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転生軍師リリスとノルの魔獣戦記(最弱ハンター、二度の覚醒を経て最強へと至る)  作者: たぬころまんじゅう


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異能の暴走

「へへ、綺麗な顔してやがるなぁ」




三人の男の一人、バルドが近づく。ドレスの肩が、びりっ、と無遠慮に裂かれた。




「暴れるなよ~、女」




ゲルドが腕を掴む。ゴツゴツとした感触。吐き気を催す熱。これまで鞭で打たれ、石を投げられ、罵声を浴び続けてきた痛みとは違う。これは、もっと深いところを汚される痛みだった。




「泣いたっていいんだぜ?まぁ、泣いても喚いても、誰も来ないがな」




ザークのナイフが、頬をゆっくり撫でる。血の線が一筋、頬を伝った。少女の心が、初めて「恐怖」を知る。




触られたくない。




穢されたくない。




助けて、マリウス……!マリウス!




エレオノーラがニヤッと微笑んだ。




「さあ、始めなさい」




バルドの汚れた手が、スカーレットの肩に触れた瞬間、世界が、歪んだ。




「…………やめて」




細く、微かな声。けれどそれは、彼女の「抵抗」であり「拒絶」だった。




燃える。体が焼けるように熱い。心臓が、耳の奥で爆発する。




(……やめて……やめて……やめて……やめてやめてやめてやめてやめて!!)




彼女の中で生まれた小さな小さな「意志」が、きっかけとなり、眠っていた「力」を呼び覚ます。




「……触らないで」




最初は、囁きだった。




だがその一言が、塔の空気をねじ曲げた。次の瞬間、鉄格子が内側から奇妙な音を立て始める。まるで巨大な獣に噛み砕かれたように、太い鉄がねじれ、千切れ、火花を撒き散らしながら四方に飛び散る。




バルドが悲鳴を上げたが、遅かった。折れた鉄が胸を貫き、背中から突き出る。血が噴き、彼の体は壁に縫い付けられたまま痙攣した。ゲルドが剣を抜こうとするも、その手首ごと、舞い上がった鉄の破片が切り飛ばす。腕が宙を舞い、床に落ちる前に、別の破片が喉に突き刺さった。




声にならない声が漏れ、彼は膝をつき、血の海に崩れ落ちた。ザークが一歩、二歩と後退る。だが、足元が浮いた。床石が、塔ごと、ゆっくりと持ち上がっていく。彼は上空で渦を巻く無数の瓦礫に磨り潰され、あっという間に肉片と化した。エレオノーラの顔が怒りと恐怖で歪む。彼女の混沌とした精神は、恐怖より怒りが勝った。口からは幼稚で理性の欠片もない悪態が、とめどなく溢れ出る。




「虫の分際で…ゴミ虫が、クソ虫が、ウジ虫がぁぁぁぁ!」




やがて、彼女の床石も上昇し始める。そのときエレオノーラの顔が、初めて恐怖に歪んだ。




「や、やめ……!」




声は届かなかった。塔が、激しく揺れ、軋む。石と鉄が悲鳴を上げ、大理石の柱が内側から爆ぜ、石が粉々に砕け、屋根が内側から押し潰されていく。




そして、轟音。




夜空を貫く、巨大な火柱。ヴァレリア子爵邸は、一瞬で瓦礫と炎の墓標へと変わった。




……………………。




静寂が闇を支配する。




血と肉片に塗れた衣服は、もはや真紅だった。瓦礫の中心に、少女は膝を抱えて座っている。




「……私……これを、私が……?」




呆然とした表情で、彼女は月の光に照らされた瓦礫の山を見ていた。




「私の力は……呪いだ……」




震える唇から、言葉が零れる。




「ただ、普通に生きたかった…。それだけなのに……。マリウス……ごめん……なさい」




遠くで、崩れた瓦礫の下から、かすかな声が聞こえた。




「お嬢様……!お嬢様……!!」




マリウスだった。老いた体で這いながら、必死に駆けつけていた。




「マリウス!マリウス!」




しかし、次の瞬間。残っていた塔の壁が、音を立てて崩れ落ちる。老執事は、瓦礫の下に埋もれ、二度と動かなかった。




「そん……な‥‥‥」




少女は、ただ泣いていた。涙が血と混じり、頬を伝う。蝋燭の火は、とうに消えていた。煌めく星と満月だけが、冷たくなった廃墟を見下ろしている。




「……もう、誰も傷つけたくない……」




少女はゆっくりと立ち上がり、誰にも見つからぬよう、夜の闇に溶けるように姿を消した。






ここまで話すと、スカーレットは静かにカップを口に運んだ。紅茶はすっかり冷めていた。




「私の異能は、一夜にして80人以上の命を奪った。呪いだと思った。あのとき一緒に死ねばよかったって、何度も、何度も思った」




彼女は石の天井を見上げ、遠くを見るような目で続けた。




「逃げ惑う中で、初めて世界に触れた。『異能者保護法』。私と同じような異能者が帝国に捕まるのを何度か見たわ。まだ十歳にも満たない子が、親を殺されて泣きじゃくっていた。帝国の「政治の腐敗」。私が皮肉にも「自由」を得て、初めて知ったのがそれだったの」




スカーレットは小さく息を吐いた。




「もう生きるのも逃げるのも疲れて、山奥に籠もったとき、ガルムと出会った。彼はこう言ったの。『呪いを呪いのまま終わらせるな。その力を、苦しむ者たちのために使おう。そうすれば、俺たちは呪いから解放される』って」




彼女は剣の柄を、そっと握りしめた。




「今でも、贖罪に過ぎないと思ってる。でも、帝国が異能者を狩るなら私たちが盾になるしかない。そう思えたから、黒焔騎士団を立ち上げた。最初は二人だけだった。でも、追われる者や、居場所を失った者たちが、少しずつ集まってきて……今は、ここにいる」

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