第1話 見知らぬ世界
私、泡沫天音は、ずっと死に憧れていた。
何も気にしなくて済む。何も考えなくて済む。
生きていくことが辛すぎるから、死んで解放されたい。
そんな考えが日に日に強くなっていた。
だから私はー
「…ッ‼︎」
私は目を見開いた。
「しん…だの?」
そよ風が私の頬を撫でる。
私はゆっくり体を起こした。体を打ってしまったのか、ところどころ痛む。
目の前の光景が目に入る。
そこは雑木林だった。
「えっ…」
私がいた駅の周りは田んぼと少しの一軒家ばかりで、雑木林は何キロか離れたところにあったはずだ。
後ろを見てみると、駅はなくなっていた。
「もしかして、死後…の世界?」
そんなファンタジーな事あるわけないと思っていたけど…
「し、死んでみないとわからないよね…?」
私は立ち上がり、制服についた土を払った。
そして改めて周りを見渡した。ここから見た限りだと、雑木林はどこまでも続いていて、他には何も見つからない。
ふと、自分が立っている地面がしっかりかたいことに気がついた。昔家族と、山にタケノコ掘りに行った事があるが、地面は柔らかかった気がする。地面を見てみると、固められた道が続いていた。
…ここがどこだかわからないし、とりあえず進んでみようかな。
私はそう考え道の先に進んだ。
***
10分ぐらい歩いてみたけれど、景色はあまり変わらなかった。
…本当にここはどこなんだろ…人でもなんでもいいから会えるといいな。
さらに歩き続けると道の先に何かがあるのが見えた。目を凝らして見ると、木製の荷車だとわかった。
…人がいるんだ!
「あ、あの!誰かいませんか?」
私は荷車に駆け寄って言った。
そこには筋骨隆々な男性二人組がいた。
「よかった…人がいて、あの!ここがどかだか教えて…欲しく…て。」
私はそこで違和感に気づいた。
二人は立派なナイフを持っていて、そこから赤い血が滴っていた。
ゆっくりと血の落ちるところに目を向けると、そこには、
血を垂れ流す老婆がいた。
「ヒッ…」
私はおもわず後ずさった。
「チッ…ガキに見られたか…」
男達は顔を寄せ合い、何か相談し始めた。
私は強烈な死の光景に立ちすくんでいた。
不意に片方の男がこちらを向き、私の体をジロジロと眺め、お宝でも見つけたかのように笑った。
「いい服着てんじゃねえか、こいつ」
猛烈に嫌な予感がした。
「剥いで売ったらイイ金になるぞ」
「このババアは大して持ってなかったしな」
「このガキも売ってやるか」
「その前に味見もしてえなあ」
男達から感じられる悪意の気配に、私の思考は恐怖で埋め尽くされた。
怖い。怖い。怖い。怖い怖い怖い怖い
「痛くされたくなかったらおとなしくしろよ、お嬢ちゃん」
男がナイフを私に向けた。
後ずさったが、足が竦んで尻もちをついてしまった。
「フッ…そのまま大人しくしてろよッ」
男が私の制服の襟を乱暴に掴み引っ張りあげた。
「イヤッ‼︎放して‼︎」
足をバタバタと振るが、何も意味はなく。
私は地面に思い切り叩きつけられた。
「…ッカハッ」
背中に衝撃が走る。今まで感じた事のない痛みだった。
ああ、やっぱりあのまま我慢していれば良かったんだ。こんなことに比べたら、イジメなんて別に…
朦朧としながらそんな事を考えていた。
その時、私の腕を押さえていた男の手の力がふっと軽くなった。
そして男の体が横に吹き飛ばされた。
何が起きたのかわからず、一瞬呆然とした。
押さえられていた方の腕を見ると、男の手だけが残っていた。
ガバッと起き上がり、男の飛んでいった方を見た。
男は血がドバドバと出ている手首を押さえもがいている。
私は、目の前に一人の青年が立っていることに気がついた。
彼は私にそっと声をかけた
「大丈夫か?」