9/相思相愛
「お姉ちゃん、お姉ちゃん。今度の獲物はどんな人? 男の人? それとも女の人? ねえねえお姉ちゃん。ねえったら」
ゆさゆさと私の肩を揺するのは、私の可愛い可愛い妹だった。
「女の子よ。あなたと同じくらいの、綺麗な女の子。ほら、あなたも知っているでしょう? 天童の一人娘よ。お金持ちのお嬢様ね。血塗られた一族の、呪われた女の子」
私はそんなふうに言ってきかせた。私の肩程にひょっこりと覗く頭に。
「私と同じ、くらい?」
「そうよ、あなたと同じくらい。もしかして、自分と同じようなこを、斬るのはやだ?」
そんなことがあるわけないということは知っている。私の知る妹は、そんなことでは動じない。そんなことでは変わらない。
「あは、ははは。ふう~、あはは」
彼女は、私が最初から真面目になどきいていないということに気付いていたのかどうなのか、笑って誤魔化すばかり。見ていて飽きない笑顔を。
その顔に咲かすばかり…………
「あなたは本当に可愛いわね」
「……ん~? なに~、お姉ちゃん何か言った?」
「あなたは本当に可愛いわね」
そうして、その頭を撫でる。長い髪をすく。生まれつきの金色のロングヘアー。
「う、うあ。ちょっと、やめてよくすぐったい~」
言いながらも、力のない否定であった。重なる体と同じように、距離の感じられない心と心。それは長年共に生きた者同士にのみ生まれる、お互いに遠慮のない関係。
私と妹は、言わば相棒だ。一緒に仕事をする、姉妹。血が繋がっていなくとも、心が繋がっていればその必要はない。
私は彼女の為に、彼女は私の為に。お互いをお互いに、生きるために寄り添う。
生きるために指令を執行する。他の何を犠牲にしても、彼女だけは失いたくない。
私だけの、彼女。彼女だけの私。
「……でも」
そうだ、今回は。
「なあに、お姉ちゃん」
「私達の邪魔をしようという人がいるの」
「邪魔? ん~、なにかな。それって、邪魔なんて……変なの」
彼女には、理解できないのだろう。自分がすることが間違ったことなんて、考えもしない彼女には、自分の邪魔をするなんていう思考がそもそも理解しえないのだろう。
それでいい。それでこその彼女だ。それでこその妹だ。彼女は、そうでなければならない。
「その人も、同じようにしてあげなさい。同じように、バラバラに、斬って斬って斬って斬って斬ってあげなさい」
私達の前を遮る障害物は、バラバラに、バラバラに、斬って 斬って斬り刻むのみ。
跡形もなく、そこに一滴の血さえ残さずに。脚を斬って、腕を斬って、首を斬ってさしあげよう。
「これが終わったら、どこか遊びにいこうよ~。服とか買って、甘いもの食べて、いっぱい、いっぱい、遊びたいよ~」
「ええ、もちろん。何でも買ってあげるし、どこへでも連れていくわ。遊園地でも、動物園でも、映画館でも、どこへでも……」
いつまでも、一緒。ずっと、ずっと、ずっと一緒。私達は、姉妹なのだから。
血が繋がっていなくとも、心が繋がって いれば、その必要はない。
血が繋がった者同士でさえ、これだけ強い繋がりがあるかどうか。
それを思えば、上っ面だけなぞったような、友達だとか、友情だとか、そんな薄っぺらいもののなんと浅いことか。
この世のなんと、つまらないことか。偽りに満ちた、紛い物だらけの世界。その中でも、私達だけは違う。
生と死。その狭間で、ギリギリの瀬戸際で、互いの体を……心を預け合う同士。
私が欠けても、彼女が欠けても成立しない、二人で一人の名前。
二人で共有する、この世の裏側で犇めく誰もが恐れる名前。
私達は、斬って捨てる。そこからついた名。誰かが付けた名。いつの間にか、彼等は私達をそう呼ぶようになった。
私達姉妹を……《切断魔》と。
切り断つ魔ゆえに、切断魔。
二人で一つの名前。畏怖をもって囁かれる、裏に生きる者達が、その名をきけばすぐに、自分の手足がそこにあるかどうか確かめなければ気が済まない。
そんな象徴にまで、その名はなった。
したくてその名を、上げたわけではないけれど。どこまでも、この世界に、私達の愛を、確かなものとするには、もっと欲しい。生きている実感、殺すという実感。同じ人間の生命を、その手のひらで遊ぶ。
そんな所業。神に近き所業。私達は、誰よりも、何よりも、強くそして美しい愛を……
「愛しているわ。私の可愛い可愛い、あなた」
「……うんっ、私もお姉ちゃんが大好きだよっ」
嗚呼、私は本当に幸せ。




