おちこむ
「ノアザ、ご飯だぞ」
叔父がわたしの部屋のドア越しにそう告げた。
いつもと変わらない口調。
わたしを呼ぶときはいつも部屋の外から。中には絶対入ってこない。
「ノアザ、先に行ってるからな」
足音が遠ざかる。
わたしはベッドにうつ伏せになり、顔を枕にうずめていた。
あんなことがあったのに。
叔父はいつもと同じ態度。
辛い片思い。意識しているのはわたしだけ。
叔父とってわたしは、まだまだ子どもで、庇護の対象でしかなくて。
わかっている。それを承知で好きになったのだから。
それでも。
少しは。
期待してしまった。
抱き締めてくれた叔父の大きな体はあたたかかった。
わたしをまっすぐに見つめる叔父の潤んだ瞳はどこまでも黒く、真夜中の空のようで。
もしかしたら、叔父は。
わたしのことを。
姪としてではなく。
…………………
…………
……
やっぱり、15の小娘なのだわたしは。
大人っぽくみせるために、ずっとおさげにしていた髪をほどいた。
お肌の手入れを入念にするようにした。
伯母と住んでいたときとは、かなりちがっているはずだ。垢抜けて、見違えるとまではいかないまでも。
目に涙がにじんで、枕カバーに染み込んでゆく。
叔父はあんなに魅力的なのに。
どうしてわたしはなにももっていないのだろう。
どうしてわたしは…
………姪なんだろう。
わたしは重い足取りで居間へ向かった。
叔父が呼びにきてから、かなり時間が経ってしまった。
本当は、行きたくない。
鈍感な叔父の顔など見たくない。
お腹もすいていないし、とてもごはんがのどを通る心境ではない。
でも。
叔父は、多分。
「やっと来たか」
部屋に入るとやはり。叔父は食べずに待っていた。
わたしは無言で席につく。
ささくれた気持ちが伝わったのか、叔父は困った顔をしてテーブルに頬杖をついた。
「どうした? 食欲ないのか」
テーブルに肘をつくという行儀の悪いことをいつもの叔父ならしない。
わたしだって叔父が話しかけているのに返事をしないことなどありえない。
うつむいたまま、なにも言わないわたしに叔父は
「不用意に抱き締めたこと、まだ怒ってるのか?」
爆弾を落とした。
「悪かったよ。びっくりしたよな。けど、ノアザが幸せって言ってくれたのが嬉しくてつい…」
わたしは顔を上げる。
「叔父さん…ずるいよ」
「ノアザ?」
「その気がないのに、わたしに優しくして」
八つ当たりもいいところ。
わたしが叔父の一挙手一投足に勝手に喜んだり怒ったり悲しんだりしているだけだ。
「わたしに期待させるようなこと、しないで…」
涙が溢れる。
ここへ来てからわたしは泣いてばかりだ。
いままでのほうが辛かったはずなのに。そのときは一度も泣けなかった。
ひとりでも、大丈夫。
そう思っていた。
「ノアザ…」
いまはわたしを大切な家族として接してくれている叔父がいて、ひとりではなくなったのに。
欲深く、あさましい心。
伯母と同じだ。自分に嫌気がさす。
見ているだけでいいなんて嘘。
わたしのことを好きになってほしい。
家族としてではなく、
恋人として。
「わたしは…叔父さんが好き」
発した言葉は戻らない。