リリスの提案
ノルが苦笑いで即座に突っ込む。スカーレットが全員を見回して、静かに言った。
「魔獣の素材は私たちで消費するとして……人数が増えていけば、いずれ資金が足りなくなる。鋼材の問題もまだ解決してないし、お金に換えられないのは困るわね」
「代わりになる稼ぎ口が要るな……」
ガルムも腕を組んで難しい顔をする。ログがぽつりと提案した。
「ノルに上級ハンターの資格取らせるとか……ダメか?」
スカーレットは即座に首を振った。
「逆効果ね。今ハンターが調べられてるなら、上級ほど目をつけられるわ」
リリスも頷く。
「私も団長と同意見です」
ダグが頭をかいた。
「そうは言ってもなぁ……金稼ぐ方法なんて魔獣狩りしか知らねぇんだが……」
食堂に、沈黙が広がった。ランプの火がチカチカするだけで、誰も口を開かない。
沈黙が続く食堂で、スカーレットがふと視線を上げた。期待に満ちた瞳が、まっすぐにリリスを捉える。
「……リリス、何か良い案、ないかしら?」
その視線に気づいたリリスは、少し縮こまりながらも、ゆっくりと口を開いた。
「あの……商会を立ち上げるというのは、どうでしょうか?」
「「「商会?」」」
三人が同時に声を重ねる。リリスは頬を少し赤くしながら、続ける。
「羊毛を買い取って、紡績して、織物を作るんです」
「織物!?」
ログが素っ頓狂な声を上げた。
「少なくとも俺は手も足も出ねぇ分野だ……」
ガルムも苦笑いで頷く。スカーレットが興味深そうに、椅子から身を乗り出した。
「どういうこと?どうして織物なの?」
カレンが横から口を挟む。
「私の親戚が家族ぐるみでやってたから、ちょっと知ってるけど、羊100匹分の羊毛を紡績するだけで、普通なら60日はかかるよ?それから織物するってなると……」
「カレンさんの言う通りです」
リリスは小さく頷いた。
「本来なら、物凄く時間がかかります。でも、うちには……」
スカーレットの目がぱっと輝いた。パチン、と指を鳴らす。
「レミちゃんね?」
「はい」
リリスが微笑む。
「レミの『糸操り』の異能なら、紡績も織りも、比較にならない速さで進められると思います」
スカーレットが嬉しそうに両手を叩いた。
「さすがリリス!素晴らしい発想だわ!」
「実は…まだ、続きの提案があります」
リリスが少しだけ声を大きくすると、食堂の全員が再び彼女に注目した。
「織物を帝都で捌いて、得たお金で交易品を買うというのはどうでしょう」
ノルが首を傾げる。
「交易品を買って、どうするの……?」
リリスはノルを見て、にこっと悪戯っぽく微笑んだ。
「買って、それをルーニャとレーニャの二人に手伝ってもらおうと思って」
「念話の双子か?」
ガルムが眉を上げた。
「どうするってんだ?」
リリスは少し得意げに、でも少し恥ずかしそうに説明を始めた。
説明が終わる頃には、食堂は静まり返っていた。そして「……すげぇ~」と、ログがぽつりと呟く。
「天才だわ……」
カレンが呆然と口を開けている。ダグまでが「おいおい、マジかよ……」と笑い出した。スカーレットが立ち上がり、リリスの肩にそっと手を置く。
「決まりね。これで安定した資金が確保できるわ」
ガルムが大きく頷く。
「どんなカラクリ使ってても、表向きはただの織物商会だしな。おまけに、帝国の網にも引っ掛からない」
ノルが目を丸くしてリリスを見つめた。
「……リリス、すごいよ」
リリスは照れくさそうに俯きながら、小さく微笑んだ。
「みんなが生きていくためだから……」
食堂に、明るい空気が戻ってきた。食堂のテーブルに、羊皮紙と羽ペンが並べられる。スカーレットが「じゃあ、具体的にどうするか」と切り出すと、リリスが商会設立計画の概要を話し始めた。
「商会には大きく分けて三つの作り方があります」
リリスは指を一本ずつ折りながら、丁寧に説明を始めた。
「まずAは『自由商会』。貴族の庇護も特許状もいりません。帝都か主要都市の商業ギルドに登録するだけで設立できます。年間登録料は規模によりますけど、300万ディナーリ前後です」
「300万ディナーリ……高いな」
ガルムが呻く。
「その代わり自由に取引できて、税率も普通です。デメリットは……貴族系の商会から嫌がらせされる可能性があること」
「次、Bは『特許商会』。貴族か皇族の名義を借りて特別許可証をもらう形です。関税が半額か免除になるし、ギルドの干渉もゼロです。ただ……」
リリスは少し顔をしかめた。
「利益の15~30%を庇護者に納めなきゃいけません」
「貴族に頼るのは、却下ね」
スカーレットが即答。
「最後、C。『ギルド加盟商会』。既存の羊毛・織物ギルドに入る形です。先に言うとこれは……お薦め出来ません。価格を統制されるし、万が一レミの異常な生産力がバレた瞬間、締め出されます」
全員が顔を見合わせ、即座に声を揃えた。
「「「Aの自由商会で決まりだ!」」」
リリスが小さく頷く。
「では、次に手続きです」
彼女は羊皮紙に走り書きしながら、ぱぱっと説明していく。
「帝都の商業ギルド窓口に以下のものを提出します」
1.商会名
2.代表者名
3.本拠地住所(固定倉庫があればどこでもOK。アジトはもちろん書かない)
4.初期資本申告(最低200万ディナーリ。※資金額によって信用度が違う)
5.登録料300万ディナーリの納付
「全部揃えて提出すれば、すぐに『商会証書』が発行されます。これがあれば帝国全土で合法的に取引できて、銀行口座も開けます」




