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爆弾魔

ゴリゴリゴリ……。

ゴリゴリゴリゴリ……。

………。


「……これも失敗かぁ。」

ミャアは、出来上がった()()を放り投げようとして思いとどまり、そっと近くの地面に置く。

そこには、ミャアの作成した()()()が山積みになっている。


「はぁ……処分しないといけないね。」

処分といっても、失敗作をNPCは買い取ってくれない。

かといって、持ち運ぶには量が多すぎる。


だから、ミャアはストレージ限界までの失敗作が出来上がると、近くの広場に捨てに行くのがここ数日の日課になっていた。


ザクザクザク……。


広場に穴を掘って、失敗作を埋めていく。

街の側といっても、あまり人が来ない場所なので、ゴミを埋めても問題ないだろう、とミャアは考えていた。


実は、こういう廃棄物は、街の中の各所に設置してある廃棄ボックス(通称:ゴミ箱)に投入することで、内容に応じた「クリーンナップポイント」が得られるのだが、USOを始めて間もないミャアが、そんな事を知るはずがなかった。


もっとも、知っていても、ミャアは街中まで、この失敗作を持っていく気にはなれなかっただろう。


この瓶に入ったどす黒い謎の液体……時々泡立つモノも出来る……。大きなショックを与えたり、火を点けたりすると爆発を起こすのだ。

といっても、一つ一つの爆発は大したことは無い。精々、軽いやけどを起こす程度のものなのだが、何せ、数が数である。一つが爆発したら、周りのものに誘発してかなりの大爆発となうのは、ミャアが実際に体験した。あっという間にHPが無くなり街の教会で再生した時は、ショックでしばらくの間動けない程だった。


そんな危険な失敗作を街中にまで運ぶ勇気はなく、近くの人気のない広場に穴を掘って埋めることにしたのだが……。


「はぁ……。もう埋める場所が殆どないや。」


それなりに広かったはずの広場。だけど、この3日間で廃棄された失敗品の数々により、この広場のどこを掘っても、ミャアの埋めた失敗作が掘り出されるといっても過言ではないくらいに、殆どの場所が危険物で埋め尽くされていた。


「はぁ……これ失敗作って言うより、爆弾、だよねぇ。」

ミャアは、埋める場所が無くなって、残ってしまったどす黒い液体が入った瓶を眺めて、ハァーっと深いため息をつく。


ミャアが作成しようとしているのは「万能状態異常回復薬」……いわゆる「万能薬」だった。



「ミャアちゃん、今日もポーションかい?」

街中で「露店を開いた」ところで声を掛けてきたのは、ここ最近顔馴染みになった生産者のカイルという男性。

商業系の「露店販売」というスキルがあれば、こうしてモノを販売することが出来るという事を教えてくれたのも、このカイルだった。


「あ、カイルさん、こんにちわ。いつものポーションです。買ってくれますか?」

コミュ障気味のミャアではあるが、毎日のように見かければ声を掛けてくる、そして、決してしつこくしないさっぱりとした気質のカイル相手であれば、これくらいの会話は出来るようになっていた。


「あー、買ってあげたいけど、そろそろ戦争も終わるらしいんだよね。だからポーションもそろそろ頭打ちになりそうだから、在庫持ちたくないんだ。他の奴に声かけておくから、今日はそれで勘弁して。」


「あ、えっと、大丈夫です。……でも、戦争終わっちゃうんですね。」

「戦争」というと大仰に聞こえるが、所詮はプレイヤー同士の小競り合いであり、双方愉しんでいるのだから、凄惨なイメージからは程遠い。

そして、目の前のカイル達生産者にとっては、戦争というものは、多量に消耗品を消費する行いであり、作れば作っただけ売れるという「戦争需要」による、大幅な売り上げが見込める大イベントでもある。


ミャアも、その戦争需要のおかげで、大量にポーションを売ることが出来、スキルや設備投資などに必要な金額を溜めることが出来たので、それが終わってしまうという事は、また一から金策を考えなければいけないという事なので、非常に残念に思ってしまうのだった。


「まぁ、ここ最近じゃ、珍しいからな。充分稼がせてもらったけど、その分、戦争やってる奴らの懐が淋しくなってるだろうからな。潮時だと思うよ。」

「そうなんですね。」

ミャアも分かってはいるのだが、明日からの稼ぎの事を考えると、気が沈んでしまうのは仕方がない事だった。


「あ、ミャアちゃん、これ。」

そんなミャアを気に気付けようとしたのか、カイルが1冊のBookを渡してくる。

Bookという名称ではあるが、プレイヤーが自由に書けるものであり、実際にはノートといった方が正しいと思われるアイテムだ。

「この前、錬金のスキルが上がらないって言ってたでしょ?知り合いの錬金術師から、色々聞いたのをまとめておいたんだよ。といっても専門外だから、適当だけどね。」


「カイルさん……、ありがとうございます。」

「気にしないでよ。今度何か買ってくれればいいからさ。じゃぁまた。」

カイルはそう言って、去って行った。


「はぁ、ありがたいんだけど……ちょっと困るなぁ。」

カイルが親切心で色々してくれていることは分かっているし素直に感謝もしている。

ただ、ミャア……と言うか美也子は、家族以外の他人から、こんな風に親切にしてもらうことがなかったため、どう反応していいのか分からないのだ。

親切にしてもらえばしてもらうほど、重荷を背負わされる気分になる。

ミリハウアみたいに、「こっちの都合で勝手に利用させてもらっている」と言われた方が気が楽だ。


「……そう言えば、ミリ姉、最近見てないけど、なにしてるんだろ?」

新人相手のレクチャーとか言いながら、思い返してみると、自分に対しては中途半端に終ってる感じがする。

「スキルの説明の途中から言い合いになってたっけ?」

まいっか、と思いながら、ミャアは貰ったBookを開く。

「露店」を開いている間は、プレイヤーが何もしなくても、システムが勝手に「他のプレイヤー」との取引をしてくれるので、話しかけられない限り、何もすることがないので、こういう暇つぶしがあるのはありがたい。


Bookに書かれていたのは、初級の各種ポーションの大雑把なレシピと、スキルレベルを上げるのに最適な製作物について。

最後のページには、万能状態異常回復薬とHMP万能回復についての考察が書かれている。

それによれば、万能薬は、各種状態異常回復薬を、HP/MP回復薬の方はポーションとMPポーションを混ぜればできる、とかかれている。


しかし、現実には、それらの各種ポーションは混ざらない……というか、混ぜても目的の物にはならない。

悪臭漂う毒物になったり、爆発したりするのだ。いわゆる「混ぜるな、危険!」という奴である。


つまり、万能薬や万能回復薬を作るためには、それらをただ混ぜるのではなく、触媒となる中和剤が必要であり、また、それぞれの混ぜる比率などが関係すると思われる。


そして、これらを作ることが出来るようになれば、¥錬金術のスキルや跳躍のスキルが、グンっと上がることは間違いないと思われる。


ミャアはBookの中身を読み終え、閉じたところで、周りからの視線を感じる。

気づけばいつの間にかポーションは打ち切れていて、何度か話しかけられたというログが残っていた。


「えっ、あっ……その……売り切れ……です……ゴメンナサイ。」


ミャアは、辛うじてそれだけを言い、顔を真っ赤にしながら手早く「露店」を終わらせて、逃げるようにしてその場から離れたのだった。



あれから三日。

いつもの森の近くで、、ミャアは採集と調合、調薬と合成を繰り返していたが、万能薬や万能回復薬は作れず、失敗作の山を築き上げるだけだった。

その「失敗作」も、当初は毒Lv1相当や、爆発物Lv1相当だったものが、扱う素材のレベルが高くなっているためか、埋め切れずに手元に残った、こぽこぽと音を立てている赤黒い液体がLv8相当爆発物、異臭漂う濃緑の液体がLv9相当毒物になっている。


「……ふと思ったんだけど……コレって武器に使えないかな?」

ミャアはそう思い、実験してみることにする。


狙いは当然、宿敵角ウサギ。

ウサギの出るエリアで、ミャアは小瓶を片手にうさぎの出現を待つ。

ミャアの「初心者保護機能」は、まだ期間内ではあるが、取得スキル数が制限を超えたために、すでに無効になっている。


だから、ウサギがよく出現するこのエリアで待っていれば、すぐにでもウサギが現れる筈。


そう考えている間に、背後で、がさっと草を掻き分ける音がした。


「出たね、ウサギちゃんっ!今日こそは恨み晴ら……す……と……き………。」

そう言いながら振り返ったミャアの目の前には、お馴染みの角ウサギと……。


「にゃ、にゃにゃ、にゃんでぇ、グリズリーがいるのよぉっ!」


どんっと、仁王立ち……しているように見える……ウサギの後ろで、まさしく仁王立ちしていく灰色のグリズリーベア。

戦闘職初級レベルのプレイヤー達に立ちふさがる最初の壁……らしいのだが、生産スキルが基本のミャアには荷が重すぎる相手だった。


しかも、目の前のウサギが「先生、お願いします」と言っているようで、思わず手にしていたものを投げつけてしまった。


ガシャンっ!と瓶が割れる音。


しまった!と思った時にはすでに遅かった。

割れた瓶から黒い煙が漂うのが見え、時を置かずしてもう一つの瓶がグリズリーの足元に落ちて割れる……そして……。


どぉぉぉぉぉーーーーーーんっ!


一拍置いた後、大音響と共に地面が揺れる。

衝撃でミャアの身体が10mほど背後へ弾き飛ばされる。

転がり落ちたミャアはそのまま頭を抱え、地面に蹲る。

遠くの方でも大きな爆発音と叫び声が聞こえた気がするが……きっと気のせいだろうと、爆発が収まるまでやり過ごす。


音がしなくなり、揺れも収まって、さらに暫く待ってから、ミャアはゆっくりと立ち上がる。


森の木が薙ぎ倒されていて、グリズリーベアのいた場所辺りに半径2mぐらいの小さなクレーターが出来ていた。


ウサギどころか熊の肢体も見当たらず、爆発で飛び散ったとみられる小さな肉片が、少々辺りに散乱しているだけだった。


「……うん、これは封印だね。」


跡形も残らない様な物を狩りに使える筈がない。

とんでもないものを作ってしまったのかも?と思いながら、残った失敗作は収納の奥底に入れて、存在を忘れることにしたミャアだった。



◇◇ ~ある古参プレイヤー達 その8~ ◇◇


「ルールの確認をするわよ。範囲はこの広場全体。広場から出た時点でそのプレイヤーは失格。1時間後に広場内で立っているプレイヤーの数が多い方の勝利……これでいいわね?」

「あぁ、構わないさ。しかし、明らかにこっちの方が有利なルールだろ?後で絶対に文句言うなよ。」

ミリハウアの言葉に対してレオンがそう答える。


現在、広場には、レオンハルト率いる「前衛至上主義」のプレイヤー30人と、ミリハウア率いる「後衛支援隊」のプレイヤー30人が集まっている。

これから、バトルロワイヤル形式のPvPが始まるのだが、範囲が決まっている場所でのバトルロワイヤルは、どう考えても、肉弾戦に強い前衛系の方が有利だ。


「後で言い訳されたら困るからね。ここまでそっちに有利な条件で負ければ、さすがに言い訳もできないでしょ?」

「どっちかって言うと、そっちの言い訳に使われそうだけどな。」

ミリハウアの強気な発言にレオンハルトは苦笑を返す。

「準備は良い?カウントダウンするわよ!5……4……。」

ミリハウアがカウントを始めると同時に、距離を置きだす後方支援隊のメンバー。

それに対し、一気に間を詰めるためにチャージを始める前衛至上主義のメンバーたち。


「3……2……。」

「姐さんっ!何かがっ!」

「いち……ってえッ!」


ひゅるるぅぅ……。


カウントダウンしているミリハウアの頭上から、火の玉が落ちてくる。

鋭角に言えば、火だるまになったうさぎの死体だった。


勢い良く堕ちてきたソレが、地面を少し抉る。そして一拍置いた後、地面の中に埋まっていたモノに火が付いた。


どぉぉっぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーんっ!


地面の中に埋まっていたモノが誘発されて次々に爆発していく。


一つ一つは大して威力はないはずだが、広場全体に埋まっていたモノ全てが爆発すれば、チェーン効果も相まって、その場にいたプレイヤー全ての命を刈り取るには十分規模の大爆発が起きるのだった。


かくして、些細な言い合いから始まった「前衛・後衛紛争」は、双方全滅という形で幕を閉じるのだった……。






……そして、製作者のミャアのネームは赤くなりました。

USO史上初の大量殺人者、爆誕の瞬間でした。



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