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繋ぐ者

「うんうん、相変わらず美味し~。恢君やるねぇ~」

「あの~、俺一応、君より先輩だよ? 年齢的に」

「むー。恢君は頭が固いよぉー。頭の固い人は嫌われやすいよ~。あ、でも恢君なら嫌われないかぁー」

 間延びした語尾。フランス人の祖母譲りらしい、長い銀色の髪。黒い大きな瞳。彼女の名前は―ハヤシ 茂南モナミ―といって、とても不思議な性格の持ち主だ。学校の中では、授業中いつも先生のデッサンとノートの書き取りを同時に行っている。

 商店街にはあまり出ず、森の中にある自分の家でずっと絵を描いているらしい。一度だけ茂南が描いている絵を見せてもらった事があるが、神がかっていた事は間違い無い。

 青桐高校って結構受験の難易度が高くて、緩い校則と勉強速度の中で生きてきた地元の人はあまり進学できないらしいけど、態度からして不良ではないが世間知らずっぽい茂南でも、合格できる高校だ。

 などと言いつつ、彼女の成績を聞いた人は全員驚いた顔をしていたのを覚えている。まぁ、入学最初の、新入生歓迎実力判定試験で、トップ3に入っていたのだから、そりゃ驚くよねー・・・・。

「あ、あの、茂南ちゃん。恢先輩の事は、ちゃんと先輩って呼ばないとダメだと思いますよ? 入れ替わりで入ってきた空音君ならまだしも、中学校は同じだったわけですから、先輩か、もしくはさん付けで呼んだ方が茂南ちゃんにも良い事があるかも知れないですよ?」

 そして、この不思議なキャラと一緒にいると、とてつもない癒しパワーをぶちまけるこの少女。親しい友人にも敬語を使う、極普通の家庭で育った少女―春瀬ハルセ アカネ―は藤黄とはまた違った意味で魅力のある人だ。

 いや、本質的には同じような魅力の持ち主なのかもしれない。確かにかわいい部類の容姿をしているが、それだけでは魅力など感じないだろう。でも感じてしまうこの魅力。目が離せなくなってしまう。どうしてなのかは本人でも分からないらしいが、藤黄と同じ、魅力のある人間だ。

 茂南は所々に薄く、青い絵の具が付いた黄色のワンピースチュニックに、ピンク色のハーフパンツ、黒いニーソックスに色々な色の絵の具が付いた、平たい靴を履いている。チュニックの下には薄手でオレンジの長袖Tシャツ。

「うん? どうかしたのかなー、空音君、何か変な顔だねぇー」

「なっ」

「む、そっかそっか、藤黄が何かを言ったのかー。藤黄、ダメだよー?」

「いやいや、僕はただ単に、その・・・・―萩徒ハギト 紫音シオン―の話をしただけだよ?」

「「・・・・紫音の?」」

 2つの女声が重なった。先程の『藤黄の親友』は、紫音という名前なのか。・・・・偶然にも、藤黄の幼馴染と同じ名前の親友、ね。

 そして紫音という単語が出た途端に、2人の雰囲気がガラリと変わった。この2人にも関係のある人物なのか、その紫音とやらは。

「あの、何故紫音の話を?」

「何故って、ちょっと成り行きで、ね。・・・・あぁ、いや、何でも無いよ。うん」

 藤黄は再び顔に影を落とした。先程の話は3年前のものだったはず。吹っ切れこそしないものの、3年も前に死んだ人間の話で、これほどまでに落ち込むなんて。


 ―― 3年前に、何かがあったのか?


「空音君さぁー、茂南の絵、見に来るー?」

「え、良いの? 行きたい! ・・・・あ」

 シリアスな雰囲気を飛ばすような、明るい返事をしてしまった。恥ずかしさにフリーズしてしまった脳に茂南の笑顔が映りこむ。

「じゃあ行こぉー。ほらほら、早くぅー」

 茂南は僕の手を引いて、その場を去る。出際に見えた2人は、睨み合っていたように見えた。



――


『―― 何で、話したのか、お聞かせ願えますか?』

『特に意味は無いよ。それに、元は僕が空音君に、何か嫌な事でもあったのかを聞いた所為だしね』

『それだけじゃ、ないはずです。藤黄君は世間的に見て、ヘラヘラした軽い人物に見えますけど、本当は、とても賢い人間だと私は考えています。・・・・わざと、紫音の事をお話しになったのでは?』

『買い被りだ、と言いたいけど・・・・はは、紫音の事になると君に隠し事が出来なくなるね。まぁ、ちょっとした友人の頼みさ。メールが届いて、ね』

『メール・・・・ですか?』

『そう。送り主の名前は言えないけど、内容は、つまり、そういう事』

『・・・・気になります。が、藤黄君が隠すのであれば、聞かない方が良い事を知っています。ですから、これ以上は聞きません』

『君がサッパリとした性格で助かるよ』

『そちらこそ。割り切った性格は嫌いじゃありません』

『・・・・』

『・・・・』

『恢さん、もう一杯紅茶をくれない?』

『えぇ? もう6杯目じゃないか。どうしたの、いつもは多くても3杯なのに』

『今日は飲みたい気分なのーっ!』

『な、何か居酒屋で聞きそうな台詞だねぇ』


――


 アクリル絵の具を主に使っているらしい工房。木で出来た家の中は、天井に付けられた窓から光が差し込んで、とても明るかった。そして、見る限り空色しかない家の中を、僕はキョロキョロと見渡していた。

「何か、空の絵しか無いね」

「んぅー。何か、上手く描けないから、一杯描いているのー。でも、描けないのー。中々・・・・紫音を描く事が、出来ないなぁ」

「紫音・・・・さっき藤黄が、3年前に死んだって言っていた?」

「・・・・うん。3年前の、夏休み。最後の日に」

 珍しく、間延びしていない。個性を失うほどに、大切な人だったのだろうか。

「紫音。紫色の音。見ているだけで、色々な絵が浮かんできた。でも、もういない。だから、とにかく一杯描いているの。紫音から、卒業しなきゃ、って。でも、出来ない」

 そう言って、茂南はキャンバスの前に置かれたイスに腰掛けた。青い絵の具をパレットに出し、一部を水で薄め、上から順に塗っていく。グラデーションが綺麗だ。だが、綺麗である事と満足がいく事は別。茂南はこの絵に、まだ、何かが足りないと言っている。

 何が足りないのか、など、絵に関してド素人の僕が見ても分からない。そもそも、描いている本人が分からないのだから、こちらが分かるわけが無い。

「そう言えば、クラスにもう1人『しおん』がいるだろ」

「あぁ~、こむしぃの事?」

「こむ・・・・? あ、や、―小室コムロ 紫苑シオン―だからそう呼ぶのはアリか。そうそう、ETCを作った大天才」

 世界のあらゆる基準を変えるほどの大天才。まさか、同じクラスになれるとは思っていなかった。そんな人、研究所で働いているイメージが強いから。

「こむしぃは赤みが強い紫かなぁ~。濃くも薄くも無い色の花びら~。あ、見た目だけは紫音によく似ているよ~。初めて会った時驚いちゃったぁ~」

 と言って、茂南は唐突に真っ白なECTを取り出し、操作し始めた。そして僕の王へ画面を向けてくる。そこには、小学生ぐらいの男の子が写っている写真があった。

 見事な漆黒の髪は、後ろ髪の一部が異常に伸ばされていて、それを紫色の鈴が付いた紫色の紐でまとめている。ピョンと跳ねた癖のある髪は、僕の知っている紫苑そのものだった。

「これねぇー、小学校の時に撮った紫音の写真~。かわいいでしょー」

「・・・・え、えと、小室じゃなくて、萩徒の方?」

「うん~。こむしぃは黄波町にいたからねー。2年前に来るまで世間知らずの超インドア派だったの~」

 こむしぃ、もとい小室 紫苑は、元々藤黄と同じ町の出身。本当ならもっと難しい高校でも楽々受験合格していただろうけど、彼曰く「此処なら藤黄がいるから」だそうだ。

「わ、本当に、瓜二つ、ってやつなのか。血縁とかじゃないよな?」

「それは分かんないけど~、血縁だったらあんなに驚かなかったかも~」

 茂南は天井を見上げた。僕の知らない、2年前辺りの事を思い出しているのだろう。僕はその時故郷の島でのんきに中学生生活を満喫していたけども、きっと彼女達にとってはかなりの大ニュースだっただろうし死んだ人と似ているから、という事で、紫苑は幽霊のように見られていたかも知れない。

「うぅ、やっぱり描けない~」

 見ると、茂南は絵を描く方に集中していた。

「空の絵・・・・じゃなかった、紫音の絵、だっけ?」

「そぉー。描けないよぉ~。紫音は空の色だと思ったのに~」

「じゃ、ためしに違う色を加えてみたら? ほら、赤を足して紫にして、空に花を描くとか」

「・・・・」

 じっとりとした視線をこちらに送りつける茂南。キャンバスの横に立っている僕を、下から目線で睨み、そして「むー・・・・」という呻き声を発した。

「・・・・ダメですか」

「・・・・ぃ」

「え」

 睨み顔が、段々と明るい笑みに変わって行く。え、どういう事?


「・・・・それ、良い! 何で茂南、気付かなかったのかな! 赤い絵の具~、赤い絵の具~」


 一気に調子を持ち直した茂南は、パレットに赤い絵の具をほんの少しだけ出し、極少量を空色の絵の具に混ぜ込む。白も混ぜて、薄い色合いの紫色に。

 筆をキャンバスの上で滑らせ、水を含ませて淡い色合いとなったただでさえ薄い紫で、花の形を描きこんでいく。重ね塗りで濃淡を出しながら、ただ先程まで描いていた空の絵に、それを描いていく。一重咲きのかわいらしい花を・・・・。

「・・・・ねぇ、空音君さぁー」

「えぁ、え、何?」

「紫音の事、知りたいー?」

「・・・・ぇ・・・・っ」

 唐突に聞かれた質問に、僕は言葉を詰まらせた。

「君はねー、紫音の事になると上の空になるよー。他の事に目が行かなくなっちゃうー」

 茂南は目線を絵から離さずに、ただ言葉だけを紡いでいる。

「結局はねー・・・・茂南達と同じだよ。結局、知ってはならないのに知りたくなっちゃう」

 何を言っているのか分からない。茂南の声が、あたりに反響している気がした。

「茂南は知っているよ? 紫音が君を必要としている事を。だから・・・・」

 そう言って、茂南はニッコリとした笑みをこちらへ向けた。

「―― 完成させる。これが、条件のひとつ。後は、空音君次第」


 空に咲く、紫苑の花。茂南はニコニコしながら、僕を見つめていた。


 茂南みたいな子って、癒し系の所為か、書いているだけで和みます。

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