新しい武器と過去の伝説
12月のアジトは、もう完全に「ハーブ騎士団」、いや「ハーブ王国」だった。倉庫も居間も廊下も天井から床に至るまで緑の束がぶら下がり、ストーブがゴーゴーと鳴って、毎日が森の香りで充満している。子供たちは朝から干したハーブを「ひっくり返し隊」と「カビ発見隊」で大騒ぎだった。
味見しすぎて10キロ消えたときは「お茶会事件」として伝説になり、天井が崩れたときはローズマリーの雪崩で全員が緑の雪だるまになった。12月に入ると作業場は冷え込んでくる。ストーブの周りを麻袋を結び合わせた、レミの「温風結界」がテントに。以降、その場所が袋詰めの「聖域」と呼ばれるようになった。
ストーブの周りだけが極楽で、みんなで袋詰めスピード王を競いながら「今日の王者は誰だー!」が流行語に。
朝晩、テオ・ミコ・ルートリの3人が剣の稽古で木剣を振り回し始めた。最初は30回でへとへとだったのが、年末には500回を軽くクリア。他の子たちが「がんばれー!」と応援。ノルが頭を撫でるのが、もう毎日の風景になった。ハーブの香りと笑い声と、朝晩の木剣の音。冬の地下アジトは、寒さなんて吹き飛ばしていた。
一方、大人たちは冬本番の狩りに出ていた。標的はスノウホーン。額に氷のように透き通った、剣のような角を生やした中級魔獣だ。普段は不帰の森でも滅多に見かけないが、ダグの情報によれば「1月後半から2月が本番。川沿いの寒さに強い草を食いに、群れで集まる」とのことだった。
1月中旬、5人は北東の川へ向かった。雪が積もる森を抜け、凍てついた川辺に着いた瞬間、全員が息を呑んだ。……白い悪魔の群れだった。数百頭はいるだろうか。雪と同化する白い体毛、吐く息だけが白く立ち上り、額の角が朝日にキラキラと反射して眩しい。
「すげぇ数だな……」
ログが剣を握りしめる。魔獣は人間を見ると、条件反射で襲ってくるようプログラムされてる。近くの個体が鼻を鳴らして、二、三度前脚で雪を掻くような仕草を見せると、雪煙を上げながら一斉に突進が始まった。
ズドドドドドドドドド!!
「来い!!」
ガルムが吼えて巨人化。6メートルの巨体が雪を蹴り、真正面から群れを迎え撃つ。
ドォォォォン!!
角と巨人の腕が激突し、衝撃で細かい雪が乱れ飛ぶ。
「今だ!!」
その隙に、残る4人が散開する。ノルは一歩前に出た。先程、イグニスに新調してもらったばかりの新剣を抜く。黒紫に光沢する刀身が、光を反射した。
「っ……軽っ!?」
今までの剣はヒビだらけで重く、振り上げるだけで腕にずっしりと重量が掛かった。でもこれは違う。まるで羽で空気を切っているような、信じられない軽さだ。スノウホーンの角が振り下ろされる。ノルは横に滑り込みながら、ただ軽く、剣を流すように振った。
ザシュッ!!
角が根元から真っ二つ。切断面は鏡のように滑らかで、刃こぼれ一つない。
「……え?」
斬ったノル自身が驚いて目を見開く。横ではログが剣を抜き、走り抜けざまにスノウホーンの脇腹を一閃。厚い毛皮と筋肉が、軽く裂けた。
「ははっ……なんだこれ。斬れ味おかしくね?」
カレンは剣を構えて二頭同時に突進してきたスノウホーンの首を瞬時に薙ぐ。二頭の首が雪の上を転がる。
「軽い……軽すぎる!手応えが全然違う!」
クロム結晶を用いた三人の新武器は、魔獣をいとも簡単に斬り裂いていく。重さは旧剣の半分といったところだろう。切れ味は数倍。ノルは思わず笑った。
「これなら……もっと速く、もっと正確にいける」
次のスノウホーンが突っ込んでくる。今度は完全に感覚だけで振る。風を切る音すら小さく、首がシュパッ!と飛んだ。
「……やばい、本当にやばい」
新剣の刃に、血すらほとんどつかない。雪の中、黒紫の刃だけが妖しく光り続ける。3人の動きが、目に見えて変わった。旧剣のときは必死に振り回していたのが、今は正確無比に、最短、最小の動きで魔獣を狩っていく。雪は赤く染まり、角の山が積み上がった。
「ありがとう……イグニス爺さん」
ノルは最後に剣を雪で拭い、静かに呟いた。
2月、雪が深々と降り積もる川への道。いつものようにスノウホーンを狩りに向かっていた5人だったが、
森を抜けた先の開けた雪原で、突然、空気が凍りついた。
「……あれは」
ガルムの声が低く震えた。雪原の向こうに、白銀の巨狼が立っていた。体長6メートルを超える、白銀の毛並み。その背後には、整然と並ぶ魔獣の大群。ダークウルフ30匹に対してナイトメアが1匹。それが12部隊。さらに指揮官としてケルベロス1頭が、6部隊を率いている。
そして王のすぐ側には、ナイトメアの近衛兵20匹。
「……白銀の王だ」
ダグが顔を青くした。
「ヤバい……こいつらとまともにやり合ったら死ぬぞ」
ノルが息を白くしながら、思わず呟いた。
「……白銀の王って、いったい何?」
ダグは凍りついた地面に弓を突き立てた。
「あれは……逸話とかじゃなく、実在した記録だ。昔、北の山脈に、魔獣が増えすぎて困ったある王が「全て殺せ」と討伐軍を組んだ。最初は100の兵を送った。だが、全滅。次に500の兵。それも全滅。さらに1000の精鋭を送ったが、同じく全滅した。そこで、業を煮やした王は、自ら5000の大軍を率いて山に乗り込んだ」
強く白い風が雪を巻き上げる。
「ところがよ……」
ダグは苦い笑みを浮かべた。
「白銀の王は、どこにも姿を見せない。そのまま、兵たちは山奥深くまで進んだんだ。そしたら急に、兵士たちが向かう先々で魔獣の群れが逃げ始めた」
「逃げ始めた?」
「ああ。おかしいだろ?魔獣が逃げるなんて。兵たちは「今だ!追い詰めろ!」と、夢中で追いかけた。そして、気づいたときには、軍は完全に分断され、山の奥に散らばっていた。そして、その時になって初めて、白銀の王は現れたんだ。標的は軍の総指揮、王の本陣。近衛隊が必死に守ったが、白銀の王が率いる精鋭軍に、瞬く間に蹴散らされた。最後、王は……首だけが雪の上に残った、って話だ」
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