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7.戦闘準備


青空の中、空を飛ぶ鳥の目から戦場を覗き見る者がいた。それは砲撃観測手、彼は50の小さな魔力の収束が、敵の後方から感じ取られることを直ぐ様、部隊指揮に当たる上司へと伝えた。



「敵、砲撃術式の魔力反応を確認、

 総数50!内、20の予想弾着位置は

 ここです!!          」


「複合防郭術式即時展開 Quintet!!」


「了解!!万華鏡、数5、即時展開!」


その言葉と共に5枚の氷壁が空中に展開された。防郭術式は正式名称を

防御隔離式防衛術式、と言う

これは魔力で分子同士の隙間を満たした3枚の氷板と真空の層を2層、それらを重ね合計5層からなる氷壁を生み出す。

この術式は衝撃吸収と砲撃戦で主に使われる炎熱系の炸薬を防ぐことが出来る。

真空と氷の層の屈折によりそれを通して見たものが揺らいで見えることから、

通称、「万華鏡」(カレイドスコープ)と呼ばれていた。


それらを現在合計5枚、25層の真空と氷の層が砲撃陣地を守る、

その数秒後、甲高い風切り音と共に20の弾頭が着弾した。それは防郭を3枚目まで割るとそのまま炸裂、炎が飛び散るが4、5枚目の防郭がそれを防ぎ事なきを得た。


「クソ!」

(信管遅延が後1秒ズレてたらヤバかった)


「敵、貫徹弾頭の使用を確認した!

 防御を怠るな!!」


その戦場は一瞬の焦りすら許さず慌ただしく凄まじい速度で変化していた。その速さに付いて行けぬ者を振り落とすように…刻々と、



聖都防衛戦線 最前線



「いた、い、いた…」

意識が無くなりかけている者


「うぁ゛ぁぁぁ!!!!」

燃えてのたうち回る者、


「腕っ!腕がっ!俺の腕!」

両腕を失う者、



最前線は地獄であった。


「本部、此方は通常兵科のみだ!

 前線の魔術師はどうした!!

 これでは敵砲火のいい的だ!」


[此方本部から前線へ、現在魔術師の総数が足りていない、配備まで後数時間はかかる。]


「大型防郭無しで耐えろと!?」


[……………健闘を祈る。] ブツンッ


「本部!本部っ! クソっ!!」


そう叫ぶ者に向かい、一発の砲弾が飛んできた。それは弾着後直ぐさま炸裂すると、衝撃と氷の破片が兵士を襲った。


「しまっ!」


とっさに歩兵用の小型防郭術式を1枚展開するが、


「うっ……くそっ!足が……」


その者の右足の膝下から先は無くなっていた。それだけではない、内臓は、砕け、鋭利になった氷により、ズタズタに引き裂かれていた。出血により意識が遠のく…


「此方前線から…本部へ、敵、高殺傷

 弾頭の使用を確認した……    」


その通信を最期にその兵士はこと切れた



高殺傷弾頭、本来砲撃術式は弾着地点に砲弾の運動エネルギーにプラスして、爆炎を発生させる広域制圧を目的としたものである、が、それら弾頭、外殻部の術式を入れ替えることにより様々な種類の砲弾を撃ち出すことを可能、

そして、その種類の一種が、

高殺傷弾頭 氷散弾、である。

これは弾頭外殻部を防郭術式の氷板と同様の硬質な氷によって形成、内部を高圧ガスにすることで炸裂時に内部ガスに点火しその燃焼ガスの圧力で外殻部の氷を撒き散らす、また外殻の硬化氷部分に、意図的に脆弱な部分を作ることにより、炸裂時には細かな氷が着弾地点周囲を襲う、と言うものである。

これは必要以上の外傷を与えることから国際条約上違反とされている魔術である




聖都防衛線 参謀本部


「敵が氷散弾を使っているだと?」


「これは明確な条約違反だ!!」


「魔物相手に条約が通じると?」


「そもそも!魔物など冒険者の管轄だ

 冒険者は何をしている!     」


「その冒険者やそれに属する傭兵等の

 武装団体に、銃の携行許可を出さな

 いのは、貴方方軍の方だろう?  」




「静粛に、」


「こちらは砲撃隊及び前線歩兵からも

 我が軍も高殺傷弾頭を使用する様に

 要請が来ている、私としては認可し

 ても良いつもりだ。       」


「正気ですか!戦後、周辺国に何と言

 われるか!           」


「だが!使わなければ此方が負ける…

 検討の余地もない………      」


「ですよね?元帥殿、」


「………………………」



上は責任を掛け、兵は命を掛けて、戦争と言うものをしている。人間同士の戦争は一種の外交手段、だが、魔物は人を滅ぼすべくいた、人同士の殺し合いの為のルールなど通用する訳もなく、残酷にただ多くの命を刈り取るべく、

聖都の目の前へと迫っている。





聖都内 大通り


軍本部へと続く一本道を走る者が3人、言わずもがな分かるだろう、

レイ、レクト、ユニの3名である。


「敵、砲撃陣地の壊滅?それを俺に?」


訝しげに聞くレイの言葉にユニは頷いた。


「ええ、戦場で二番目に魔力を消費す

 ると言っていいのは砲撃術式です。

 それらを潰せば、魔力浪費を遅らせ

 るどころか、敵の火力の大幅カット

 を期待できる…

 素晴らしいでしょう?      」


「簡単に言ってくれるな…」


「でも、貴方のその手足なら、

 それが可能だ       」


「…………………」


その会話を黙って聞いていたレクトが、口を開いた。


「そういや、関係無いし今さらだが

 お前さん、初対面の時と随分態度

 が違うな?          」



「……………なんですか、ご老人……」




「そういやそうだな…………ユニ、お前

 何であんな風な感じだったんだ? 」



「…………………………」



「ん?」「何とか言え、」



「………舐められない様に、と」



「…………………」「…………………………」



「お前…」「お前さん…」


「「馬鹿だな/何だな……」」



そう会話する者たちの目の前には、

聖王国軍本部の建物が迫っていた。




聖王国軍本部庁舎内部


「何?近衛部隊のレイ・エクアチオン 

 だと?特記戦力のか?      」


そう訝しげな声を出すガタイの良い、軍服をパッツンパッツンに着こなした男が一人、作業を止められたことに眉をひそめていた。


「……ユニ、説明しろ」


ユニはここに至るまでの全てのことと、レイをどの様に使うかを事細かく、それでいて、また、あの悪趣味な顔を披露しながら説明した。


「…と、言う訳です。」


それを押し黙って聞いていた。男はゆっくりと口を開く


「王への許可は?」


「終わってから取ります。」


「死亡した場合の責任は?」


「無論、司令官である貴方に、」



「…………はぁ、分かった。他の奴らに

 話を通す、レイ殿、それとレクト殿

 私に付いてきて下さい、ユニ、お前

 は………、まあいい付いてこい   」


半分呆れた様子でそう言う彼に促されるまま、レイとレクトは庁舎奥の会議室へと連れられていった。


聖都防衛戦線 参謀本部


男に付いていき、数分後、目の前に重苦しく、それでいて高級感のある扉が現れた。男はその前で立ち止まると、此方に語りかける。


「いいか、忠告しておくが、この扉の

 先に集まっているのは軍のお偉方か

 ら貴族まで、様々だ、客人ではある

 が、失礼のないようにな…    」


そう言い終えると男は三度軽くノックし良く響く大声で、言った。


「デウス・ノーマン准将であります!

 入室の許可を!         」


少しすると中からそれに対する返答が、


「……入れ」


と短く、それだけ返ってくる。それを聞いた男は扉に手をかけ、そして開けた。


その部屋の内部には険しい顔をした、中年から老年の者達がズラッと並び話し合っていた。その場の雰囲気は、そこに留まりたくないと、レイやレクト、そしてここに招き入れた男にまでも感じさせるものであった。


一通りの説明はノーマンが行いそれを傍らで黙って待っていると、その並んだ者達の中の一人が口を開いた。


「ノーマン准将……今は戦争中、その様

 なお遊びに付き合っている暇は無い

 上手くいくかも怪しい作戦に割く時

 間は無いのですよ?…      」


最もであり辛口の評価であった、それを皮切りに、次々と不満の声が出始める。


「アルテインの英雄などとくだらない、

 大戦の古臭い異名を信用しろと? 」


「そもそも銃すら持たぬ者に何が出来

 ると言うのかね?        」   


「いい加減、現実を見たらどうかね?

 准将、             」


その言葉に我慢ならず、口を開こうとしたレクトの前に左腕を出しレイは無言で制する。次に口を開いたのは、その部屋に並ぶお偉方では無く、レイと並びその話を黙って聞いていた

デウス・ノーマン准将、であった。



「私は!早急な事態の解決を

 図りたいと思っている!

 だから彼を使うと決めた!!   」


その言葉に場は一瞬静まるがまた直に騒がしく成り始める。


「その者が事態解決に役立つと?」


「一体一人でどうすると言うのかね?」


その言葉達を遮る様に、彼は言う


「役立つ!少なくとも

  私はそう思っている!、   」



デウスの言葉に続くように今まで大人しく黙っていたユニが声を上げた。


「失敗しても失うのは彼一人の命、

 ローリスクハイリターン、美味しい

 話ではないですか?       」


その、彼らの投げかけに、場の天秤は少しレイに傾むきつつあった。


「レイ、説明を…」



「説明します、今回の作戦を………」


それを聞き、暫くの沈黙が過ぎ去った後短く、簡潔に返答が返された。


「…………聞こうか、」



その言葉により、その場の天秤が僅かにレイへと傾きつつあった。



「先ず、使うのは左足の力、

 この足はSpeed-SHIFT、

 つまりは増速の力です。  」


「敵の砲火を走って抜けると?」


「ええ、その通りです。」


その回答の場がざわつく


「馬鹿な!死ぬつもりか!?」


「いいえ、この足は全力で、尚且つ使

 い捨てるつもりなら初速で510m/s、

 貴方方の言う銃の弾と同等の速度が

 出せる、飛び散る氷も追い付けない」


「それともう一つ、速度が速すぎて加

 速後、充分に減速するまでは地面に

 足を付くことが出来ない、

 足を蹴った最初、つまりは初速がト

 ップスピードで後は減速していくこ

 とになります。         」


「要するに何者も追い付けない速度で

 敵陣地まで切り込む、と言う事かね」


レイはその言葉に無言で頷いた。


「それで、この手足の中は術式発動中、

 不安定で高濃度の魔力で満たされて

 おり、それは使い潰した後も同様残

 留する。

 高速で近づき、壊れた左足を、

 切り離す。          」


「高濃度の魔力は制御術式から離れて

 通常以上に不安定化、臨界に達し、

 爆発します。そして敵砲撃陣地の中

 は砲撃術式発動の為に、常に魔力が

 収束し、溜まっている。     」


「そのまま誘爆する、か……」


その言葉にまたレイは頷く、


「その為に、空間魔力の素因を変化さ

 せる術式と、臨界地点までの時間を

 正確に図り、到着した直後に、直に

 切り離せる臨界限界になっている

 必要がありますが、       」


その馬鹿げた作戦に

また室内はざわつき始めた。

そしてレイが説明している最中、レクトが空中に展開して見せていた「天与の四肢」の術式本体を見ながら、また険しい顔で話し合いを始めた。



「確かに…理論上可能ではあるが…」



「魔導技術部の方はどうなのかね?…」



「無茶かと、いや特殊機械化兵

 の装具実験の前例もあるか……  」


そのざわつきを無視してレクトの声が割って入った。



「言っとくが、こいつは俺の特注品だ

 保証はしとくぜ、生身の方の保護は

 体内回路内の魔力性質の変化と、

 空気障壁の物理的保護の二種がある。

 行って潰して帰って来るのに、

 問題はねえ筈だ。        

 使い潰すってのは、納得し切れて

 ねぇが、この際仕方が無い、

 まあ要するに俺が技術を保証するっ

 つうことだ。          」


そう言うレクトを訝しげに見つめる。男が一人、男は現技術開発局の局長であり名をヒロト・サクラギと言った。彼は口を開き疑問を投げかける


「先程から気になっていたが、

 そこのドワーフの御方は?」


その言葉に自身を知らない事に呆れる様にレクトは、返した。



「何だい?お前さん俺を知らんのか?

 俺はレクト・ライノール、元軍の

 魔導技術者だ、         」


その言葉に、質問をした技術開発局代表が思い出したかのように声を上げた。


「貴様!?十年前クビになった局長

 のレクト・ライノールか!   」


「おっ、お前さん、今の局長か?

 俺を知っとるとは優秀だな、   」


「行けますよ!素行は兎も角、技術は

 トップクラス、彼の装具なら充分に

 可能な筈です!         」


そう、喜ぶように声を上げ、興奮気味になっている彼をなだめるように、別の者が声を上げた。

その者の名は、総軍司令官

バッハ・フォン・ヴァルトシュタイン

そしてこの中で彼だけが、レイと面識があった。


「サクラギ、」


「はっ…申し訳無い元帥殿…」


「レイ殿、久しいな、先の大戦以来か、 

 随分変わった様だが、相変わらずの

 ヤンチャ小僧の様で安心した。

 それで、だ、ここにはそのヤンチャ

 小僧としてでは無く『英雄』として

 来たのだろう?         」


そう問う彼のシワが深く刻み込まれた顔には、優しく語りかけている筈なのに言いようのない、威圧感があった。


「貴殿の腕は知っている、だが、砲火

 を抜けるにしても、防郭がいるだろ 

 う?それも既存の魔術を凌ぐ強度の

 物が、まさか片道切符で行くわけで

 はあるまい、確かに、到達出来れば

 爆薬の設置等の破壊工作を幾らでも

 出来る、だがな…        」


そう言い、近くの兵に手でサインを送るそれに応えた兵は術式を空中に書き始めた。すると、その部屋に大音量で前線の通信が流れ始めた。


[砲撃のペースが滅茶苦茶だ!]


[彼奴等、魔力リソースなんて気にしていやがらねえ!          ]


[駄目だ!防郭展開間に合わない!!]


そこで通信は途絶えた。


「前線はこの有様だ。それでも君は

 やれる、と言うのかい?    」


「……………」


その場に居る全ての者がこの通信によって口を閉じざるを得なくなっていた。

レイすらもである。

だがその中で空気を読まずに口を開いた者が一人、それはレクトであった。


「おいっ、レイ、忘れちゃいねぇか?

 お前の左手の力は何だ?     」


その言葉にはっとする、が直にその考えも現実的で無いと突き放す。


「レクト、確かにAegisなら数秒間の

 絶対防御が出来るが、一度に二つの

 力を発動させるのは、俺の魔力量的

 にも仕様的にも不可能だ。    」


その言葉に、レクトはニヤリと笑って返した。


「お前さん、忘れてるぞ、術式の改良

 をしたと言っただろう?」


それを聞いて思い出す。確かにあの時、

レクトは改良した術式に変えたと言っていた。この「天与の四肢」は四肢すべてで一組の装具、中心の制御術式は全ての四肢に繋がっている。今まではその制御術式の効率が悪く、また、乗せられる魔力収束機もサイズに制限があり空間に満ちる魔力にも頼れない、故にレイ本人の魔力にのみ頼らざるを得ないその上で発動可能は一つまで、同時発動は出来なかった。だが今回レクトの改良によって主に、昇圧の際に御しきれずに漏れ出た魔力の制御が可能となり効率がある程度改善されるに至った、現在の術式ならば、今までの消費魔力の半分。

つまりは今まで出来なかった同時発動が現在、可能になったと言うことである。


「同時発動…

 出来るようになったのか!?」


そう言うレクトは自慢気な顔をしながら頷いた

そして、レイは元帥の方へと視線を移すと、奥に座る、歴戦の老人に向かって言い放った。


「やれます!…」


その姿を見て、元帥はニヤリと笑い、

そして言った。


「レイ・エクアチオン、君の参戦を

 認めよう異論はこの私が認めない」


その言葉を受け、

レイは戦場へと再び赴くことになる。

戦場を駆ける、赤いマントの姿が

再び現れる時は近い


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