表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
叔父とわたし  作者: 周五
10/13

すれちがう

 とうとう、口にしてしまった。


 冬のはじめに気付いてからずっと隠していたわたしの気持ち。


 あとのことなど、なにも考えなかった。


 とにかく、悔しくて。


 叔父もわたしを意識するようになればいい。


 わたしの涙に驚いた様子の叔父は、口を小さく開き、なにかを言おうとした。


 けれど、言葉にならなかったのか口を閉じる。


 気まずい沈黙。


 暖炉でパチパチと薪が燃える音だけが聞こえる。


 すん、とわたしは鼻をすすり、服の袖で涙をぬぐった。


「ノアザ…おれもおまえが好きだよ」


 叔父の眉は下がり、心底困っていることがわかる。


 突然の姪からの告白に、どう答えていいものか逡巡しているらしい。


「なあ、どうして泣くんだ? おれはおまえに優しくしちゃいけなかったのか?」


 叔父は、考えをまとめながら話している。


「おまえは義兄夫婦の忘れ形見だ。あいつ…妻にとっても大事な姪だ。そんなおまえを引き取れてとても嬉しい」


 叔父が椅子を移動させ、わたしのすぐ近くに座った。


「おれはどうやったらおまえを幸せにできるか、ずっと考えてた。手紙と荷物が送られてきたときも、一緒に暮らすことになったときも、そして…いまも」


 優しく穏やかな光をたたえた瞳に見つめられ、わたしはきゅっと心をわしづかみにされた気分になる。


 ちがう。


 ちがうの叔父さん。


 わたしはいますごく幸せ。


 そして、苦しい。


 叔父さんが好きなのは亡くなった最愛の妻の姪であって、ノアザ・カリオンという15歳の女の子じゃない。


 もし、わたしじゃない別のだれかが姪だったとしても、叔父さんはきっと同じようにその子に優しくするだろう。


 わたしになんの魅力もないことは、自分自身が一番よく知っている。


「わたしの“好き”と叔父さんの“好き”はちがうよ」


 もう、泣かない。


 唇を噛み締める。


 やはり告白は失敗だった。


 わたしの想いはひとのいい叔父を困らせただけ。


 迷惑だっただけ。


 告白したらどうなるかなどわかっていたはずなのに。


 まだまだ思慮の浅い子どもである。


「なにがちがうんだ」


 叔父さん、どこまでも果てしなく鈍感なんだね。


 普通は、ここまでされたらわかるはずなんだけど。


 どう言ったら、わかってもらえるのだろう。


「叔父さん、あのね」


 わたしは体を叔父のほうへ向け、しっかりと彼の目を見た。


「叔父さんは、たとえば姪がわたしじゃなくても大切にしたでしょ? わたしはちがうの。叔父さんが身内じゃなくて、赤の他人だったとしても…好きなの」


 言っていて、だんだん恥ずかしくなってくる。


 夕食が並ぶテーブルを横にして、ムードもなにもあったものではない。


 ふいに叔父さんがわたしの手を握った。


 驚いたわたしは、握られた自分の手の行方を目で追う。


 叔父はわたしの手を自分の口許にもっていき、ゆっくりと唇をおしあてる。


 叔父のごわごわした髭とやわらかい唇の感触を手の甲に感じ、わたしは顔を真っ赤にさせた。


「お…叔父さん…」


 バクバクと心臓の鼓動が激しく、呼吸するのも苦しい。


「おなじだよ、ノアザ」


 わたしの手を唇にあてたまま、叔父が上目遣いにわたしを見た。


 いつも以上に声が低い。


「おなじ…って…」


 叔父から発散される色気を真正面からもろに受け止めてしまい、わたしは頭がくらくらした。


「こういうこと」


 叔父が椅子から腰を浮かせ、わたしに覆いかぶさり。


 叔父の唇がほんの少し、わたしのそれに重なった。


「おれ、はじめからおまえを姪だなんて思ってないよ」


 しゃべる息がわたしの鼻にかかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ