七
和風にお店が変わってから、毎日のように来店するショタな貧乏神様は、抹茶プリンを美味しそうに食べている。好物なのだろうすごく幸せそうだ。ほわほわ花が飛んでいるように見える光景は和む。
ショタっ子貧乏神様は、他の近寄りがたい貧乏神様と雰囲気が違う。子犬的な可愛さに癒されるからだろうか。
貧乏神様に抹茶プリンを届け終えると、名前を呼ばれた。店員とお話をしたい、と願う神様もいるのだ。特に人間と会話をするのが好きという神様もいる。店長を見れば、頷いて許可をくれた。
神様といっても、性格は十人十色。
人間と同じように性格に難ありの方も存在している。簡単に例を出すと粗暴な方、女性好きな方、悪質な方などである。普通の人間が相手をするには危険すぎるため、許可は絶対に降りない。
もちろん、お店が忙しい時も許可は降りない。お客様とのんびり会話ができるのは久しぶりである。来店されるお客様の数、店内での乱闘、注文の量などに左右されるのだ。
今回、会話の許可が降りたのは綺麗な女性だ。透き通るような色をした薄青の髪と瞳を持つ美女は、雪神様で以外と温かい食べ物を楽しむことがある。鍋を食べていた姿を見た時にはびっくりした。
神様は美しい容姿の方が多いため、眼福といえるが不幸でもある。一般的な人間の美しいという概念が崩れるのだ。働く前には、格好良い、美人など思っていた人が微妙に感じてしまう。
友人と会話をする時には合わせるが、無駄にハイレベルな容姿の方々を知ってしまえば、見劣りしてしまう人を見て騒ぐのはきつい。無理に騒がなければいい話だが、ついこの前まで同じ芸能人や俳優、モデルなどで騒いでいたのにぴたりと止まるのはおかしいと思われるだろう。
適当に受け流せば、怪しまれる可能性が高い。何があったのか尋ねられても、非常に困る。信じてもらえない話を真剣に説明したら、心配されそうだ。主に頭や精神の状態について。
それにしても、なんで私はあんなにきゃーきゃー騒いでいたんだろう。ミーハーなのが悪いわけではない。他人の容姿を見て騒いでいた自分が恥ずかしいだけだ。人間は見た目より中身が大事だと声を大にして言いたい。自分も大人になったなあ、となんとなく思えた。
「ユーリ、そろそろ一ヶ月ではなくて?」
「はい、もう少しで一ヶ月です」
「うふふ、ユーリはきっと合格ね」
雪神様は美しい笑みを浮かべると、餡蜜パフェをつつく。
抹茶アイスと生クリーム、それから餡蜜に埋もれる白玉を食べたい。もちもちしている白玉を見ていると、お汁粉を食べたくなった。帰りに眷属さんにお願いしてみようかな。
「合格とはどういうことでしょうか?」
「あら、聞いていないの? わたくしが説明していいのかしら?」
ちらりと店長を見つめると、雪神様は薄紫の扇子で口元を隠した。
「詳しいことは上司が伝えてくれるわ。少しだけ言えるのは、あなたの霊力はここに適応したということ。それから、お客様がユーリを気に入ったということかしら」
解けない問題を与えられた気分である。店長に訊いてみたこともあるが、「まだ時期じゃないので」とはぐらかすのだ。答えは、ちょうど働いて一ヶ月経てばわかるのだろうか。
「ふふふ、眉間に皺を寄せたらだめよ。ユーリの可愛い顔が台無し」
「申し訳ありません。あの、今日はどうして私を呼ばれたんですか? 何かお話をされたいことでも?」
「そうね、ちょっとしたアドバイスをあげるわ。神様には善もいれば悪もある。ユーリ、気をつけなさい」
すうっと冷たい息を雪神様が吐き出す。
「一ヶ月後、きちんとお店にいてちょうだいね? 送迎も途中でなくなるのだから」
「それはどういう――」
働き始めて、お店までの道を覚えたというのに行われる送迎。疑問を持ちながら、答えを知らない私は目の前にいる神様に問いかけようと口を開いた。
けれど、答える気がないのか、扇子を閉じた音がしたと思えば雪神様はすでにお会計の場所へと移動していた。そして、艶然とした笑みを唇に乗せた彼女は溶けるように消えた。