表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/8

3.傷の青年

夜が開ける。射し込む朝日はただ何時もの様に辺りを照らし、昨日の戦いが嘘であったのかの様にただ平穏にそこにいた、その朝日に照らされ伸び始める三つの馬車の影、そして、墓石の代わりに突き立てられた斧と剣達の影がただそれが夢では無いことを知らせている。

墓の前に一人、佇む人影がいた。その者は小豆臙脂のマントを羽織り、背中に剣を背負った男である、男はその墓石を暫く見つめた後、ただ一言も、発さないまま静かに墓から立ち去った、光に濡れ、鈍く光る鋼の腕を揺らしながら、




馬車が小刻みに揺れている、

折角だからと同乗させて貰ってはいるが、いや、と言うより、御者にどうしてもと頼み込まれ半ば無理矢理に同乗しているが、あまり乗り心地の良いものではなかった、何故か?

馬車に乗る者達は戦場で傷を負い、戦うことが出来なくなった者たちだ、だが、その中には戦いを恐れ、自ら自身を傷つけると言う者も多かった、まあ、そんな事もあり、怪我人にまで手を回せないようで、下っ端の兵とそこそこの傭兵団のそれまたそこそこの兵士が寄せ集められ、着けられただけで護りはお粗末と言った印象であった。瀕死の者はまず助かる見込みがない為放置される、だからここには居ない、怪我人の割にはやけに元気が良い者、傷が痛むのか常に寝ているもの、気が可怪しくなっている者、等々言ってしまえばかなり騒がしい印象であった。そんなこともあり馬車の乗り心地は余り良くはなく、何故、彼が私を引き止めようとしたのかがそれを守護する兵たちを見れば何となく分かった

そんな馬車の様を横目に曲がった背中で首を突き出して前を見ている御者に話しかける

「で、この場所は何処に行くんだ?」

その問いに対して、車列先頭の馬車の御者は

「この馬車は聖王国内の軍設備の病棟行きですよ、良いところですよ?なんたって治癒魔術師だけでなく、珍しい治癒の魔法を使える魔法師が一人いるのでね。それに、モエニアは復興の真っ最中ですし、今、前線に近い栄えている国なんて聖王国位しかないですからね。」

その言葉の後御者は目を逸らすと

「.......まあ、ここにいる者の何人がそんな恵まれた環境が必要な奴なのかは悩ましいがな、」

と小さく呟いた。

戦場は勇気あるものだけが来る場所ではない、当たり前だが、来た、のではなく、来させられた、が多いのだ。その事を改めて実感させられる。

その後も、何事も無く馬車は進んだ、いや、正しくは何事はあった、だが下級との魔物との遭遇等はいくらお粗末な護りと言えども何の障害にもならなかった。それらがやけに多かったのは気になるが、まあ昨夜のこともある、杞憂だろう

代わり映えのしない荒野は冷たい風を運んで来る、空は晴れている。馬車の影が濃く道に写るが光を遮る物が無い荒野ではいくら気温が低かろうと、風防の外にいる者にとっては暑く感じられた。

また暫く進み、日が落ち始めた時、夜を越す為の支度を始めようと馬車を止めた

その時、一人の青年がレイに声をかけた

「すまない、そこの......」

青年の装いは昨日自分を庇って死んだ男と酷似していた、顔に頬を割いた跡のような傷を持つ、その青年は見た目の痛々しさとは裏腹にその立ち姿には気迫を感じられなかった。

「何か用ですか?」

取り留め、人を嫌う様な性格でも無いし彼を嫌う理由も無い為、そう返した。

「あんた、行き先は?」

「この馬車と同じ、聖王国ですよ。」

その答えに対して、青年は問い掛ける。

「何故聖王国何だ?あんたの闘いを見た。今まで見たことがない強さだった。だからこそ問いたい、あんた、いや、『アルテインの英雄』、何故残党狩りに参加しない?」

青年は語を強めて更に続ける。

「魔王軍との戦いは終わってない、戦争はまだ終わってないんだ。ある程度の統率力を持った魔物の群団が街を村を襲ってる、この事実は知っているだろ?なら何故また剣を取り御旗としてその先頭に立とうとしない?」

その問いに対して、レイは

「果たすべき役目がある、」

そう答えた。

その答えに対して、青年は目を見開くとレイの胸ぐらを掴み、声を荒げた。

「お前、ロイズさんが言っていた『アルテインの英雄』何だろう!?、その役目とは何だ!兵としての、戦士としての役目より優先すべきことなのか!答えろ!」

次の瞬間、鋼の手が胸ぐらを掴んでいるその青年の腕を握り返した。

「!......」

「私は聖王国近衛部隊の兵、私の役目は王の命を聞き、果たすこと……」

「なら...」

「だが!.......この手足では、この身体ではその役目を果たせない!王は一人になった私に、命じられた!民を護るためにその身体を使えと、戦場のいる者を導く御旗となれと、だから私は戦に赴いた!だがどうだ!この手足を見ろ!折れた剣を見ろ!この様な英雄がいるものか!この様な英雄に身を任せられるか!」

その声に気圧され胸元から離れた手を更に強く握った。

「私の使命は、一刻も早くかつての力を取り戻すこと!王が認めた、「かつての私」を一時でも早く、取り戻すこと!それが今の私のやるべきことだ!」

手を離す、前日の影響で壊れた右の手で握った為、握られた青年の腕は必要以上に赤々としていた。青年はその手が握られた跡をただ見ていた。

「その為に私は旅をしている。」

「…………。」

「もう寝ろ、」

そう言い肩を叩きレイは彼から離れる。残された青年はただ呆然と、その赤々とした手の跡をまだ見つめていた。



夜が明け、また進む為の支度をしている時青年はまた来た。だが昨日とは様子が違う

「昨日のこと……済まなかった、」

そう青年は言うと、そのままその場を去った、その背中に何かを言う気にはなれなかった。ただ、分かるのはその気迫の無い佇まいに昨晩より強い思いが感じられた。






青年、名をセイル・レシラムと言うが、彼は一人馬車に揺られていた。


車輪の音が頭の中で木霊する。何故だろうか?あの様なもの言い、救ってくれた者に対するものでは無い、疲れた頭が、かき乱された頭が、一つのことを思い出す、

何をか?郷愁をだ。

だが、それ程昔のことではない、

しかし、もう戻らぬ日々の記憶である。

青年はかつての自分が嫌いであった。そしてかつての自分も嫌いなものがあった。何が嫌いか?、身の回り色々なものである、多感な時期には気に入らなくて仕方が無いものが様々ある。

口うるさい母親、職場の父親、過度に気を使ってくる女友達、何か、何かが気に障る、だがその何かが分からない、故に抱え込む、その何かで心が一杯になった時、つい青年は親に心無いことを言ってしまった。まあ、とは言うものの青年の様な年の者がよく言うありきたりな、だが言葉である。そう言って飛び出し、そのままに職場にも行かず、村の冒険者ギルドに向かった。そこは酒場にもなっている為冒険者の溜まり場、冒険者の他愛もない話を聞かせて貰おうとそこに足を運ぶことが多かった。幼い頃は誰もが憧れるであろうその職業は現実に考え、その時は戦禍、いざとなれば戦場に駆り出される為に青年が冒険者となることを親は了承しなかった。今思えば、ただそれだけのことが青年の心の何かの所以だったのかも知れない、だがその様なこと、水に流せば良かった、母親の青年を思う気持ちも分かっていた、父親のいる職場も別にそこまで嫌では無かった、汗臭さと熱い鉄で火照る鍛冶場の雰囲気はむしろ好きであった、少女のことも嫌いでは無く寧ろ........。

だが、その様な考えをしても遅かった。

その日、街は魔物に襲われた。群団であった、結局、事が収まるのに派兵された傭兵と残党狩りに来ていたモエニア軍の隊が介入してからであった。

青年は危うい所を命を拾った、冒険者ギルドには腕の立つものが多くいたから安全であったが、そこに留まれる程青年は太い心を持っていなかった。外に出てしまい、ゴブリンに殺されかけた時、間一髪を傭兵の助けられたのだ、事が収拾し、家に向かうと、そこには焼け崩れた家屋と、肉の焼ける臭いしかしなかった。鍛冶場の石造りの壁は崩れていた、父親は下敷きになって、亡くなった、少女は意識を取り戻さない。青年のことを心配し青年の家に向かう途中、崩れた家屋の下敷きになったそうだ。

青年に残ったのは自身の態度を悔いること、それだけの後悔の心が残っていて、ただただ、呆然と立ち尽くしていた。青年は思った、力が欲しいと、手で届く範囲の全てで良い、その全てを護れるだけの力が、強さが欲しいと、世界を呪うことも出来た。だが、それはしなかった、何故なら自分の後悔は自身の行いによってはしなかった後悔だから、ごめん、ありがとうを言える、その当たり前、だが、思春期にはとても出せない、出そうと思っても出せない、そんな言葉達を言える程に自分が大人であれば良かっただけの話なのだから、青年は、選んだ。自分を変えることを、何故なら、弱い自分はもう嫌だから。


揺れる馬車の中青年は昨日腕を握られた箇所をまた見つめていた。何故あの様なことを言ったのか、まだ分からない、ただ、目の前にいた自分が欲した強さを持つ者への嫉妬心かはたまた、また何かか。腕の赤々とした手形はもうそこに後は残っていない、だが感触は残っていた、冷たかった、そこに少しの血の通いも感じられなかった、彼の失ったものの重さが、その手の跡に、感触にずっしりと感じられたのは、青年の感傷による気の所為によるものなのか?それを知る者はいない




翌の朝、また青年は来た、この時、青年には前とは違うものを感じられた。ぶつけ処のない気持ちをぶつける為でも、彼に理不尽な対する憤りの感情でも無い、ただ、英雄と呼ばれた彼への興味と疑いの目をしていた。

青年が口を開く

「この旅が終わった後も、あんたに同行させて欲しい、」

「何故だ?」

その問いに青年は静かに返した。

「あんたを見る為だ、」

その言葉に対してまた返す。

「見て、どうする?」

青年の目には、何が映っているか、そこに、その瞳には圧倒的な強さを持っていながら護れず、失い、そしてそれでも立っている英雄の姿であった。

青年は穏やかに、だが強く言った。

「分からない、だが、変わるんだ、

今の俺から、」

彼にとっての変わるというのが、肉体的なことか精神的なことか、はたまたその両方かは知りはしない、だがその言葉には無碍に出来ない程の何かが乗っていた。

ここから、英雄と青年の物語が始まる


3話になります。

初めて読む方には1話の方を、そしてここまで読んでいただいた方に感謝をお伝えします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ