三
お店が和風になる説明、気をつけることなどを述べた店長は、にっこりと眩しい笑みを浮かべる。店長がなんの神様か知らないけれど、お店が大好きなんだなと実感できる笑顔だ。
どんな和風のお店になるのかとわくわくしてしまう。まるで魔法のような瞬間が訪れるから、私はとても楽しみで仕方がなかった。実際には神力による模様替えに近い。
「それでは今日も頑張っていきましょう」
店長が親指と人差し指を擦り合わせ、ぱちんっと景気よく鳴らした。すると、お店の内装が変わっていく。
洋風から和風へ。
艶のある柱、畳の香り、漆器の器、絵画も墨で描かれた和ものになっていた。制服も浴衣に似たものへと変化する。最後にふわりと前掛けがついた。
何度見ても魔法のよう。不思議でとっても楽しい変化。これを初めて見た時、辞めた二人目の高校生くらいの子は腰を抜かしていたっけ。
――すごいですね!
そうはしゃぐ私は、軽やかに目の前にある現実を受け止めていた。理解できない事柄を疑い、否定する気がない私の様子に周りは一瞬しんっと静まりかえった。その後、人外の彼らは爆笑していた。
現実ではありえないものに好奇心が刺激される性格なのだから、不思議な現象を楽しんでしまう。さすがに、恐ろしいホラーはお断りだが。
店長の趣味で変化するお店は、お客様に人気だ。普通と違ったお店というのは、この場所には多く存在している。だが、多種多様な食事、内装、店員の服まで変化をつけるお店というのは『レストラ』だけだ。
コックーニさんは「変わり者だからな」と笑っていた。
煉瓦通りと屋敷通りのちょうど真ん中に位置するお店は、店長の好みによって変化すること。そして、その期間が店長の気まぐれで決まっているとは有名である。
「なあ、ユーリ。お前はきっと合格だ」
「合格?」
試用期間についての説明なんてなかった。だから、私は驚いてコックーニさんを見つめた。どういうことか尋ねる前に、彼は私の頭をぐしゃぐしゃと撫でると、さっと調理場に行ってしまう。あー、文句を言いそびれた。
コックーニさんのせいで乱れ、絡んだ髪を手櫛で整える。さすがに乱れた髪で、神様であるお客様の前に立つのは失礼だ。
「何をやってるんですか」
今のところ私は見たことはないけれど、シャンデリア付きの部屋に畳があったり、ピザを焼く窯を配置したはずが竈だったり、いろいろと失敗したことがあるらしい。
そのため、内装におかしなところがないか。しっかり確認を終わらせた店長が溜息を吐いた。
がっつり私の髪型に視線を向ける店長には安心して欲しい。ぼさぼさのままお客様の前に出る気はない。きちんと直してから接客する予定だ。
「コックーニさんの撫で攻撃による被害です」
好き好んでこの髪型になったわけではない。そう説明すれば、店長は今のモチーフに合わせてか、漆塗りの櫛を渡してくれた。描かれている蝶と小花が可愛らしい。
店長から渡された櫛で髪を梳きながら、紛れもない現代っ子である私は、着慣れない和装を確認する。前掛けは赤色、桜色の和装には、白の花と蔓草が描かれている。シンプルな服装にほっと息を吐いた。
「和ロリやミニ丈がよかったですか?」
服装を気にいらないのか、と心配し始めた店長の言葉に断言しよう。人には似合う、似合わないがあるのだ。なんでも着こなす他の人外な店員と一緒にしないで欲しい。
「遠慮します」
「ユーリにはきっと似合いますよ」
「断固拒否します」
「残念ですね……次回、お願いしましょう」
店長、最後に不穏な言葉を付け足さないでください。開店前から私の精神にダメージが来ている。頑張れ、私。これからが大変なのだ。変な神様が来ませんように!
「ああ、コックーニに少し説教してきますね」
眩しいまでの笑顔だ。すごく輝いている。まるで後光でも差しているような笑みは、手を合わせて拝みたくなる。実際にしたら、怒られるからしないけど。
「あ、はい。いってらっしゃい」
……私より大変な方がいた。
とりあえず、合掌しておこう。頑張って、コックーニさん。試作段階という黒蜜杏仁パフェを私に食べさせるために、生きてください。