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転生軍師リリスとノルの魔獣戦記(最弱ハンター、二度の覚醒を経て最強へと至る)  作者: たぬころまんじゅう


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スカーレットの過去

「え、でも……!」




「いいから、いいから」




ノルは息を整え、異能を解放する。赤黒いオーラが一瞬で全身を包み、床の石がびりびりと震えた。次の瞬間、ノルの姿が消える。




加速。




短剣の切先がカレンの喉元へ――――届かない!カレンはわずかに身を捻っただけで、ノルの右腕を短剣ごと掴み、膝を振り上げて止める。




ごきっ!




「ぐあっ!?」




顔面に直撃。異能による加速がそのまま裏目に出て、ノルは思い切り膝を食らって吹っ飛ぶ。床を転がり、鼻を押さえてうずくまる。カレンは木剣を肩に担ぎ、笑いながら見下ろした。




「ハンターやってたって?よくそれで生きてたね」




涙目でカレンを見上げるノル。傷はみるみる修復されるが、痛みと衝撃は消えない。それ以上に、異能を解放した状態で全く反応できなかったことがショックだった。




「まず構えがダメ。あれじゃ『突きまーす』って大声で宣言してるようなもんよ。動きも直線的すぎる。それと、短剣はやめときな」




カレンはノルに自分の木剣を放り投げた。




「リーチが短すぎる。屋内ならまだしも、戦場で槍や長剣相手じゃ圧倒的不利。かと言って槍だと森や屋内じゃ取り回しが悪い。あんたにはこれくらいの中剣がちょうどいい」




ノルは木剣を手に取り、ぎこちなく構える。




「よし、じゃあ今日から素振り千回。構えを身体に叩き込むまで、休憩なし」




「せ、千回!?」




「文句?なら二千回」




ノルは慌てて首を振る。カレンは満足げに頷き、木剣を肩に担いだまま、ノルの前に立った。




「まずは基本の構え。ほら、足を開いて!腰を落とせ!戦場で生き残りたければ、甘えは捨てな!」




地下訓練場の空洞に、木剣が空を切る音と、カレンの鋭い掛け声が、朝から容赦なく響き始めた。






その頃、リリスはスカーレットの私室を訪れていた。扉を開けると、意外に整っている部屋だ。木の壁に掛けられた古びた帝国地図、剣と盾が飾られた壁、そして小さなテーブルに置かれた銀の燭台。洞窟とは思えない、落ち着いた空気に包まれている。スカーレットはマントを脱ぎ、黒のシャツ姿でリリスを迎えた。




「よく来てくれたわ。座って」




勧められた椅子に、リリスは緊張しながら腰を下ろす。少し大きめの麻シャツの袖を、そっと指で折り返した。




「よく眠れた?」




「……お陰さまで。部屋まで用意して頂き、ありがとうございます」




スカーレットはクスッと笑った。




「そんなに構えなくてもいいのに。服、ちょっと大きかったみたいだけど、似合ってるわよ。銀髪に麻の色が映える」




リリスは頰を染め、小さく頭を下げた。




「本当に……あの格好で歩き回るのは辛くて。感謝しています」




その時、ノックの音がして扉が開き、団員の女性が木の盆に乗せたカップを二つ、テーブルに置いた。湯気が立ち上り、ほのかに甘い香りが広がる。リリスはカップを手に取り、驚いたように呟いた。




「こんな森の奥で……紅茶が飲めるなんて」




「不帰の森は魔獣だらけだけど、ちょっとした日用品は、手に入れられるようにしてるわ。ずっと洞穴の中にいると、息も詰まるしね。嗜好品もたまには必要よ。……それに、資金集めの知恵も含めて、これからあなたに借りれたらと思って」




リリスが目を丸くする。




「私なんかに……何が」




スカーレットはカップを置き、静かにリリスを見つめる。




「そうね……あなたに話す前に、まず私の話を聞いてほしい…」




彼女は立ち上がり、壁に掛けられた古びた剣を指で撫でる。スカーレットは自身の過去を語り始めた。





満月の光が、雲の切れ間から冷たく塔を照らす。ヴァレリア子爵邸、最奥の「塔の間」。円形の牢獄は、まるで忘れられた神話の遺跡のように、ただ静かに佇んでいる。鉄格子の向こう、蝋燭一本が最後の灯を辛うじて保っていた。




石床には古い血痕が無数に重なり、そこであった凄惨な歴史を伝えている。その中央に、少女はいた。スカーレット・ヴァレリア、十七歳。衣服は汚れ、長い髪は乱れ、膝を抱えて震えている。




生まれた瞬間から「穢れ」と刻まれ、母の亡骸と共に塔へ放り込まれた私生児。父の顔も知らない。知らされることも許されなかった。一日一回、床下の小さな扉が開き、カビた黒パンと水が突き出される。




それが彼女の「食事」。


それが彼女の「日常」。


ただ一人、老執事マリウスだけが、毎夜格子越しに囁いた。




「お嬢様は美しい」


「今夜は冷えるでしょう。この毛布をお使いください」


「いつか、必ず……外へ連れ出します」




その約束だけが、スカーレットの心に残った最後の温もりだった。






ある夜、扉が開いた。いつもと違う。重い鉄の扉が、外側から乱暴に開け放たれた。現れたのは、異母姉エレオノーラ。金髪を高く結い上げ、薄紫の豪奢なドレスに身を包んだ、完璧な貴族の娘。手には扇子を持ち、臭いと言わんばかりに鼻を摘まんで、パタパタと扇いでいる。その背後には、三人の男がニタニタしながら牢獄に囚われた少女を見下ろしている。




子爵私兵の中でも特に下劣で知られる三人だった。




「お前はヴァレリア家の恥よ、スカーレット」




エレオノーラの声は氷のように冷たい。だが、どこか愉悦を孕んでいる響きだった。




「でも、死ぬ前に……少しだけ役に立ってくれる?ちょっとした余興よ」




男たちが笑った。酒臭い息。脂ぎった手。ナイフを弄ぶ指。蝋燭の灯が、獣たちの目をぎらつかせて照らす。

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