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 お店が和風になる説明、気をつけることなどを述べた店長は、にっこりと眩しい笑みを浮かべる。店長がなんの神様か知らないけれど、お店が大好きなんだなと実感できる笑顔だ。


 どんな和風のお店になるのかとわくわくしてしまう。まるで魔法のような瞬間が訪れるから、私はとても楽しみで仕方がなかった。実際には神力による模様替えに近い。


「それでは今日も頑張っていきましょう」


 店長が親指と人差し指を擦り合わせ、ぱちんっと景気よく鳴らした。すると、お店の内装が変わっていく。


 洋風から和風へ。

 艶のある柱、畳の香り、漆器の器、絵画も墨で描かれた和ものになっていた。制服も浴衣に似たものへと変化する。最後にふわりと前掛けがついた。


 何度見ても魔法のよう。不思議でとっても楽しい変化。これを初めて見た時、辞めた二人目の高校生くらいの子は腰を抜かしていたっけ。


 ――すごいですね!


 そうはしゃぐ私は、軽やかに目の前にある現実を受け止めていた。理解できない事柄を疑い、否定する気がない私の様子に周りは一瞬しんっと静まりかえった。その後、人外の彼らは爆笑していた。


 現実ではありえないものに好奇心が刺激される性格なのだから、不思議な現象を楽しんでしまう。さすがに、恐ろしいホラーはお断りだが。


 店長の趣味で変化するお店は、お客様に人気だ。普通と違ったお店というのは、この場所には多く存在している。だが、多種多様な食事、内装、店員の服まで変化をつけるお店というのは『レストラ』だけだ。


 コックーニさんは「変わり者だからな」と笑っていた。


 煉瓦通りと屋敷通りのちょうど真ん中に位置するお店は、店長の好みによって変化すること。そして、その期間が店長の気まぐれで決まっているとは有名である。


「なあ、ユーリ。お前はきっと合格だ」


「合格?」


 試用期間についての説明なんてなかった。だから、私は驚いてコックーニさんを見つめた。どういうことか尋ねる前に、彼は私の頭をぐしゃぐしゃと撫でると、さっと調理場に行ってしまう。あー、文句を言いそびれた。


 コックーニさんのせいで乱れ、絡んだ髪を手櫛で整える。さすがに乱れた髪で、神様であるお客様の前に立つのは失礼だ。


「何をやってるんですか」


 今のところ私は見たことはないけれど、シャンデリア付きの部屋に畳があったり、ピザを焼く窯を配置したはずがかまどだったり、いろいろと失敗したことがあるらしい。


 そのため、内装におかしなところがないか。しっかり確認を終わらせた店長が溜息を吐いた。


 がっつり私の髪型に視線を向ける店長には安心して欲しい。ぼさぼさのままお客様の前に出る気はない。きちんと直してから接客する予定だ。


「コックーニさんの撫で攻撃による被害です」


 好き好んでこの髪型になったわけではない。そう説明すれば、店長は今のモチーフに合わせてか、漆塗りのくしを渡してくれた。描かれている蝶と小花が可愛らしい。


 店長から渡された櫛で髪をきながら、紛れもない現代っ子である私は、着慣れない和装を確認する。前掛けは赤色、桜色の和装には、白の花と蔓草が描かれている。シンプルな服装にほっと息を吐いた。


「和ロリやミニ丈がよかったですか?」


 服装を気にいらないのか、と心配し始めた店長の言葉に断言しよう。人には似合う、似合わないがあるのだ。なんでも着こなす他の人外な店員と一緒にしないで欲しい。


「遠慮します」


「ユーリにはきっと似合いますよ」


「断固拒否します」


「残念ですね……次回、お願いしましょう」


 店長、最後に不穏な言葉を付け足さないでください。開店前から私の精神にダメージが来ている。頑張れ、私。これからが大変なのだ。変な神様が来ませんように!


「ああ、コックーニに少し説教してきますね」


 眩しいまでの笑顔だ。すごく輝いている。まるで後光でも差しているような笑みは、手を合わせて拝みたくなる。実際にしたら、怒られるからしないけど。


「あ、はい。いってらっしゃい」


 ……私より大変な方がいた。


 とりあえず、合掌しておこう。頑張って、コックーニさん。試作段階という黒蜜杏仁パフェを私に食べさせるために、生きてください。

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