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5.侵攻


「バッカ野郎!!」


鼓膜と関節によく響く声に思わず首を竦ませた。その怒号を発するのは目の前の老いたドワーフ、それはレイの義手義足である「天与の四肢」の作製者であり、整備を行なっている技師、名をレクト・ライノールと言う、そしてそんな彼が怒りをぶつける矛先は言わずもがな、レイ・エクアチオンその理由もお察しの通り、壊れた右腕に付いてである。


「お前!!まーた、術式を焼きやがって、魔力を抑えりゃ10秒は持つのになぁ!!」


尤もな意見である、だが強敵を前に妥協するよりかは彼の誹りに耐える方が良い、と感じてはいるがそのことは口が裂けても言えない、それ程なまでにライノール技師はレイにとって恩人である。


「済まなかった。だから、今回も頼む」


「お前っ!そう言や良いと思いやがって、誠意ってものがな…………まあいい、今スペアを取ってくる。ちょっと待っとれ、」


…………些か恩人に対する態度では無いとは自覚しているが、そんな位の間柄であると認識して欲しい

奥へと下がって行ったその老体の背中には、その老いを感じさせぬ安心感があった。




「おしっ!出来たぞ」


汗を拭いながら彼がそう言った、新しい腕に意識をやると手が動くことが感じられる。


「少し重くなったか?」


「ああ、あんたが毎度毎度ぶっ壊すってんで、物理回路部分の材質を金属に変えた。後は術式も改良したものに替えた、以前よりは感度が良い筈だ、」


そう言いながら、レクトは傍らに置いてあったツヴァイヘンダーに目をやり、少し感慨に耽ると、口を開いた。


「なあ、レイよ。親父の形見を大事にするのはいいが、もう替え時なんじゃないか?」


「いや、まだ使うさ」


それだけ言うと、レイは剣を持ち立ち去ろうとする。


「レイ、代金は?」


「次払う、つけといてくれ」


「そうかい………死ぬなよ」


背中を向けたままに手を振り、止めた足を再び動かし、扉の前まで来たその時である。


「すいませーん、」


3回のノックと共に、男の声が響く


「すいませーん、入れていただけませんか〜?」


レクトとレイは顔を見合わせる。


「レクト、店は」


「ちゃんと休業中の看板を立てた筈だ」


その短い会話の後少し間が空く、その後互いに頷くと、レイはゆっくりと扉を開けようとドアノブに手をかけたその時である。

強引に蹴破られた扉飛んでいき棚にあった機材や、材料、道具などはガラガラと音を立てて床に落ちていった。

とっさにツヴァイヘンダーを右手で構えたその時である。


「 横槍 漁夫の利 致命の理


       「改

        式」

                 」


扉を蹴破った男がそう詠唱をすると共に右手は脱力し、剣を落としてしまった。とっさに左手で剣を掴み後ろに飛び退く、右手の様子を探るがどうもおかしい、この義手は体内の魔力回路と義手に作った魔力回路を繋げ、内部の魔力を擬似的にすることで実際の手と遜色無い動作を実現している、だが今は何も感じない、いきなり接続をプツリと切れた様な感覚だ。


「貴様、何をした……」


男はニタニタと悪趣味な顔をさせながら口を開く、


「いや失礼、警戒されているご様子でしたので、叩き斬られては敵わないと思い、右腕は奪わせて貰いました。」


そう言う男の格好を見て、何処かに見覚えを感じたがそれを思い出すに至らず、黙っていると後ろでレクトが声を上げた


「お前さん、その格好…魔術師か?」


その言葉に舌を短く鳴らしながら、指を振りながらで違うと男は示すと、


「お爺さん惜しい、魔術師、では無く魔法師です」


「魔法師だと?」


魔法師、正式な名称を

「魔力法則適用不可能者」

と言う、一般的に魔術は魔力を物質やエネルギーに変換することで汎ゆる事象を再現することが出来る、だが、魔法師は違う、魔法師は魔力によって新たな事象を引き起こす。例えるならば、魔術で炎を生み出すには、燃料、酸素、そして点火源となる火花等を魔力を変換し、それらを炎となる条件に調節する必要がある。それを術式による制御の下行う、

だが、魔法で炎を創る場合は違う、魔力を直接炎に変換する。「魔力は炎となる」と言うルールを創り、自分自身にのみ適用することが出来る。ただし魔法師は魔術師の様に多数の術式を行使することが出来ず、魔法師は一人なら一つの魔法のみ、そんな魔法と言う奇跡を使うことを許された存在であり、その魔法は再現性が無く、他者は使うことが出来無い、それは同じ魔法師であっても同様である。

さて、その様な存在がレイへと如何様な用か、本人には余り心当たりが無くレイ自身困惑を拭えずにいるとそんな顔をどう思ったのか男は口を開くとこう言った。


「そんな目で見ないでくださいよ。私はただ、貴方を軍へとお連れしたいだけです。」


「軍?」


ここで先程の心当たりを思い出す。この男の格好、それは聖王国軍魔術部隊のものと酷似していた。ただ、所々にデザインに違いがあるのと魔術部隊のパーソナルカラーである筈の濃藍色では無く白、上から下まで真っ白な装いであった。


「はい、貴方が王直属の私兵部隊、近衛第一部隊のレイ・エクアチオンですね?いや、それとも『たった一人の第一近衛部隊』とした方が良かったですか?」


その言葉に思わずレイは顔をしかめた。


「それを知っていてこれか、なんだ?王からの命令か?」


「私を伝言係か何かとお思いで?そんなことは最下の者がやることです。」


「なら、何の為に来た?」


男はその悪趣味な顔を一切崩さずに、余裕そうにしていた。そして、此方に指をさすと、


「貴方への勧誘です。」


とそう言った。


「引き抜きだと?そんなこと陛下が…」


その言葉を言い切る前に男は言う


「許すわけが無い、ですよね?ですが此方も人材不足、優秀な人材を遊ばせているのなら此方で使いたい、と言う訳ですよ。」


「陛下に直接進言したらどうだ?」


「もうしました、却下されたので、直接、貴方自身が移動をするように、この!私が、来たんですよ!」


悪趣味な表情をより一層気に食わない表情へと変えながら男はそう言うと、突出した右手の指をクイッ、と動かす。

その瞬間に、それに合わせて自分の右腕が動く、驚いたがレイはとっさに左手に持った剣で自身の右腕を切り飛ばした。


「あぁ゛!!おい、テメェ、新調したばっかだぞ!!」


「言ってる場合かよ!!」


その様子を見ていた男はやっとその表情を少し崩す。


「おや、まさかノータイムで切り落とすとは、義手とは言え自分の腕を、」


その言葉に、目の前の男を睨むがそれを気にする様子なく、男は続けた。


「それで、私に付いて来て、下さりますか?」


「無理だな、」


「嫌、では無く?」


「何故、無理なんですか?」


「第一として、信用出来無い、初対面でいきなり魔法を使う奴を信用出来るか?」


男は右手を今度は自分の顎にやり俯くと、少し考え、此方を見た。


「確かに、」


「なら……」

「なら!」


男はまたレイの言葉に被さるように口を開いた。


「信用して頂きましょうか、」


「なら、先ずは名乗れそして俺の右腕に何をしたのかを教えろ」


男は口に手をやり、軽く咳払いをすると語り始めた。


「私の名前は、ユニ・ルサーバ、王国第一魔導部隊の隊長!、魔法名は『Space Man from Pluto』詠唱は先程聞いた通り、横槍 漁夫の利 致命の理 そして確定式は『改式』です。魔法効果は魔法式、魔術式を奪うこと、これで信用して頂けますか?」


そう、やけに素直に答える様に少し怪しさを感じながらも、その言葉に嘘は感じられなかった。


「そうか、」


「で、信用して頂けますか?」


「いや?」


「話が違い…」

「言ったからと言って信用するとは言っていない、これら情報が信用の最低条件と言う話だ。」


男の言葉に被せる様にレイは返す、それが気に食わなかったのか男はまた少し表情を崩したが、直に余裕そうな表情に戻ると、


「ああ、後、もう一つ、魔法発動条件に『対象の式名、もしくは確定式とその効果を知る必要がある』と言うのがあります、」


と、言った。

そしてこの言葉は右腕の操作を奪われた時点で、この腕の効果も術式名も確定式も全てを知られている、と言うことを意味している。


(いつだ?いつ知られていた?この手足になってからの戦闘は極力していない、したとしてもどうしようも無い時、だけだ。そもそも、この手足のことも近衛部隊にしか伝えていない上、軍と近衛部隊は別組織、所属者の個人情報を伝える訳がない、)


「『一体何時から』、ですよね?貴方.ここに来るまで、一体何処が所有している馬車に乗ったと思っているんですか?」


目の前にはそう言いながら不敵に笑う、真っ白な装いの男が不気味に立っていた。


「だが、先日使ったのは『右腕の力』だけだ。」


そのレイの言葉をまた、遮るように、目の前の男は不気味に言葉を重ねた。


「 『Right Arm,on Power-SHIFT.

   Left Arm On, Aegis.

   Right Leg On, Attack-SHIFT

   Left Leg On, Speed-SHIFT』

ですよね?効果はそれぞれ、

圧倒的な力、

如何なる攻撃を通さない防御魔法、

大地をも割る踏み込み、

何者をも追い付かせない迅速、

まさか、貴方に付いて調べたのが前回の戦闘だけだとは、思いませんよね?」


しまった、そう思った。陛下に四肢を取り戻す旅を命じられてからと言うものそれだけに奔走して来た。周りが自分をどう思っているかもそして、周りが自分どうしようとしたいるかも考えずに、


「種明かしは終わりましたよ?来ていただけますか?」


「断る……」


「なら、仕方が無い、横槍…」


男が再び詠唱をしようと口を開こうとしたその時であった。

足元がぐらつき、辛うじて立ってられる、それ程に凄まじい振動が聖都全体を襲った。


「なっ!?」「何だ!?」「しまった!」


3人は全員が驚いていた。だが、その中のただ一人だけはそれを知っている様な口振りをしていた。


「そんな!まさか?」


その男の名はユニ・ルサーバ、その男は魔術を発動しようと指印により空中に術式を書き始めた。当然レイはそれに警戒し、剣を構えたが、そんレイをなユニは無言に左手で制した。すぐに術式が完成する、恐らくは「風呼び」を使っているユニはその術式を使い、何処かと、恐らく軍本部であるが…連絡を取り始める。


「もしもし?、最も先の予想では!?、目安だと?ふざけるな!」


その怒号の後、術式を解いて通信を切ると、此方に視線を戻したユニの顔は先程とは全く毛色の違う表情をしていた。


「レイ・エクアチオン!そして後ろのドワーフも着いてきて下さい!」


そう言い彼の顔からは悪趣味な顔は抜けていた。


「何を…」

「お願いします!状況が変わった、いち早く軍本部へ!」


焦り様と、不本意であると言うことが表情の節々から漏れているが先程の嘲笑的な態度とは裏腹な発言、そんな彼の変わり様に、英雄とドワーフの二人は困惑しながらも彼の言葉に従うことに決めた。





「全く、まだですか?」


「テメェのせいだろうが!?これ1個作るのにどんだけ時間が…」


「レクト、耳元で叫ぶな、後動き辛い」


歩きながら、もう一つあったスペアの右腕を急いで取り付けるが、そのせいで移動が遅れていることに横を歩く白い装いの男は悪態を付いている。


「で、何か知っているんだろう?言え」


「そうですね、歩きながら説明します。聞き逃さないよう」


男は先程の人物かと疑いたく成る程に素直にそう答える男に二人は静かに頷いた。


「我々聖王国軍は魔王軍残党に一つの懸念がありました。それは再度の軍事的組織化、頭である魔王は貴方が潰しましたし、魔王に高い知能力を与えられた。『大魔族』も、各戦場にて各個撃破がされています。貴方がアルテインで倒したサイクロプスも同様ですね。」


「再度の組織化?魔物は知能力が低い、頭のいい個体が群れの頭として存在し、それを管理、統率するのが『大魔族』そうやって魔王軍は組織化していたんだ、その大魔族も魔王も存在しない、今さらそんなこと…………!」


一つ、心当たりがある事にレイは気付いた。そう先日戦闘をした、魔物でありながら、魔術を扱う知能を持つサイクロプス『ダレク』それを思い出し、じんわりと嫌な汗が出る。


「貴方の心当たり通りです、個体自体が人間と同様な『知能』を獲得しつつあるんですよ。そして、貴方が遭遇した魔導型の個体、その半径に多量な魔力収束を感知しました。一部地域の通信は荒野と言うこともあり魔力が薄い為によく通信の阻害があったのですが……この最近になって、その通信不可能地域が拡大、調査の結果、通常、自然ではあり得ない濃度の地点があることが判明しました。」


「魔力の収束?転移か何かか?」


レクトがそう言葉を挟む、そしてそれに彼は頷いた。


「ええ、そしてその魔力収束地点の魔力量、と範囲から、恐らくは軍隊規模の魔物の集団が来る事が予想されました。そしてその地点の魔力反応を調査し、その地点の魔力上昇幅と人類が使用している大規模転移魔術陣に必要な魔力量が溜まるのに後長くて半年、早くても2ヶ月の猶予がある、筈だったんですが、」


彼はその顔をくしゃりと歪ませ、虚空を睨むと言った。


「要するに、『魔物の術式構築技術が人類を追い越した』可能性があると言うことです。」


その言葉に血の気が引いたのは言うまでも無い、今はただ急がねばと、歩を進めるレイの額には、汗が滲んでいた。


『聞け!!人間共よ!』


その言葉に一瞬身体が固まる。両隣を走る二人も同様に足を止めた。そして、その声が空気中の魔力を伝播して拡大され伝わって来ているのが分かった。


『我々は此処に新たな魔王城の建設をする、この聖都を明け渡せ、さすれば、この場から生き延びることを許してやろう……そうせねばこの軍勢二万と五千の前に平伏す事になると思え、』


『だが、それでも立ち向かうと言うならば…』


『我々の侵攻に抵抗して見せよ!!』


その声だけが、

絶望的に、

民の平和を取り上げるように、

聖都へと響き渡った。

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