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叔父とわたし  作者: 周五
6/13

おもう

この世界の説明を。登場人物たちが暮らすこの国は農業がメインでほかはあまり発展していないのどかなところです。

 山に、森に、冬がやってきた。


 山肌も、木々もすべて雪の白に塗りつぶされる。



 覚悟はしていたが、やはりここの冬は厳しい。


 山の裾にひろがる大きな森の中にある家。街での生活に慣れた身としては、自然と隣り合わせのここの暮らしが新鮮である反面、不便に感じることもあった。


 まず、暖をとる方法が暖炉しかない。そして、その暖炉は居間にしつらえてあり、それ以外の部屋にはない。


 叔父しか住んでいなかったから。


 叔父しか住まないつもりだったから。


 森の奥に引きこもったのは、辺境で隠遁生活をおくることで、自分を外界から隔離しようとした―――のだと、思う。わたしの推測。


 叔父は自分のことをなにも語ろうとしないので、必然的に想像するしかなくなる。


 叔母が生きていたときは、隣の国にいたと言っていた。


 隣の国はこの国に比べなにもかもが優れている、大陸のなかでも上位にある先進国だ。


 国土自体は広くないが、軍事力や政治力、技術、産業どれをとっても超一流。


 国内外問わず絶大なカリスマ性を誇る国王によって統治されたそこは、洗練された巨大国家である。


 流行の最先端。だれもが憧れ、死ぬまでに一度は行ってみたい国ランキングだと常に1位。


 数日間の旅行は問題ないが、長期に渡る滞在となると申請してもなかなか許可がおりない国なのだ。軍事国家であるだけに。


 そんなところに叔父は、叔母と住んでいたという。


 ということは。


 叔父もしくは叔母、あるいはその両方が、他より秀でたなにかをもっているということになる。


 それはなにか?


 凡人のわたしにはまったくわからない。


 いま、叔父は暖炉にくべる薪を拾いに出ていて、そのあいだにわたしは部屋の掃除をしているのだが。


 叔父は働いていない。


 森のなかでの隠居生活だから当然である。


 では、収入源は?


 生活するためにはお金がいる。わたしという食い扶持も増えた。


 わたしの保険金はすでに伯母が満額受け取ってしまっている。


 叔父に訊いたら、子どもがそんな心配するなと頭をぽんぽんと叩かれた。


 わたしだってロースクールを卒業している。世の中のことわりくらい理解しているつもりだ。


 働かざるもの食うべからず。


 のはずなのに。


 毎週決まった曜日に荷物が街から届く。中身は主に食料品。たまに洗剤や衣服、雑誌なども入っている。


 依頼しているのは叔父。


 一番近い村でも歩いて半日はかかるのだ。気軽に買い物に行ける距離ではない。しかもこの辺りの集落はどこも貧しく、村人たちは自分らの生活で精一杯。とても他人に分け与えられる余裕などなかった。


 そんな理由もあって宅配を利用している。


 わたしがやってくるまえからこの生活が習慣というなら。


 叔父がますますわからなくなった。


 熊みたいな風貌なのに。


 いつも飄々としていて。


 わたしは好きになりすぎて、困る。



 掃除は少しの時間で終わる。


 ほぼ毎日しているからそんなに埃がたまらないし、叔父の家には物があまりない。


 食事をとったり客をもてなしたりする居間(わたしが来てから一度もお客さんが来たことはない!)とそれに続く台所。一通りの調理器具と食器は揃っているけれど数が少ない。お皿などはわたしが来てから買い足した。


 次に叔父の書斎兼寝室、ここがいちばん家具や物が多い。分厚くて古そうな本が、天井まで届く大きな本棚にぎっしりと並んでいる。というより押し込んである。


 文学よりも専門書が多くて、手にとって見ても、その内容はちんぷんかんぷんだ。この国のものじゃない言葉で書かれているものも少なくない。


 大きな本棚は壁にくっついており、部屋の中央にベッド。わたしの部屋のもそうで、この家に備え付けられているベッドはすべて大きいサイズ。成人男性が二人並んで寝ても十分余裕がある。


 成人男性が隣同士で寝る状況が、どんななのかはわからないし想像したくないけれど。あくまで、わかりやすく言うと。


 とにかく、伯母と二人で寝たときもお互いの間がわりとあいていた。


 叔父は体が大きいから、ゆったりできるだろう。


 ベッドの横、枕元にサイドテーブルというか、書き物机がおいてあり、コーヒーなども置いたりしているみたいだ。


 その隣には衣装部屋がある。叔父の部屋にもドアがあり、廊下に出ずとも往き来できるようになっている。


 専用の部屋があるにもかかわらず叔父はあまり服は持っておらず、いつも簡素な木綿の長袖シャツに丈夫な生地のズボンをはいている。森で暮らすのに都会で流行っているような服装は必要ないからか。


 わたしの部屋はもともと客間だったようで、他にまったく同じ間取りの部屋が2つあった。


 ベッドはすべての客間にあったが、洋服箪笥はわたしが使っている部屋にしかない。布団もまた然り。


 わたしがくることになって、慌てて用意してくれたのだと思う。


 掃除についても、客間に関しては適当でよいと言われている。


 あとはトイレと洗面所とお風呂。外には小さな倉庫。


 快適さよりも機能重視といったおもむきだ。



 ほうきを片付け、暖かい居間で叔父の帰りを待つ。


 冬になり、わたしも叔父も暖炉のあるここで過ごすことが多くなった。


 わたしは雑誌を読んだりぼーっとしたり。


 叔父は身の回りの道具の手入れをしたり、難しい本を読んだり。


 二人とも特に会話もないし、離れて座っているけれど、一緒の空間にいられることが嬉しい。


 叔父の、熊のような姿を見られるだけで安心する。


 決して口に出してはいけない恋。想うだけなら、いいよね。




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