二
働き始めて二週間。
私以外の人間は今のところいない。なんだか切ない気持ちが襲ってくる。私が図太いわけではないと思うんだけど、みんな辞めるが早くないだろうか。
今日もまた可愛い女の子がいなくなった。なんだか泣けてくる。仲良くなる前にいなくなるし、少しくらい仲良くなってもここでの記憶はなくなってしまうのだ。交換した連絡先もいつの間にか消滅することを最近知った。
働いた子たちの意見をまとめると、神様が怖いという気持ちが強いのだ。下級の人型でない神様が恐ろしい。人型をしていても意味のわからない彼らが怖い。畏敬の念を持ちすぎて近寄れない。
怖がるのは納得できるけど、なんで辞めるんだろう。給料いいし、他では味わえない体験ができるのにもったいない。
人の形をしているとか、していないとか考えすぎだ。神様なんだから、なんでもありだと私は思っている。その意見を知った店長からは「適応力が高いですね」と褒められた。
神様は実力社会である。
下級、中級、上級、特級とわかれているらしく、その身分というか位置が力の高さを示している。まあ、私から言わせれば、どの方々も人外の力を持っているため、勝てる気がしない。別に勝負をする気なんてないが。
下級の神様によっては、人の形をしていない方が多い。靄だったり、どろどろしてたり、もさもさしてたり――不思議な方々ばかりである。他はどう見分ければいいのかさっぱりわからない。とりあえず、名前がどれだけ知られているか、認知度が力に関係しているらしい。
そんな神様の方々は自分の名前を口にしない。名前だけ、名字だけと誤魔化す。偽名を名乗る。種族といえばいいのか、なんの神様です、とは言うが、本名を教えないといった徹底ぶりである。
お互いに力量はわかるし、なんとなく予想がつくから名乗る必要がないのかもしれない。
予想を立てつつ、店長に尋ねた。すると、名前を知って神様を捕まえようとした人間が過去にいたらしい。祠、神社、神殿など守り神として手に入れようとしたとか。過去に面倒なことがあったから、黙秘が基本となった。
その話を聞いた時に、私は呆れた。
守り神としての加護を欲しがり捕らえた場合、祟られる可能性が高い気がする。まあ、神様だけど捕まえられた被害者が、自分を閉じ込めて奉り上げようとした加害者を守ってくれるだろうか? 天罰が落ちそうである。
朝早くからお店に到着した私は、もそもそとパンをかじりながら教えてもらったことを反芻した。実際はほとんど脳内で、あっちこっち適当な思考の渦に漂っているだけである。
神様について、神話とかでも読んでみようか。面白い伝承を発見したら、事実だったのか聞いてみるのも楽しそうだ。
「ユーリ、今週は和をモチーフに営業するってさ」
コック帽を被った男性がにかりと笑う。がっしりとした筋肉を見れば、コックよりもスポーツ系の職業が似合う見た目だ。そんなコックーニさんは、料理関連の神様。ジャンル問わずになんでも作れる。
コックーニさんの眷属の子たちが調理場で料理の下拵えを手際よくしていた。今度、料理を教えてもらいたい。スパルタコックーニさんから教わる気は皆無だけれど。
「へえ、和ですか」
先週はファミリーレストランだったのに、一気に変わるものだ。
「人間っていろいろ思いつくよなー。だから、ミリオは人間観察大好きだし、人間雇ったり変なことするんだろうし」
「それ気になってたんです。なんで人間を雇ったりするんですか?」
この場所に神様がいるなら、人間がいる必要はない。わざわざ高い給料を払ってまで雇う必要がどこにあるのだろうか。
「神様だからズレてるんだ。普通の感覚がわかんないし、別にどうなろうと営業できればいいって俺は思ってるが……ミリオはそうじゃないんだろ」
「普通の感覚? 神様の普通でいいんじゃないですか」
「そんなこと知るか。なんだ、ユーリは雇われて不満なのか」
「まさか。感謝してますよ」
こんなに楽しく面白い職業はない。神様以外にも妖精といった不思議な存在が当たり前のようにいる。まるで夢のようなおかしな日常は、飽きることがないのだ。
例え、危険手当てというものがついてしまうおかしな職業でも満足である。今のところ、私には記憶をなくす予定はない。この仕事を続けていきたい、と強く思う。