左右上下に振り回される。挙句に、気が付いたらいつの間にかやりたい事が出来ずに時間が過ぎているのだから、後悔ばかり。
そんな私のこんがらがった脳内から引っ張り出されたのは、今見ている風景と同じ、黒い背景が、白くて細い線で区切られているだけの、平面のようで立体らしい空間。
それはいつも、ECTの画面に映し出されていたものと同じだった。
ECT専用ゲーム『 Joke Game Online 』は、ハッキリ言ってあまり新しい要素が使われていない、何処にでもありそうで、何処にも無い、そんなゲームだ。
着せ替えゲーム、バトルゲーム、パズルゲーム、地図サイト、本屋サイトなどを寄せ集めたようなゲームが、この『冗談遊戯』なのだ。
まず、自分の分身となるアバターを設定する。これはカメラ機能が使われ、自分の姿が偽り無くアバターに反映される。かわいい子であればかわいいアバターに。不細工な人だと不細工なままアバターに反映されてしまう。これはちょっとした欠点だ。
ゲーム自体も極普通と言えるだろう。着せ替えやバトルで使う初期装備以外の装備はゲーム内通貨が必要で、これはパズルなどを解いたり、あらかじめ持っている武器を装備した状態で、ゲームの管理者から出された依頼をこなしたりするともらえる。
このゲームの特異な点は、このアバターに付くコードネーム(以降CN)というものだ。それは、ゲーム内で知り合った人物と仮の友達契約を結ぶ時に必要な物で、ゲームのプレイヤーには全員付いているというちょっと変わった名前のこと。
ちなみに、とある専用のページで、そのCNの持ち主の名前を製作者に通達すると、そのCNを持った人からゲーム内通貨を一定量もらう事が出来る、というシステムがある。
ちなみに、私も何度か通達されている。
さて、かなり話が逸れてしまったけれども、このカメラ機能を使って街中を探検できる、というちょっと変わった機能は、かろうじて真新しい。
内容は至極単純だ。家の中だろうが、駅だろうが、バスの中だろうが、とにかくゲームの『探索モード』を開始すると、決まってこの風景が見えたのだ。
それは、裏の京と書いて『裏京』と読む、反転世界、崩壊した世界、果ては存在しない世界と呼ばれる、このゲームでしか見られない世界。
「これは・・・・」
夢かもしれない。現実ではない。そう思った私が導き出した答え。答えとも呼べないような幼稚で単純な考え。それは――
―― どうやら私は、ゲームの世界に入ってしまったようだった。
・・・・後書きを書いている最中に、修正箇所を見つけてしまったから。