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叔父とわたし  作者: 周五
7/13

【間】おとどけものです

 森のくまさん―――




 仕事仲間のあいだで、そう呼ばれている客がいる。


 うちの会社は、配達地域を担当別に決めたりしていない。仕分けされ、同地域にまとめられた荷物は、そのとき事務所でたむろっている運び屋が運ぶ。


 だってうち、大手じゃねーし。


 会社っていっても従業員数6名の弱小で、そのなかには社長とその奥さんも含まれている。


 オレは運び屋として大手の運送会社にはいっていたこともあるけど、まあ、ここはそこの激務からしたら、楽勝だ。


 積み荷がないことだってあるしな。


 運び屋4人でも多いんじゃね?


「ポーチ、仕事頼めるか?」


 オレを呼ぶ社長の声。


「いいっすよ」


「“森の定期便”だ」


 オレは一呼吸置いた。


「了解っす」



 “森の定期便”は、社長がつけた呼び名だ。


 オレ以外の運び屋は届け先のヤツのことを、森のくまさんと呼んでいる。


 いや、熊なんだってマジで。


 図体でかいし、動きはゆっくりだし、顔面けむくじゃらで年齢不詳だし。


 最初に配達に行ったときはびびった。


 なんせ不気味な森の奥。


 自慢の愛馬も途中から進むの拒否るし。


 しかたないから、馬からおりて荷物抱えて。


 食料品だからクッソ重いんだよ。


 ぶつぶつ文句言いながら、呼び鈴ないから玄関ドアを思い切り叩いてやったら。


 熊が出た。


 抱えてた荷物、放り出さなかった自分を褒めてあげたい。


 立ったまま、死んだフリ…ていうか、かたまってた。


 でも、熊が家に住んでたり、荷物頼んだりしないわなって思ったら。


 相手が荷物についてる伝票にサインしてきて。


 オレは慌てて伝票の控えと荷物を渡した。


 伝票の受け取りのサインがきれいな字で。


 やっぱり熊じゃなかったんだと。



 それから、オレは月イチか月ニの割合で森のくまさんとこへ荷物を届けている。


 くまさんは、定期的に食料品やら日常品やらをどっかから買って送ってもらっているらしかった。


 わざわざ金のかかるようなことやって。


 なんであんなとこに住んでんだろ。


 社長から荷物を預かり、馬に積む。何回か数をこなすうちに、かなり家の近くまで行ってくれるようになった。


 あくまで、近くまで。


 最終的にはやっぱりオレが歩いて運ぶんだけど。


 しかも最近、荷の量が増えてるんだよ。


 疑問はすぐに解決したけどな。



 くまさん家に、女の子がいたんだ。



 いや、ちょ、ちょっと待って。これ、なにかの冗談でしょ?


 犯罪のにおいがプンプンするぜ。


 てっきりくまさんが出ると思ってすっかり油断してた。


 ドアを開けたら、そこには可憐な美少女が。



 オレは顎が外れるくらい口を大きく開けた。


 熊かと思ったら、おとぎ話の挿し絵にありそうなお姫様が現れたんだ。オレのショックは推して知るべし。


蜂蜜色のふわふわした柔らかそうな長い髪。周りの雪景色に同化してしまいそうな白い肌。深い海の底のような黒くて青い色の瞳。


 ただ、細い手足とからだはオレの好みじゃない。オレはもっとこう、肉付きが良くて…


 いやいやいやいや!


 全力で首を横に振るオレを不思議そうに見上げる彼女。


 なにこれ。すっげー可愛いんですけど。


「あの…」


 少女が桜色の唇から小さな声を発した。


 オレの視線はそれに釘付け。


 運び屋であるまえにオレは今年21歳になる健全な若者なんだよ。


「どなた…ですか?」


 よく通る声。


 声まで可愛いなんて反則だろ。


「オレは…」


 変に緊張して声が掠れた。


 オレ、なにしに、ここへ来たんだっけ…?


 そのとき。


 少女の後ろから、大男が顔を覗かせた。


「荷物をよこせ」


 あ、くまさん。


「お届け物です!」


 反射的に荷物を差し出す。


 少女は困ったように振り返り、後ろにいるくまさんに助けを求めた。


 そりゃ、そうだわな。


 だってこれ、すっげーかさばってるし重いし。


 女の子が持つのは無理だ。


 やっちまった。


 顔を青くしていると、横からにゅっと丸太のような腕がのびてきて、オレから荷物をひょいとさらった。


「おまえの名前でいいから、サインしといてくれ」


 くまさんはそう言って部屋の奥へと消えていった。


 少女はくまさんの姿をしばらく目で追っていたが、やがてオレのほうを向くと


「サインをさせてください」


 と伏し目がちに言う。


 オレは彼女に触れたい気持ちを理性で抑え込んで、伝票とペンを渡した。


「こちらにお願いします」


 ペンを動かす白く細い手。


 不躾とわかっていながら、じっとそれを見ていた。


 少女は気にした様子もなく自分の名前を書き終えると、伝票とペンを返してきた。


 それを受け取り、控えを渡す。


「オ、オレ、ポーチっていいます」


 声が裏返った。


 なんなんだよコレ。


 女となんか話し慣れてるだろ!


 しっかりしろオレ!


「わたしは、ノアザと、いいます」


 彼女はなんの抵抗もなく自分の名前を告げる。無防備すぎるぞ。


「また、来ます!」


 あたりまえだよ、仕事なんだから。


 アホな自分にツッコミいれつつ。


「ありがとうございます。また、お願いします」


 そんなオレにペコリと頭を下げる少女。金色の髪がふわりと揺れる。


 なんて素直で、なんて礼儀正しいんだ。


 会社戻ったら、森のくまさんとこはオレの担当にしてもらおう。


 絶対に。

 



やらかしたかもしれません…

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