すれちがう
とうとう、口にしてしまった。
冬のはじめに気付いてからずっと隠していたわたしの気持ち。
あとのことなど、なにも考えなかった。
とにかく、悔しくて。
叔父もわたしを意識するようになればいい。
わたしの涙に驚いた様子の叔父は、口を小さく開き、なにかを言おうとした。
けれど、言葉にならなかったのか口を閉じる。
気まずい沈黙。
暖炉でパチパチと薪が燃える音だけが聞こえる。
すん、とわたしは鼻をすすり、服の袖で涙をぬぐった。
「ノアザ…おれもおまえが好きだよ」
叔父の眉は下がり、心底困っていることがわかる。
突然の姪からの告白に、どう答えていいものか逡巡しているらしい。
「なあ、どうして泣くんだ? おれはおまえに優しくしちゃいけなかったのか?」
叔父は、考えをまとめながら話している。
「おまえは義兄夫婦の忘れ形見だ。あいつ…妻にとっても大事な姪だ。そんなおまえを引き取れてとても嬉しい」
叔父が椅子を移動させ、わたしのすぐ近くに座った。
「おれはどうやったらおまえを幸せにできるか、ずっと考えてた。手紙と荷物が送られてきたときも、一緒に暮らすことになったときも、そして…いまも」
優しく穏やかな光をたたえた瞳に見つめられ、わたしはきゅっと心をわしづかみにされた気分になる。
ちがう。
ちがうの叔父さん。
わたしはいますごく幸せ。
そして、苦しい。
叔父さんが好きなのは亡くなった最愛の妻の姪であって、ノアザ・カリオンという15歳の女の子じゃない。
もし、わたしじゃない別のだれかが姪だったとしても、叔父さんはきっと同じようにその子に優しくするだろう。
わたしになんの魅力もないことは、自分自身が一番よく知っている。
「わたしの“好き”と叔父さんの“好き”はちがうよ」
もう、泣かない。
唇を噛み締める。
やはり告白は失敗だった。
わたしの想いはひとのいい叔父を困らせただけ。
迷惑だっただけ。
告白したらどうなるかなどわかっていたはずなのに。
まだまだ思慮の浅い子どもである。
「なにがちがうんだ」
叔父さん、どこまでも果てしなく鈍感なんだね。
普通は、ここまでされたらわかるはずなんだけど。
どう言ったら、わかってもらえるのだろう。
「叔父さん、あのね」
わたしは体を叔父のほうへ向け、しっかりと彼の目を見た。
「叔父さんは、たとえば姪がわたしじゃなくても大切にしたでしょ? わたしはちがうの。叔父さんが身内じゃなくて、赤の他人だったとしても…好きなの」
言っていて、だんだん恥ずかしくなってくる。
夕食が並ぶテーブルを横にして、ムードもなにもあったものではない。
ふいに叔父さんがわたしの手を握った。
驚いたわたしは、握られた自分の手の行方を目で追う。
叔父はわたしの手を自分の口許にもっていき、ゆっくりと唇をおしあてる。
叔父のごわごわした髭とやわらかい唇の感触を手の甲に感じ、わたしは顔を真っ赤にさせた。
「お…叔父さん…」
バクバクと心臓の鼓動が激しく、呼吸するのも苦しい。
「おなじだよ、ノアザ」
わたしの手を唇にあてたまま、叔父が上目遣いにわたしを見た。
いつも以上に声が低い。
「おなじ…って…」
叔父から発散される色気を真正面からもろに受け止めてしまい、わたしは頭がくらくらした。
「こういうこと」
叔父が椅子から腰を浮かせ、わたしに覆いかぶさり。
叔父の唇がほんの少し、わたしのそれに重なった。
「おれ、はじめからおまえを姪だなんて思ってないよ」
しゃべる息がわたしの鼻にかかった。




