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 和風の店内には着物や十二単、狩衣から浴衣。巫女から宮司まで多種多様な服装の方々が席に座っている。人型じゃない方々には、お店の雰囲気は関係ないみたいだけれど。


 それにしても、なんというノリの良さ。


 ちょっとツッコミどころのある格好の方もいるけれど、和風に統一されている。まあ、自己主張の激しい方や着替えるのが苦手な方などはいつもと変わらない服装のため、浮いているが。


 早着替えなんて目じゃない。入店前、好き勝手な服装をしていたというのに、一歩踏み入れた瞬間に服装が変わるのだ。


 軽く吹き出しそうになった時は、鉄壁の精神で我慢した。お客様の真剣な発言は笑ったらいけない。怒らせて攻撃されたら、私は死んでしまうかもしれない。


 神様と神使の発言は思い出すと危険だ。神様に仕えているというのに、ざっくり言い過ぎな神使。それを許す器が大きい、もしくは大雑把な神様。


「お待たせしました。クリーム餡蜜にございます」


「うむ」


「ごゆっくりお過ごしくださいませ」


 浅すぎず、深すぎない一礼を終えると笑顔を浮かべて立ち去る。


 鎧で入店したお客様。彼らのやり取りがどんなに脳裏に浮かんでも思い出し笑いはしない。これ、絶対。


 ――この格好はいかんな。着替えに戻るか。


 ――おやめください。今の服装こそが魅力を最大に発揮するものにございます。


 ――む、そうか?


 ――和ノわのくにの民族衣装は無理にございます。


 ――そんなことはないぞ。見よ、周りは着ている。


 ――誰しも向き不向きがございます。


 ――完全無欠な我に似合わぬと!


 ――武器をお持ちにならず、髭を剃り、肩の鎧や棘をお外しください。


 ――うむ、この格好のままでいいだろう。なにせ、我に一番似合う衣装はこれだからな!


 楽しいやり取りを繰り広げた彼らは、私が届けたクリーム餡蜜を美味しそうに食べている。見た目がいかつい神様の髭についたクリームがなんだか可愛く見えた。


「……店長、腹筋が鍛えられそうです」


「笑いの沸点を高くすることですね。それに腹筋が鍛えられて何か問題でも? 人間は弱いですから、むしろ鍛えるべきです」


「どんな結果を経てそういう答えになるんですか。ちょっと同意が欲しかっただけなのに」


 爆笑して腹筋を鍛えろと?


 いやな鍛え方である。まず、爆笑してしまった相手によっては、本当に危険だ。命の保証はあるんだろうか。


 私は長生きしたい。余計な綱渡りはするつもりなんてない。命は大事に、基本である。


「それはすみません。難しいですね。人間の常識は」


「いえ、もういいです。」


 ……どうしよう。ここで働いていたら私の常識が崩壊しそうだ。元から常識外れの場所だとわかっているけど、常識崩壊はいただけない。


 職場であるここは、別世界。別次元といえる場所だけど、私が過ごしている場所は普通の人間世界だ。人間の常識を忘れてはいけない。自分の心に刻みつけよう。


「おい、ユーリ。お前、告げ口しただろ」


 ひょっこり顔を出したコックーニさん。調理場を取り仕切る彼は、店長に叱られても元気なようだ。いつもと変わらぬ彼のすが……。


「ぶふっ、あはははは。アフ、ロっ!」


 アフロ、見事なアフロである。濃いめの茶髪がふんわりと盛られている。なぜかオプションに小鳥が住んでいた。


「コックーニ、お前の姿は人間の腹筋を鍛えるのに役に立つみたいですよ」


「なんでだよ! 不名誉だ!」


「あはははっ。だめ、つぼった、せいで止まらない」


「笑うな! お前、お客様の時は笑うの我慢するくせに、なんで爆笑してんだ」


「だって、お客様は神様で、すから……っ」


 震えながら質問に答える。

 腹筋が痛い。涙が出てきそうだ。いつものゆるゆるでくるくるな髪型が爆発したコックーニさんの頭は、色合いのせいか鳥の巣にも見えた。


 どうしよう。他のお客様にも料理を運ばないといけないのに、コックーニさんの破壊力で作業不能になりそうだ。


 突然現れたコックーニさんの前には、あの神様と神使のやり取りはまだ可愛いものである。思いっきり爆笑して、落ち着いてから運ぼう。こんな理由で作業不能だなんて、給料から天引きかな。

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