一騎打ち
「やっかましいわ!帝国に盾突く反逆者はここで死ね!」
ドレンの号令で兵士たちが一斉に剣を抜いた。スカーレットが一歩前に出る。
「無駄なことを」
スカーレットが右手を挙げた。その直後に、兵士たちの間に動揺が走る。
「なんだ!?おまえたち、どうした?」
ドレンが怪訝な表情で兵士たちに尋ねると、口々におかしな反応が返って来た。
「け、剣が……」
「動かない…?」
「何をバカなことを言ってる!とっとと斬り殺せ!」
ドレンが叫んだ瞬間、剣は兵士たちの手を離れて剣先が兵士たちの方を向いた。その光景を見てドレンの顔が一気に青ざめていく。
「ま、まさかコイツら…異能者か」
剣が一斉に兵士たちを貫く。兵士たちの断末魔の悲鳴を聞きながら、ドレンは逃げ出していた。錯乱したように走り出したドレンは、ドンッと壁にぶつかって尻餅をつく。ドレンが見上げると、そこには先程いた教団の護衛の男が立っていた。男の背後から拍手が聞こえる。教団の担当者だった。
「いやいやいや、素晴らしい。素晴らしいですよ。ここでこんな貴重な異能に出会えるとは…。間違いなくSクラスですね」
「そそ、そうなんです!実は、たった今入荷したばかりの素材ですが——」
ドレンがすがりつくようにして護衛の男の足に触れようとした瞬間、轟音と共に床石の破片と血が周囲に飛び散った。床は踏み抜かれ、完全に砕けた石材から濛々と砂埃が舞い上がってる。ドレンの頭は、男によって一瞬で踏み潰されていた。
「殺せとは命じていませんよ?もう少し調整が必要ですね…。まあ、いいでしょう。賊の侵入を簡単に許す無能な取引相手でしたからね。不慮の事故です。あの女を捕らえなさい。今度は殺してはいけませんよ」
「団長、なんなんですか。あれ?」
スカーレットはノルを横目で見ながら答える。
「あの護衛の後ろに控えてる人間の服装からして、ルミナス教団ね」
「なんでルミナス教が…」
「帝国の異能者狩りと何らかの関係がありそうね。深部に近いセクトの可能性もあるけど…来るわよ」
フルプレートの巨漢が長剣を抜く。長剣を抜いて構えたところで、巨漢の手が止まった。
「ノル、行って!」
「了解!」
ノルが一気に加速。切っ先を護衛に向けて突っ込んだ。両側に牢があり、通路はそれほど広くない。狙いがバレてもスカーレットの異能:ベクター・レインは巨漢の長剣を宙に固定していた。判断の暇を与えない、最速で刃を到達させることを選んだノルの剣だったが、刃が到達する直前で向きを変える。“ビシッ”という音が空間で弾けた。
「なっ!?」
スカーレットの驚愕した声が響く。護衛の化け物じみた膂力は、スカーレットの異能を弾き返し、そのまま長剣は凄まじい速度で振り下ろされた。咄嗟にノルは、柄を上げ剣で受ける。
ギィィィィィィィィィィン!!!
金属と金属が悲鳴を上げながら、眩い光を散らす。ヤバい、まともに受けたら折られる!ノルは横に重心をずらして、護衛の剣圧を流した。斜めにズレた剣筋に発生した衝撃波で、石壁が吹き飛び抉れる。
「殺してはいけませんよ!?」
教団の男が強い口調で護衛に命令する。
「う“ぉ”ぉ“ぉ”ぉ“ぉ”ぉ“ぉ”ぉ“ぉ”ぉ“ぉ”!!」
護衛から発せられる声は、とても人が発するものとは思えなかった。そんななか、ノルは静かに呟く。
「血鬼解放」
ノルの身体から赤黒いオーラが立ち昇る。そこから凄まじい打ち合いが始まった。両者の剣が、ぶつかり合うたびに轟音が鳴り響き、壁や床石が削れていく。ノルは、突き、撃ち下ろし、袈裟・逆袈裟を狭い範囲で展開しながら、猛攻を仕掛ける。それに対して護衛の男は、でかい図体に似合わない反射的な速度で合わせつつ、斬り返し、反転攻撃に出る。
「あり得ない。アレと、互角に…打ち合ってる、というのか……?ハハハ。これは凄い!ああ、神よ、感謝します。なんという日だ!たった一日で、とてつもない素材に二つも巡り合えるなんて」
その凄まじい攻防に、教団担当者だけは狂喜じみた笑みを浮かべていた。ノルの背後からスカーレットの指示が飛ぶ。
「ノル、下がって!」
スカーレットは両手を挙げると、牢の鉄格子が軋み、異様な金属音を立てながら次々と捻じ切れる。ノルが退くと同時に、切っ先鋭い数十本の鉄格子が唸りを上げて護衛に降り注いだ。ズドドドドドド!!と雨のように突き刺さる。盾を掲げ防ぐ姿勢を取るも、鉄格子の何本かは貫通。護衛の大男は、奇妙な雄叫びを上げた。間髪入れずにノルが床を蹴る。赤黒いオーラが渦巻きながら、剣の切っ先の一点に集中。密度を増していく。
「天衝!!」
飛び上がったノルの剣先から、高密度のエネルギーが放出。凄まじい轟音が響き渡り、施設全体が揺れる。盾を破壊し、護衛と背後の教団員を吹き飛ばした。それを見届けたリリスとスカーレットは、すぐに子供たちを連れて裏口へと急ぐ。




