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6/状況整理

……

………

…………

……………

………………

…………………


天童財閥は曲がりなりにもどこを取っても、正真正銘の《支配者》であった。


その支配の及ぶところはこの世界の何から何までである。そう、全てと言ってもいい。


この世有るべくしてある、生きるべくして生きるもの達に容赦なく影響を与えるのがそれという彼等だ。


その名を知らぬ者はそれだけで問答無用に世間知らずの烙印を押されることを免れない、言わば世界のステータスである。


世界基準、全国基準、地球基準、宇宙基準。


それはどこかの国で起きた独裁政治等では決してなく、民を虐げ苦しめ搾取し利用しようというものでもなく、ただ基準としてそこにあるものだ。


それだけでこの世界にどれ程の影響を与えるか、人並みに学業を学んで来た人間ならば分かることだろう。


天童財閥の歴史は江戸時代迄に遡る。まだ幕府がこの国を支配していた頃……、一人の人間がいた。


一人の人間として生まれるべくして生まれた男が歴史にいた。


その男は他の人間とは異なる考え方を持っていた。持っていたというか、それはそもそも言い方がおかしいかもしれない。


在るべくしてあったとしか、言えないのかもしれないが、僕の様な凡人の想像力欠如には、恐れ多くも差し出がましくも、ここはそう言わせて貰うとしよう……


兎にも角にもその男、

天童の祖先にあたるその人間こそが、今日の天童財閥の栄光を作ったのだ。


当時、鎖国の状態にあったこの国において初めて国際的な考えを広めた人物として有名だ。教科書に載っているかどうかは、どうぞご自由に確認してくれ。学校の教科書で僕が未だに忘れない知識は現代文の最後のページにある四文字熟語のコーナーだけだ。


まあいい……そんなどうにでも書き換えられる、ペラペラな歴史なんかに、いまは用はない。


これはただの前置きである。ほんの序章でしかない、前座とでも言うべき、物語の最初の最初である。


この場合出てきて貰うべきは、今現在目の前に存在する事実であろう。最悪の敵が、一人の女の子を抹殺しようとしているという事実であろう。

それを最初に察知したのは他ならぬ天童財閥自身だ。


誰でも理解していることとは思うが……とにかく強大にして凶大にして巨大の組織の中の組織であり、支配者の中の支配者である天童財閥。


これが全くの健全、正ありきの正真正銘の正義だということは諦めて頂きたい。


大きければ大きい程、強力であれば強力である程、それは善悪、白黒、明暗、を使い分けているものだ。


線を引いた内と外を、上手く渡り歩いているものだ。それはいつの時代も変わらない。


天童財閥は、悪を飼い慣らす連中だ。あらゆる裏組織と繋がりを持つ、支配者としての悪。

合法、非合法に関わらず利用できるものを利用し、無価値なものを切り捨てて存続してきた。


そして今その闇が自身に牙を剥いたわけだ。自業自得とも言えるか。


一体どこのどいつが彼女の死を望んでいるのか、それは分からないが……想像できないし、想像したくもない。


そこにどんな血生臭い理由があるのか、別に知りたくもないし、そもそも想像力が著しく欠如した僕にしてみれば今更どうしようもないことだけれど。


そんな理由なんかは置いておくとして、その情報を裏の伝手から得た天童は、《僕達》に依頼をよこしたわけだ。


そういうことになる。後から先輩に聞いた話によれば、そういうことになっているらしい。


まあ、……この僕にしてみれば、そんなどうでもいい事情なんていうものは、ここに至る迄の理由なんていう小さすぎてくだらないことに興味はない。


僕はプロだ。プロフェッショナルだ。仕事に私情を、挟んだりはしない。挟むことは、許されない。


言われるがまま、されるがままに、ただそうであるようにそうするだけだ。例え彼女の抹殺を《切断魔》に依頼した理由が、あって無いが如しの、屁理屈にまみれた幼稚なものであったとしても……


僕は別にどうでもいい。その何者かに対して、お前はそれでも人間か? なんて理不尽な疑問を投げかけたりはしない。


僕はプロだ。僕はプロフェッショナルだ。


誰かに利用され、誰かを利用する者。ただそこに有るべくして有る、いるべくしている、中間管理職。


世界の釣り合いをとる者。世界のバランスを見守るもの。その為に僕は日夜人知れず働いているのだ。


僕が今死んでも、世界は死んだりしないだろう。僕だけを置き去りにして、その先に進むだろう。


だからって僕は、自分の人生を無駄とは思わない。世界の役に立とう立とうなんて、言ったってきりがないからな。


自分が世界に見放されたとしても、それは仕方のないことだ。それを世界のせいにするのは間違いだ。


世界はいつだって、誰にだって平等。天は人の上に人を作らず。人の下にも、人を作らず。


そこには頭の良い人間と、それ以外がいるだけだ。そしてこの僕がそのどちらかに属するのかといえば、言う迄もなく後者の方だろうな。


僕に物を考えるだけの頭があったのなら……今こんなところに立ってはいないだろうから。


ふうやれやれ。また思考の無駄使いか。全く呆れ果てる。自分の駄目さ加減にもはや感服の至りだ。


溜め息の限りだ。きっとこんな自分のことを、世界はもう諦めているのだろう。


僕に期待なんかしていない筈だ。負けると分かっている馬の馬券を誰が買うだろうか?


僕が世界だったら、間違ってもこんな想像力欠如の凡人を主役にしたりしない。物語の中心に持ってきたりはしないだろう。


そんなワインの樽に泥を混ぜるような、愚行に走る筈はない。まあ……それにしたって、この僕が間違いを犯さなかったこと等、数える程にしかないのだから保証はできないか。


むしろ僕がルールであるからにして、それ以外にそんなことは有り得ないような気もする。いやはや、この僕はどこ迄自分を貶めれば気が済むのだろうな。


……自虐趣味もいいところだ。僕は自らを痛めつけることに悦楽を感じるような変態ではないというのに。


……《切断魔》の話をしようか。彼は、いや彼女かもしれないが、《切断魔》という存在は《僕達》の間では有名だ。


日の当たらない《裏》で生きる者達の中でも異端も異端。カリスマもカリスマ。標的を確実に抹殺する……いわば殺し屋である。


僕も実際に会ったことはないが、その伝説じみた噂は聞こえている。……狙われた者の五体を必ず不満足にして殺すことからその名前がついた。首と、右手と、左手と、右足と、左足を……である。


本当に悪趣味な奴だと思う。他人の殺し方をとやかく言うつもりはないが、人間の人体における特に重要な四肢を奪い去った後に首を斬る殺し方に僕は賛同できない。


楽に殺ってあげればいいじゃないか。どうしてそこ迄に残酷な方法を選択するか……殺し方にこだわりがあるのはプロの証という奴もいるが、それでも大抵はなるべく苦しまないやり方がセオリーってもんだろうが。


だって、だって……死ぬんだぜ。死ぬってことは最後ってことだ。もう生きれないって、ことだ。そんな人間の願い位聞いてやれよ。


最後クライ楽似逝過瀬手矢レ余。逝過瀬手矢レ場胃胃蛇名胃過。


だから僕は今回の仕事を引き受けた。彼に、もしくは彼女に説教する為に。一言、物申す為に……


調子に乗った、愚か者に神の鉄槌を、プロの洗礼を……洗礼を洗礼を洗礼を洗礼を洗礼を洗礼を洗礼を洗礼を……


洗って礼して殺して殺す為に、斬って斬って斬って斬って最後に首を斬って殺す。


斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って首を斬って首を斬って首を斬って首を斬って首を斬って首を……


嗚呼はやくコナイカナ…………この《斬離虎》ことkirikoが手ぐすね引いて待っているぞ。標的は天童アカリではなく、お前の方だということを思い知れ。


逆に狩られる気持ちを思い知って重い死ね。斬って離して虎してコロス。


は~あ、またなんかおかしくなってきたな。おかしくなって、きちゃったな。可笑しくなってきちゃったな。


丘しくなって、きちゃったな。岡しくなって、きちゃったな。早く会いたい切断魔。早く斬りたい切断魔。


僕を精々楽しませてくれ。斬離虎を精々楽しませてくれ……

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