序
お客様は神様である。
サービス業、接客業において絶対に忘れてはならない言葉だ。お客様がいなければ、仕事が成り立たない。お客様がいなければ、お店が潰れるということをしっかり脳に刻まなければならない。
すべてはお客様のためにある。そう口を酸っぱく何度も教えてくれた祖母が亡くなり、私は改めて言葉の意味を深く、痛いくらい深く理解するのだ。
目の前で起きた小規模な爆発。お店の椅子をひっくり返し、私の黒髪を揺らした。
「店長、六番テーブルのお客様が空腹により暴走中です」
声をかけた先にいるのは、ミリオ・クインベラー店長だ。見た目は二十代後半、青空のような明るい髪と瞳を持つ店長は肩をすくめた。
「またあの方ですか。請求書を書いておきましょう」
「秘書の方が泣きますね」
特大のポテトにハンバーグ。熱々の料理は二人がかりでなければ運べないほどのビックサイズである。それを運ぶ後輩が涙目なのは見ないことにした。ああ、明日くらいに彼女は辞めてしまうかもしれない。
「ユーリ」
「はい、店長。私の名前は百合です」
ユーリだなんて、そんな外国人みたいな名前じゃない。私の名前は原口百合、立派な日本人である。何度、文句を言っても私の名前をしっかり呼んでくれることのない店長に溜息をついた。
「別に変わりませんよ。それより、五番テーブルの注文された品が完成したようなのでさっさと運んでください」
「はい」
すぐさま返事をして、私はメイプルシロップがたっぷりかかったホットケーキを運ぶ。
五番テーブルは、爆発を起こした六番テーブルに近いため、周りにはちょっとした木の残骸が散らばっている。だが、お客様には被害がない。当たり前だ、彼らは結界を張って自分たちに被害が来ないようにしているのだから。
結界を張れるというのなら、お店に被害が来ないように全体に張って欲しいものだけどそんなお願いをできるはずがない。
「お待たせしました」
「むむむー」
ホットケーキをふわりと宙に浮かせ、一口で完食するお客様。その姿を見ながら、私はつくづく実感する。お客様は神様だと――……。