アルテインの英雄
分厚い冬外套をまとった男が二人、馬車の車の音、馬の足音、そして夜闇の中魔力ランプの灯りを頼りに会話をしていた。一人は不精髭を生やしもう一人は顔に傷ある青年であった、何方も腰には片手剣を携えているがそのどちらにも装飾等は無く、無骨な鋼を革製の鞘で隠しているだけである。
「なあ、」
「知っているか?」
髭の男がポツリと言う、
「何をだよ.....」
「アルテインの英雄の話をだ、」
腰の剣に手をかけながらそう髭の男は言った。
「......?、アルテインの英雄?知らんな、悪いけど北国のことは知らん」
「はっ!、これだからガキは、」
「うっせ、おっさん」
「ああ、おっさんだ、だから前線を知ってる、3年は戦場にいたからな.....まあ、要するにお前より北暮らしに慣れてるってことさ」
「そうですかい、」
口を尖らせる傷の青年に髭の男はまた続ける。
「まあ、年上の話は聞いて置け、半年前の魔王軍との戦争の背中の話だ」
青年は観念したのか静かに男の話に耳を傾けた。その姿はまるで酒を飲んだ父に絡まれたこの様である。
「アルテイン防衛戦での話だ。魔物の巣食う地である北の最果てタルタロスと人界の境目、その最前線になっていたモエニアは3枚の壁に守られている、第一の壁アンテ、第二の壁シィクイ、そして......」
「それは知っている、前の戦いじゃ、第二の壁まで破られたって話だろ?」
髭の男は頷くと続けて言った。
「ああ、そうだ最後に残ったのが首都アルテインを護る壁、ウルティムス、それを要に行われたのがアルテイン防衛戦だ......魔王軍側には最期の大魔族、サイクロプスが率いる亜人、魔物の混成部隊が12万、対して人類軍は6万と2000、当時残っていた正規軍の全てがそこに集められていた。」
髭面の男には、今も戦場の情景がありありと浮かんだ、防壁の目の前には荒野が広がり、800m先、敵陣形の後ろには蒼空に突き刺さるようにその巨体が三つの目で此方をただ見つめていた。
人類軍は多種多様であった。モエニア国防軍、聖王国軍、その他周辺国からの派兵部隊、そして髭面の男の様な傭兵に、ならず者まで混じっている。
最早、戦える大規模な正規軍などモエニアと聖王国にしか残っておらずその主力の殆どと、その他の有象無象が揃っての6万と2000、対するは本来知能等持たぬ筈の下級の魔物達がサイクロプスの力によって統率された魔物群と亜人軍、総数12万、そしてたった一人で小国、ファーメッツ王国を滅ぼしたサイクロプス、
その誰もがその巨体とその目の前を埋め尽くす亜人と魔物の軍を見て思った。
ここが堕ちれば人は負けると、
「おい.....勝てるよな?.......」
目前の景色に隣にいた男は思わずそう漏らした、当たり前だ。これ程の荒野を埋め尽くす、此方の軍の倍を敵は埋め尽くしているのだから、
「バカ言え!」
そう強気に言うが髭の男は恐怖が胸に重く溜まり、それ以上の反論は喉をつかえてしまい出すことが出来なかった。
怖い、怖い、帰りたい、だが、それも出来無い、前にも後ろにも行けない、そんな男の頭に一つ、
「聞け!!」
若い男の声が響いた、その声の主である
一人の男が俺達の前歩みでていた。装飾の無い無骨な鋼のライトアーマーを着て、背中には小豆臙脂のマントを羽織り、ツヴァイヘンダーを背負っていた。
その男は続けた。
「この戦場に集った、万夫不当の兵共よ!今ここが分水嶺、この戦こそが人の存亡がかかった決戦である!前を見よ!そして後ろを省みよ!そこには護るべき家族、恋人、兄弟、子がいる!それだけで目前の敵に屈さない理由となる!我々こそが人の盾であり矛である!
行くぞ戦友達よ!我が名は聖王国軍近衛部隊、レイ・エクアチオンである!」
男は踏み込むと大地を揺らしながら目の前の敵の軍勢の先、三つ目の巨人を目指し突っ込んでいく、その場すべての汎ゆるものを置き去りにして、そして、その大きな彼の一歩が、髭面の男に、小さな、だが確実な一歩への勇気を与えた。
剣を握りしめる手がランプに照らされ、濡れている、その手には過ぎ去った戦場の跡が滲んでいた。
「その背中は、声は、あっという間に俺達の頭から敗北を取り去っちまったよ。男は戦場では有名人だった、何せ近衛兵な上に、そんな奴だが以外に通り名は多くて、怪力男、鋼野郎、迅足、赤マント、色々言われていた、そいつが先陣を切って行ったその背中を忘れることは出来ねぇよな。」
青年は目を丸くして言う、先程までの面倒くさいと言った雰囲気は払拭されていた。
「へえ、そんな人がねぇ、その後どうなったんだ?」
「その後、戦が始まって半日を過ぎた時に、敵将討たれた、との報があった、そりゃ小国ではあったが国を一つ一人で潰した化物をたった一人で倒しちまったんだ。その巨体が倒れる様は戦場の誰もが見たさ、敵の士気も統率もそれからは失われて行った、下級の魔物の統率を三つ目の野郎が一人でやってたらしいからな、魔物共は散り散りに逃げ、亜人共はとっとと降伏しちまった。それほどにサイクロプスが死んだのがあり得ないことだったんだろうな、それで、その巨人は誰が討ったのかを聞くと片手で軽々と両手剣を扱う、赤黒いマントの男だったそうだ...「やりやがった!」って、皆で騒いださ、それからはそいつの通り名に「アルテインの英雄」が増えた、俺達、戦人の中でだがな、まあ、そんな話だ.....だが」
髭の男は夜空を仰ぐと言った。
「そいつの話はそれっきりだ、アルテイン防衛戦を最後にもう何処にも赤マントの話は聞かなくなった......噂じゃ近衛部隊をクビになっただの、腕を無くして戦えなくなっただの、死んだだの言われてる、だがあいつはの背中を見た俺から言わせりゃあいつは生きてる、そう思う......」
「そうかい、あんたは会いたいのか?そいつと?」
「いや、分からん、だがあいつを見る時はいつだって戦場だった。やっと戦争が終わった今だ。もう会わないに越したことは無いのかもしれないな..........」
「........」
「少し話すぎたな、もう寝るぞ......」
男と青年は会話を終えると冬外套に首を埋め、目を瞑った。冬の寒さが空に写る、よく雲の合間から辛うじてみえる星空と薄い雲によって月はより優しく照らしたいた、そんな空を見ながら青年は何故その様な話をされたのかを考えていた
そして髭面の男もまた、何故その話をしたのか、考えていた。それが、偶然か必然か、もうすぐある英雄との出会いの予兆であるとは知らずに、
[人界暦1273年、52年もの間続いた人類と魔王軍との戦争は魔王軍の戦力弱体化、そして魔王が討ち取られた事による撤退と言う形で終わりを迎えまる。その戦争の最中で多くの戦禍が渦巻く中それらの中に、赤いマントの男が一人、男は四人の才ある肉体を持つ者のそれぞれ才を左右の腕と両の足に受け継ぐことで本来一つだけの人の才能を、怪力の右腕、魔術の刻まれた左腕、大地を削る左足、大地を鳴らす右足そしてその男自身の才である、多くを見通す眼、と合わせて五つを持ち、圧倒的な力を持つものとして存在していた。その男は多くの戦場で武勲を上げ、敵からは恐れられ、味方からは英雄と称えられ、遂にはその者の刃は魔王の頸にまで届く
だが........
恐れられたが故に、彼は、魔王軍幹部にその手足を奪われ、封じられ、その力の殆どを失った
その、彼の行く末を知る者は、そう多くは無い]
夜闇の中、馬車の車列が止まっているのが見えた。雲を照らす光の動きと地上の大きな影から何かに襲われていることが分かる。
「あの馬車.....急がねば、」
男は直ぐ様駆け出した、そして大地は静かに震えその男の足跡がくっきりと雲から溢れた月光が照らしていた。
今回が初めての小説投稿になります。
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