表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生軍師リリスとノルの魔獣戦記(最弱ハンター、二度の覚醒を経て最強へと至る)  作者: たぬころまんじゅう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/30

少年と少女1

大陸歴721年。その年シュタール帝国は偉大なる皇帝グラヴォスを失う。そして、その年の暮れ。帝国一の軍師と謳われたリリス・ローゼンは、皇帝暗殺の容疑者として処刑された。


彼女が公開処刑される日、人々は善政を敷いた皇帝の死を悲しむと同時に、暗殺したリリスに唾を吐き罵った。皇帝を影から支え、帝国に勝利と繁栄をもたらした軍師リリス。彼女は、人々の恨みの表情の向こうに笑みを浮かべながら高台の豪奢な椅子に座る男の顔を見つめていた。彼女の目から光が消えるその最期の瞬間まで…。




帝国内の辺境領エルドリアにて、少女は目を覚ました。薄らぼんやりする頭で辺りを見回す。


「ここは……?」


彼女がいたのは粗末な家の寝室のようだった。板張りの壁は長年の劣化でボロボロになっており、所々ネズミがかじったような跡がある。少女は、手でぼんやりする頭を抑えながらふと自分の手が視界に入った。視線はそのまま自分の身体に移る。彼女の身体は子供だった。裸であることに気付くと、慌ててベッドのシーツを身体に巻きつける。シーツを身体に巻きつけて一息つくと、急に意識がハッキリとした。今まで繋がっていなかった身体と魂が、急に接続されたかのように、記憶が濁流となって押し寄せて来た。


「生きてる…?どうして……」


ハッとして顔を上げると息が荒くなり、ベッドに座り込んだ。と同時に煤けた鏡が目に入る。そこには薄っすらと子供の姿が映っていた。


「子供!?これが…私。子供の頃に戻ってる!ひょっとして、これって…」


呟きながら、鏡の隣に掛けられたカレンダーに視線を移す。大陸歴733年。一瞬の間を於いて、リリスは低く笑った。


「そういうことか…。あれから12年……」



身体を起こしてドアを開けると、強烈な異臭が彼女の鼻をつく。思わず鼻を手で押さえながら、視線を下げると、キッチンからドアに続く床に埃が溜まっていた。キッチンに近づくと鍋の中には作りかけの腐ったスープと、まな板の食材が強烈な臭いを発している。リリスは嫌な予感を覚えながらも、外へ続くドアを開けた。


ドアを開けて、目に飛び込んで来たのは崩壊した村の光景だ。半数以上の家が焼け、残った建物のほとんども壁が崩れ、辛うじて建っている。リリスが目覚めた家は、かなり良い方だった。ドアや壁に残された爪跡は、戦争によるものではなく、魔獣による襲撃を示してる。戦の最中も困るが、今のリリスにとって話の通じない魔獣は尚更都合が悪い存在だった。


耳を澄ますと、遠くで川の流れる音がする。リリスは水の音に導かれるようにしてフラフラと歩いていった。しばらく林の中を歩くと、足が痛くなってくる。靴を持ってくれば良かったなとリリスは後悔したが、喉の渇きが足の痛みを上回った。まだ、転生?したばかりで頭が回ってない感じがする。腐ったスープ、焼けた木材、そして今は木々の緑の匂い。優しくそよぐ風、頭上で揺れる枝葉から漏れる木漏れ日。あれだけの屈辱を味わったのに、今は生きてることを身体全部で味わっている。足の痛みさえも、何故だか心地よく思ってしまう。我ながら情けないと感じつつも、身体の底から様々な感情——喜び、希望、野心、復讐——が沸き起こる。


川に着くと、綺麗な水が流れていた。流れは穏やかで子供でも大丈夫な深さだ。リリスは、川に入ると手で水をすくい飲んだ。水が喉を潤す感覚が懐かしい。一口、また一口と夢中で飲んでいると、急に唸り声と砂利を踏みしめる音でハッとして顔を上げた。魔獣だ。鋭い爪と牙。黒い毛に覆われた狼のようだが、リリスの背丈の三倍はある大きさだ。それがいつの間にか対岸に立って、リリスのことをじっと見つめていた。水場に来る動物を狙っていたのだろう。あまりにも迂闊だった。魔獣によって壊滅した村を見たばかりなのに、転生したばかりで浮かれていたのかもしれない。


「……っ!」


声も出せなかった。出せば、その瞬間にも襲ってくるかもしれない。


(転生したばかりで、こんな…こんなところで…!)


川を挟んで睨み合いながら、一歩、二歩と後ずさりする。それに合わせて魔獣も進む。三歩、四歩…水から川岸に出たところで、リリスは振り返ると同時に全速で駆けだした。裸足に砂利が食い込んだが、構ってる場合ではない。何歩走っただろうか、所詮は子供の脚だった。リリスより遥かに大きい魔獣は、あっという間に川を渡ると、前脚でリリスの背中を軽く押した。その衝撃でリリスの背中は裂け、小さな身体は吹き飛ぶ。身体が地面に打ち付けられると、そのまま滑るようにして地面の上を転がった。


「死に、たく…ない」


川岸の砂利を踏みしだく大きな足音が近づいて来た。一方で、林のほうから駆けて来る足音も聞こえる。薄れゆく意識のなかで、リリスは少年が叫ぶ声を聞いた気がした。




夜の帳が降りたエルドリア辺境領。カシルの街の酒場「酔いどれ亭」は、今日もハンターたちの喧騒で熱を帯びていた。壁には剥製の魔獣の頭が飾られ、床には血と酒の染みがこびりついている。カウンターの奥では、炉の火が赤々と燃え、鉄の匂いと汗の臭いが混じり合っていた。


ノルは隅のテーブルに座っていた。革鎧は擦り切れ、肩に提げた魔獣袋は空っぽで垂れ下がってる。一年が経っても、彼はまだ「見習いハンター」の域を出ていなかった。


周囲の視線が、まるで刃のように彼の肌を抉る。


「一年経ってもハンターになれねぇ奴が、いってぇなぁにしに来たんだ!?」


太ったハンターが、酒杯をテーブルに叩きつけながら叫んだ。その声に、他の者たちも嘲笑する。


「クズは家に帰れよ!」

「ゴミが!」


ノルは俯いたまま、拳を握りしめた。そのとき、髪をポニーテールに束ねた少女が立ち上がった。エレナ。村一番の美人ハンターだ。腰のショートソードが、炉の火を受けて鈍く光る。


「関係ないでしょ! ノルだって頑張ってるんだから!」


彼女の声は、酒場の喧騒を一瞬で切り裂いた。だが、ハンターたちはニヤニヤと笑うだけだ。


「姉ちゃん、クズの傍じゃなく俺たちのとこに来いよ!」

「そうだぜ、美人がゴミの横にいるなんて勿体ねぇ!」


エレナの頬が、怒りで赤く染まる。彼女はノルの前に立ちはだかり、彼を守った。


「お断りよ!」


その一言に、酒場が静まり返った。エレナはノルの手をギュッと掴む。温かいエレナの手は、怒りで震えていた。


「ノル、行こう」


背中に降り注ぐ罵声を浴びながら、彼女は振り返らず、堂々と扉へ向かう。ノルは力なく笑った。


「ごめん…俺のせいで……」


俺が不甲斐ないせいで、エレナまで……。


扉を開けると、冷たい夜風が二人を迎えた。


「…ノル、謝らないで」


エレナは、ノルの手を掴んだまま微笑んだ。


「私、ノルが頑張ってるの知ってるんだから。それに、約束したでしょ。立派なハンターになるんだって」


その言葉でノルの目から、涙が零れそうになる。


「…ありがとう、エレナ」




その夜、ノルは不思議な夢を見た。薄暗い石室の中で、赤子が泣きながら抱き上げられる。そして、男たちの手から手へと渡されると、赤い液体――血――が小さな口に注がれた。


瞬間、赤子の首筋に青白い刻印が浮かび、冷たく光った。


「古の契約に従いて、今こそ汝に力を与えん」


声は遠く、どこまでも深く響いた。



翌朝、エレナと朝食を食べながらノルは呟いた。


「昨日、変な夢見たんだ。赤ちゃんが血を飲んだら、首に光る模様が……」


エレナが吹き出した。


「ぷっ!血!?あはは!ホラー好きすぎ!」


「笑わないでよ……なんか妙にリアルだったんだって……」


「はいはい、次は吸血鬼かな~?」


エレナが茶化すのでノルは頬を膨らませたまま、パンを口に詰め込んだ。


「ところで、今日はなんとしてもホーンラビットの角を手に入れないとね。締め切り、もうすぐでしょ?」


ノルは黙って頷く。魔獣討伐はハンター協会の資格証が必要だ。そして、資格証の更新はタダでは出来ない。更新料と実績が必要になってくる。見習い資格であっても最低限の実績を要求される。ノルも例外ではなかった。


「わかってるよ。なんとしても見つけて倒すさ」


「その意気、その意気♪」


エレナが微笑むと、ノルは照れくさそうに曖昧に頷いた。エレナは数か月前、正式なハンターになった。正式なハンターになっても実績は要求される。だが、ノルとはもちろん求められる内容は異なる。エレナがノルに付き合う必要は無いのだが、ある時ノルがおずおずとそのことを尋ねるとエレナは笑って答えた。


「私のほうが年上なんだし。それに、一緒になるって約束したでしょ?立派なハンターに」


実際には一歳しか違わないのだから、ノルとしてはなんとなく気恥ずかしかったが、同時に頼もしくも感じるのだった。



そして、その日彼らはカシルの街から東の森に入ると、奥へと進んで行った。奥へ進んで行くと、あれだけ眩しかった陽の光も無数の木の葉に遮られて暗さが増して来る。そして、同時に緑の匂いが濃くなるにつれ、感覚を周囲に張り巡らせていった。


先頭を歩いていたエレナが急に立ち止まる。身を屈めたので、ノルも覗き込むと足跡が付いていた。


「魔獣の?」


「狼型…たぶん、ダークウルフの。まだ、新しい…」


ノルは咄嗟に注意深く辺りを見回した。奥へと進んできたせいで、昼間とはいえ森の中は暗い。


「ノル、戻ろう。この辺にいたら、私たちじゃあっという間にやられちゃう」


「賛成。でも、この辺りにダークウルフなんて出ないはずなんだけど」


二人が踵を返した瞬間、背後の木々が激しく揺れた。低く唸るような息遣いが、湿った空気を震わせる。ノルは反射的に振り返り、闇の奥から飛び出してきた影を目撃した。黒い毛並みが木漏れ日を吸い込むように輝き、赤く濡れた牙が剥き出しになる。


ダークウルフだ。体躯は馬ほどもあり、瞳は飢えた獣のそれだった。


「逃げて!」


エレナの叫びが森に響く。エレナはノルの手を掴み、全力で駆け出した。足元は苔むした根で妙に滑り、息が肺を焼く。ダークウルフの咆哮が背後から迫り、木の幹をバキバキと薙ぎ払う音がする。枝が顔を鞭のように打ち、血の味が口に広がった。


どれだけ走っただろう。視界の端に、巨大な岩が現れた。灰色の表面に苔が生え、根元に細い裂け目がぽっかりと口を開いている。エレナがノルの腕を強く引き、岩に飛び込んだ。


「ノル、ここに入って!」


裂け目は狭く、ノルの体が辛うじて収まる。奥行きは浅く、エレナの肩が外側に残る。ノルは慌てて手を伸ばすが、エレナは首を振った。


「ダメ、私が入ったら詰まっちゃう!ノルは中で待ってて!」


「そんなの——!」


エレナはノルを裂け目に押し込み、自身は外へと飛び出した。ダークウルフが岩場に到達し、前肢を振り上げる。エレナは剣を抜き、構える。だが、魔獣の爪が空を切り裂く音がした瞬間、ノルの視界が血で染まった。エレナの体が浮き上がり、腹部から鮮血が噴き出す。内臓が零れ、地面に落ちる音がした。エレナは岩に叩きつけられ、ゆっくりと滑り落ちる。彼女の瞳がノルを見つめ、唇が動いた。


「約、束……守れなくて、ごめん、ね……」


声は途切れ、エレナの瞳から光が消えていった。ダークウルフは満足げに鼻を鳴らし、血の匂いを嗅ぎながら森の奥へ消えていった。ノルは裂け目の中で震えていた。エレナの血が自分の体に降り注ぎ、温かく粘つく感触が肌にまとわりつく。叫びたかったが、喉が凍りついたように動かない。エレナの死体がすぐそこにあり、開いた腹からまだ血が流れている。ノルは這うように裂け目から出ると、エレナの体に触れた。既に冷たくなり始めている。


「エレナ……エレナ……!」


声にならない声が漏れる。ノルは立ち上がり、その場からフラフラと魔獣が去っていった方に歩き出した。足取りは定まらず、何度も転びながら森を進む。頭の中は後悔と自分を責める言葉で埋め尽くされていた。なぜ一緒に逃げなかった?なぜエレナに戦わせて自分は籠っていた?


自分はいつも守られる側で、エレナに甘えていただけじゃないか。くそっ、くそっ、くそっ!!俺は、俺は……。怒りが胸を焦がし、涙が血と混じって頰を伝う。



どこをどうやって、どれだけ歩いたのか。やがて、川のせせらぎが聞こえてきた。水音が近づくにつれ、視界が開ける。川辺に少女がいた。小さな体がダークウルフに組み伏せられ、悲鳴が上がる。魔獣の牙が少女の喉元へと迫る。ノルの体が勝手に動いた。後悔と怒りがぐちゃぐちゃに爆発し、足が地面を蹴る。血まみれの体で、ノルは少女に向かって駆け出した。エレナの顔が脳裏に浮かび、声が蘇る——立派なハンターに。


「離せぇぇぇぇ!」


叫びが森を切り裂く。


ノルはエレナの剣を血塗れの手で柄を握りしめた。刃は震え、視界は涙と血で霞む。ダークウルフが低く唸り、牙を剥く。少女の悲鳴が背後で途切れた。


ノルは剣を振りかぶり、突進する。だが、魔獣は軽やかに身を翻し、前脚の一撃でノルを薙ぎ払った。背中が木に激突し、肺の空気が抜ける。意識が白く揺らぐ中、ダークウルフの黒い毛並みに、髪飾りが引っ掛かっているのが目に入った。エレナの髪飾りだ。ノルの中に怒りの黒いマグマが、ドロドロと噴き出した。


「エレナを……返せぇぇぇ!」


怒りが喉を焦がす。ノルは立ち上がり、滅茶苦茶に剣を振った。刃が空を裂くが、ダークウルフの爪が閃き、剣は弾き飛ばされる。次の瞬間、激痛が腕を貫いた。右腕が根元から千切れ、血しぶきが宙を舞う。


ドクン。


心臓が爆ぜるように跳ねた。体内の血液が灼熱の川のように沸騰し、全身をドクドクと駆け巡る。身体の底から湧き上がって来るかのような熱で、視界が歪み、いつの間にか夢の続きが脳裏で再生されていた。



赤子は幼子となり、大地に立つ。首には奇妙な刻印が青白く光っていた。


周囲の人々が跪き、高らかに宣言する。


「「「血鬼の王よ!」」」


脳内の映像はそこで途切れ、ノルの身体から赤黒いオーラが立ち昇っていた。千切れた腕の断面から、赤黒い泡が湧き上がる。肉が蠢き、骨が伸び、皮膚が張る。再生、再生、再生する。首筋には夢で見た奇妙な刻印が、青白く浮かび上がっていた。


ノルの身体を押さえつけていたダークエルフの前脚を、残った左腕で掴んだ。異様な力が込もり、魔獣の巨体を押し返しはじめる。


「グルル……?」


ダークウルフが異変を感じて警戒するなか、ノルは掴んだ爪をバキバキと握りつぶした。思わぬ反撃に魔獣は一歩下がる。瞳が赤く輝き、血の臭いが周囲を満たしていく。魔獣が再び襲いかかり、牙を喉元に突き立てようとした刹那、ノルはダークウルフの鼻面を引っ掴み引きずり倒した。そして、再生した手をダークウルフの首筋に振り下ろす。凝縮された凄まじい力がノルの手刀から放たれると、ダークウルフの首が宙を舞った。その力は衝撃波となって、背後の木までメキメキと音を立てながら倒れていく。


首を失ったダークウルフの巨体が地に崩れ、川辺に血だまりが広がった。ノルはフラフラと二、三歩、歩くと前のめりに倒れて意識を失った。



夕方。リリスは目を覚ました。川のせせらぎに混じる、血の臭い。目の前には、血まみれで倒れる少年と、転がる魔獣の首。少女は息を呑み、震える手で少年の肩に触れた。


「生きてる……?」


少年の胸が微かに上下している。リリスは立ち上がり、周囲を見回した。助けを呼ぶべきか。それとも……。彼女は少年の傍らに座り、静かに待つことにした。



月が中天に昇る頃、ノルはようやく目を覚ました。夜空には無数の星がキラキラと冷たく光っている。エレナ……名前が胸を抉った。ぼんやりした頭が、ハッキリしてくると同時に現実が容赦なく突き刺さる。ふと、左手に柔らかな温もりを感じた。視線を移すと、小さな焚火が赤く揺れ、その光に照らされて――銀髪の美少女が、すぐ横に座っていた。


「良かった、気が付いた」


背後からの声に、ノルは慌てて身を起こす。月光が降り注ぐ中、少女はベッドシーツを身体に巻きつけていた。白い肩が露わになり、長い銀髪が夜風にさらわれて、まるで水のようにさらりと流れている。火の光が髪の毛先を黄金色に染め、頰に小さな影を落とす。十二歳ほどの幼さなのに、瞳だけがどこか大人びていた。


ノルがぼんやりと見つめていると、少女の頰がふっと赤く染まった。


「これは、その。ごめんなさい、はしたない姿で……転生…、えと、服がなくて……」


彼女は小さな手でシーツの端をぎゅっと掴み、恥ずかしそうに肩をすくめた。その仕草と話し方が年齢の割に、どこか合ってない。焚火がぱちりと爆ぜて、気まずい沈黙を破る。


「そ、そういえば、まだ名乗ってなかったね。私はリリス・ローゼン」


差し出された手は細く、白い。ノルは機械的にそれを握り返した。


「ノル……スターク」


「その、ありがとう、ノル。あなたが来てくれなかったら、私は確実に死んでいた」


リリスは微笑み、火光に照れくさそうに目を伏せた。長い睫毛が頰に影を落とし、月と炎に挟まれた横顔が、

まるで今にも消えてしまいそうだ。


「私にできることなら、何でも言って欲しい‥‥‥本当に、何でも」


「……エレナを、生き返らせて欲しい」


リリスは瞬きを一つだけして、静かに首を傾げた。


「エレナ……?」


「さっき、転生したって……それなら、他の人だって…」


その一言で、リリスはノルの言ってる意味を察した。


「ひょっとしてその血は…」


リリスは質問しかけてやめた。ノルの肩が震え、嗚咽を漏らしてるのに気付いたからだ。質問しなくても、答えはわかっていた。この少年は、今日大事な人を失ったのだ。リリスは、ノルの隣で暗い空を見上げた。空の星は冷たくキラキラと輝き、川のせせらぎの音が絶え間なく続いている。何故、私は転生したのだろう?何故、私はこの少年に転生したことを一瞬でもこぼしたのだろう。リリスは、川の水面を眺めながらずっとそんなことを考えていた。 


「…ごめん、変なこと言った」


いつの間にか、ノルが顔を上げている。涙と血でぐしゃぐしゃの酷い顔だったが、少なくとも先ほどのような絶望の淵を見下ろしている、そんな表情とは違っていた。リリスは、水面を見据えたままゆっくり首を振る。


「その、もしよかったら、何があったか聞いてもいいかな?」


リリスの問いかけにノルは頷くと、ぽつりぽつりと今日の惨劇を語った。語り終えると、ノルは唇を噛み締めるように呟いた。


「俺がもっと強かったら、エレナを死なせずに済んだんだ……」


「だけど、そこのダークウルフを倒したのは君だよ。ノル」


リリスはダークウルフの死体を指差す。ダークウルフの黒い毛並みが月明かりに照らされて、つやつやと光を反射していた。ノルが振り向きながら驚いたように反応する。


「俺が……?」


「覚えてないの?」


「わからないんだ。あの時は無我夢中で…。というか、自暴自棄になっていたのかもしれない」


「もしそうなら、発現したんだと思う…」


「発現?」


リリスはノルの質問に頷くと説明を始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ