6.聖都信仰、開幕
晴れている、荒野に陣を敷く大量の魔物の軍はその青空の下に、その脅威をこれでもかと誇示していた。
その軍団の頭であると言わんばかりの場所に、一体、屍人の様な存在が座していた。その者は退屈そうに、その肉の無い頬に、これまた骨だけの手の甲を当てている。それに近付く側近と思われる亜人が一人、頭を垂れて何やら報告を始めた。
「クラーク様、欠員の補充の目処です
が…」
「なんだ?申せ」
「直接戦闘が出来、尚且つ魔術が使え
る知能を持つ、その両方を両立出来
る同族となると、かなり貴重故に補
員は難しいとのことです。」
「構わん…侵攻が成功した後、幾らで
も代わりを探す時間はある。分かっ
たら下がれ…」
「はっ!承知しました!」
その生きた屍人は、短くため息をつくと目の前の聖都を見つめ、物思いに耽っていた。
「ダレクよ…大義であった。
ゆっくりと休め」
そう、虚空に語りかける屍人はまた、ため息を短くついた。
-聖王国軍 聖都防衛軍司令部-
慌ただしく、人が行き交い、それぞれが自身の仕事を行う、その中で千里眼を使用している観測手が発した言葉はその場を更に、追い詰めることになる
「どうだ?高濃度魔力の発生位置は?」
「敵軍を確認、約……2万5000!」
「何?本当か、それは」
一人の男がその観測手へと聞く。
「はい!…複数の使役鳥からの視覚情報
なので間違い無いです!!」
「……距離は!」
「防壁から約20km!」
男は振り向くと、その場で忙しなく
仕事を続ける者たちに向って行った。
「ここに居る全ての者にまず伝える!
敵に防衛ライン内側に入られた!
敵数2万5000!距離は20!
直に迎撃陣を敷け!!
魔物共は目と鼻の先だ!」
振り返ると男はまた別の者に指示を飛ばす。
「ブライト、規定通り民を
城敷地内に避難させろ、
城の防衛には近衛第二部隊に
当たらせるよう取り次げ」
そう指示を出した男は、観測手とは別の者に問いかけた。
「北の防衛線から帰還してきたのは
現時点で何割だ?」
「まだ、3割程度です…何分予想日から
のズレが凄まじいので…」
その観測手の隣の席で魔術による傍受をしている者がその会話に割って入る。
「敵軍から宣戦布告を確認しました!」
男はその言葉に片手で頭を抱えながらため息を付くと、後頭部をボリボリと掻いた。そうして、深く息を吸い、呼吸を整えると、その場の全ての者に聞こえる声で指示を出す。
「通信を繋げ!迎撃戦だ!!」
聖都全体に宣戦布告の後、混乱する民とは違い、明確な目的を持って進む者が3名、一人は赤いマントに鋼の四肢を持ち、もう一人は年老いたドワーフ、そして最後の一人は全身が白い装いをした男であった。
「おい!、やべぇじゃねぇか!!」
ドワーフの老人、レクトはそのシワだらけの顔を汗に濡らしながらそう言った。
「分かっていますよ、そんなこと」
白い装いの男はそう平然を装ってはいるが、額の汗が内心を表していた。
「………それで、あの軍勢を危惧して俺
を?俺一人でどうにかなる話では無
い筈だが?」
そう、赤いマントの男、レイは白い装いの男、ユニにそう問いかけた。
「ええ、貴方が幾ら特記戦力とは言え
軍勢相手に無力な事ぐらい知ってい
ます、ただし、貴方は大将取りとし
て有名なんですよ。貴方がいれば兵
の士気も多少は上がります…それと」
「それと?」
「貴方には真っ先に大将首を取って
来て頂きたい、出来るでしょう?
貴方なら?」
そう言う、彼の顔を見てそれが冗談では無いことが分かる。
「おい、待て…さっきお前さん、魔物
の知能が上がっとるって言っとった
だろう?大将が亡くなったからとい
って、すぐに戦が終わるとは限らん」
その質問に男は即座に返す。
「いえ、知能を獲得しているとは言い
ましたがそれもまだお粗末なもの頭
を取れば今まで同様、後は容易い」
「なら、今までの魔王軍とはどう違
う?」
レイも男に問いかけた。
「今までの魔王軍の雑兵が獣、若しく
は片言の言葉しか喋れない程しか知
能を持たなかったのに対し、この軍
勢は雑兵であっても流暢に言葉を喋
れる位の知能を持っている筈です。」
「ここからは予想を含みますが、恐ら
く今までの高い知能を持った魔物が
小さいグループを統率、と言う形は
変わっていません、ただ今までより
圧倒的に融通が利く、そして統率者
クラスしか使って来なかった魔術を
雑兵が使ってくる。これらがあの軍
の脅威です。」
その言葉に対してレイは訝しげにユニに問う、
「待て、それは、馬鹿が見境なく魔術
を使うと言うことか?それならば戦
場の魔力は直に枯れてしまうので
は?……………!」
何かを察した様子のレイに男は頷いた。
「察しが良いようですね…そうです戦
場の魔力が枯れれば此方の魔術師も
機能を失います。私ですら無力、そ
うすれば、今の魔術主体の戦場から
一気に時代が巻き戻る。混乱は避け
られない、」
「おいおい!そりゃぁ不味いぞ!兵の
装具の殆どは魔力蓄電池式の筈だが
それも二十分かそこらが限界、それ
に風呼びの通信も使えないっつぅこ
とだろう!?」
レクトはユニの言葉にそう反応した。
それは彼が魔術を扱える技師であるが故に出た言葉であった。
そんな言葉にユニは頷くと続ける、相変わらず額に汗は流れていた。
「それで、人間と同等かそれ以上の知
能を持つ統率者がそれに気付かない
筈がない、恐らく態と魔力を浪費す
るつもりです。此処は街が近い、恐
らく都市機能は停止しますし、大型
転移魔法陣での増援や避難も見込め
なくなります。」
「つまりはその馬鹿さが脅威たり得る
と軍は踏んでいると?」
そのレイの言葉にユニはまた頷く
「ええ、これが私だけでなく、軍全体
の見解です。」
事態の深刻さが思ったよりも深かったことにその場のレクトとレイの二人は今
理解した。
そして理解した上でレイはユニに問う
「で、俺に何をさせる?大将首だけが
所望じゃないだろう?」
そんなレイの問いに、ユニは笑みを浮かべると頷いた。
-防壁前 前線指揮所、陣地内
「後方の援護魔術部隊は迎撃の準備を進
めろ!」
「遅延は12!炸薬設定は炎!魔術陣、
魔術式、組み方始め!」
「了解!遅延12秒、炸薬は炎だ!」
目の前の軍勢の迎撃の為に、聖王国軍は着実に迎撃の準備を進めていた。
「発射準備完了!いつでも撃てます!」
その言葉にその部隊の指揮者は頷くと発射の指示を待つ、暫くして、通信が入る
[敵歩兵動き有り、後方の術者に…]
[術式行使を許可する。]
その通信に指揮者は歯切れよく
「了解!」
そう返すと、部隊に目線を向け、怒号のような声量の指示を出した。
「全体!魔術砲撃戦用意!放て!!」
待機中であった術式が一気に稼働し、敵に向かって炎の砲弾が放たれた。
「着弾まで、10、9、8…」
「…3、2、1、今!」
「観測手、敵の被害は!」
「敵、歩兵師団へ直撃…
爆炎…晴れます!」
着弾によって巻き上げられた、砂煙、そして炸裂し、着弾地点を焼く炎の中、敵の様子が見え始めた。
確実に進軍中の敵団体の戦闘から中程までを狙った術式、しかし、敵には殆ど打撃を与えられていなかった。
「敵、防隔術式を展開、損害は軽微!」
「…上の言う通りか……」
「全体へ!遅延を16秒、炸薬そのまま
外角を貫徹式に変更!」
「ぶち抜いた後に焼いてやれ!」
「了解!」
それぞれの思惑の中、それを傍観するものがいた。その者は自分が神とでも言うように天高くから、ただ、その様を見下ろしていた。
「うーん、負けるね…」
「はっ!魔王様直々に下賜された軍で
ございます。聖王国軍などに勝ちは
ございません!」
その存在は側近の亜人の言葉にクスクスと笑うと、自分の言葉の意味を訂正した
「いやいや、違うよ。負けるのは
クラーク君の方、」
その言葉に亜人は、何故そう分かるのか、分かったとして何故その様な言葉を平然と言うのか理解出来ないと言った様子であった。
「はぁ、準備しておかなきゃね。
主役の… 」




