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プレイヤーとの交流

リアルにもどってきた美也子は、HMDを外して、少しだけ落ち込む。

……しまったなぁ。何か話がある感じだったよね?

美也子もあのままログアウトするつもりはなかった。

あの女性の存在は、今の状況を変えてくれる、と、美也子は直感でそう思った。

だから、話しをしようと思ったのに、ログアウトのボタンを押した後だったため、キャンセルする間もなくログアウトしてしまったのだ。


「今からすぐ……は無理か。」


今すぐログインしなおせば、まだあの場で待っていてくれるかもしれない。

そう考えたのだが、時計を見て諦める。

もうすぐ夕食の時間だ。食後に軽いリハビリ、そして入浴だ。


現在の美也子は、介助が必要なため、お風呂には週2回しか入れない。

普段身体を拭いてもらってはいるが、ヤッパリお風呂に入るのは格別なのだ。

ただ、介助してもらうとはいえ、お風呂に入るのもかなりの体力を消耗する。

だから今夜はそのまま眠ることになるだろう。


ゲーム内の事は気にはなるが、所詮はゲーム。リアルのお風呂と天秤にかけるほどの事ではない、と美也子はあっさりと気持ちを切り替えたのだった。



「はぁはぁはぁ……ようやく、見つけたわよ、ミャアちゃん。」


前方に、息を切らしているネコ耳のお姉さんが立っていた。


「いーい、今からそこに行くから、逃げないでね。」


ネコミミのお姉さんの言葉に、ミャアはコクコクと頷く。


「逃げちゃダメよ。逃げたら泣くからね。」


そう言いながら、そろそろと近づいて来るお姉さんの顔を見ると、腰が引けてしまう。


……なんか怖い。


思わず逃げ腰になるミャア。


「逃げないでよっ、逃げたら本当に泣くからねっ!」


すでに泣きそうな表情のお姉さんを見て、思わずミャアの動きが止まる。

何とも言えない罪悪感を感じたのだ。


「捕まえたぁっ!」

ミャアの腕を掴んだお姉さんが嬉しそうな笑顔を見せ、抱きついてきた。

ミャアはどうしていいか分からずされるがままに、その場に立ち尽くしていた。



「さぁ、ミャアちゃん、好きなの頼んでいいからね。」

お姉さん、改めミリハウアに連行?されてきたカフェ。

周りには、すでに見慣れた土下座集団が少し距離を置いて座っている。


「私、罠にかかった?」

ぼそりと呟くミャア。

「そんなわけないでしょっ!今日はね、ミャアちゃんの誤解を解いて話をしたいと思ったの。」

「誤解?」

そう聞き返しながら、ミャアはほっと息をつく。

話しが聞けるならミャアとしても願ったりなのである。


「そう誤解よ……その前にまず……。」

ミリハウアが土下座集団に視線を向ける。


「「「「「「この度は誠に申し訳ありませんでしたっ!」」」」」」


男達が立ち上がり、一斉に頭を下げる。


「あ、えっと、ハイ……。」


「ハイハイ、これで謝罪はお終いね、みんなは解散っ!」


ミリハウアがパンパンッと手を叩くと、男達は散り散りに去っていき、その場には男二人とミリハウア、そしてミャアだけが残された。


「さて、じゃぁお話を始めましょうか?」

ミリハウアがそう言って、席に着く。

何故かミャアはその膝の上に座らされた。


向かいには剣士の男と、筋肉質の男が座る。


自己紹介によると、剣士がレオンハルトさん。称号は『神聖騎士(パラディン)』だった。


筋肉質の男がガウルンさん。称号は、見たままの『格闘家(グラップラー)』。


この称号って言うのは、持っているスキルと行動によってシステムが勝手につけるんだって。

称号には大抵、付随する効果があって、例えばレオンハルトさんの『神聖騎士(パラディン)』には、他人に対する治癒魔法の効果が1,5倍になる事と、神聖魔法の『エリアヒール』を覚えることが出来るって事らしい。


回復魔法の『ヒール』は神聖魔法のスキルを習得すれば覚えることが出来るらしいが、「エリアヒール」は対応する称号がないと覚えられない。といっても、神聖魔法を使い続けていれば、自然と適した称号がつくらしいんだけどね。


このように、称号が必要な魔法やアビリティが沢山あって、それを探し出すのもUSOの楽しみ方だと、レオンハルトさんが教えてくれた。


そんな蘊蓄を交えた自己紹介を経て、今回の騒動について、ミリハウアさんが教えてくれる。


「初心者の救済……ですか?」

「そう言う事。ミャアちゃんも、なにしていいか分からなかったんじゃない?」

「ハイ……と言うか今でも分からないです。」

ミャアが正直に答える。

実際、きっかけはお使いクエストだったけど、他にやることが分からないので、今も鉱石を掘っているというのが現状なのだ。


「そうねぇ、ミャアちゃんは、とりあえずウサギ討伐……かな?」

笑いながらそう言うミリハウア。

「ウサギ……ですか?」

「そうそう、ミャアちゃんのその称号ね……。」

ミリハウアの話によれば、初心者がには色々な特典で守られているらしいのだが、エネミーに襲われないというのもその特典の一つらしい。

その特典に護られているにもかかわらず、自ら攻撃を仕掛け、返り討ちにあった無謀な勇者?に対して付けられる称号が『○○に敗れし者』というものだそうだ。


この称号を持っているものは、NPCから様々な支援を受けることが出来る。買い物で割り引いてくれたり、なにかをくれたり等々……。

これはNPCからの「頑張ってリベンジをしろ」という応援の意味合いが強いのだが、この称号を受けてから1か月以内にリベンジが果たせなかった場合、称号が『○○より弱き者』というものに代わり、買い物の時に足元見られて高く売りつけられたり、販売拒否をされたり、子供達から「○○より弱い奴~」などとはやし立てられたりなど、NPCからまともに相手にしてもらえなくなるという。


要は、「あれだけ支援したのにダメだった奴」というレッテルを張られ信用を失うって事らしい。

この称号を取り消すには、悪評を跳ねのけ、信用に足るだけの活躍をしたとみなされる称号を得る以外になく、非常に困難なんだという。



「ね?こんなこと、普通じゃわからないでしょ?」

「ハイ。私も初めて知りました。聞いててよかったです。」

「だから、まずミャアちゃんの目標はウサギを倒すこと。その為のお手伝いをさせてもらえると助かるわ。」

「ハイ……でも、どうしてそこまで?」

ミャア……というより、美也子には何故ミリハウア達が自分に構うのかが分からない。

USO内で初めて知り合ったばかりだし、ましてやリアルでは何の接点もない。こんな素人にわざわざ時間を使う事に何のメリットがあるのだろうか?


「うーん、こういういい方すると、ミャアちゃん気分悪くするかもしれないけど、単なるおせっかいよ。もっと悪い言い方をすれば、暇つぶし、かな?」

「暇つぶし……ですか。」

確かに、自分の相手をするのが、暇つぶし、と言われては、あまり気分が良くないのも事実だが、ミリハウアの顔を見ていると、そこに悪意は感じられないので、ミャアは「そっか」と何故か納得できた。


「あっ、悪く取らないでね。初心者を助けたいって気持ちは本当だし、何か力になってあげたいって言うのも本当の事。ただ、自分たちのやることがあまりないのが現状だから、空いた時間を有意義に人の為に使おうって言うボランティアなのよ。」


慌てて言い繕うミリハウアにミャアはくすっと笑って答える。

「ボランティアも、言ってしまえば暇つぶしですもんね。」

「あは、アハハ……。」

くすくす笑いながらそう言うミャアに、ミリハウアは乾いた笑いで応えるしかできなかった。


反面、ミャアとしては「暇つぶし」であるなら、下手に恩に着なくていいから気が楽だ、と思い直していた。

暇つぶしの材料を提供する代わりに、色々教えてもらう……うん、こういう軽い関係の方が何となく性に合いそうだ、とミャアは思う。

そう考えると、ミリハウアの膝に乗せられて頭を撫でられているという現状も悪くない気がしてくる。

だから、少しだけ甘えてみた。


「はうっ、ミャアちゃん可愛すぐる……お姉ちゃんって呼んで!」

「それはイヤ。」

「がーん……がーん……ガーン…がーんんん……。」

ショックのあまり、一人でエコーを表現しているミリハウアに、くすくす笑いながら答える。

「ミリ姉でいい?」

「いいっ!みゃあちゃんきゃわわっ!」

ギュッと背後から抱きしめるミリハウア。

「苦しいよ」といいながら笑うミャア。

こんなに笑ったのはいつ振りだろう?

笑いながら考える……こんな楽しい日が、これから始まるんだ……それは切った愉しいに違いない……と。



◇◇ ~ある古参プレイヤー達 その4~ ◇◇


「うぅぅ……尊いっ!」

「姐さんとミャアたんのネコミミコンビ……百合百合しぃっ!」

「ごっつぁんですっ!ご飯三杯イケるっ!」

「百合は良いっ!あぁ、神よ、パライソはここにあったんですね!」


ミリハウアとミャアがじゃれ合う姿を遠巻きにしてみているプレイヤー達。

そのとき一人のプレイヤーが立ち上がる。


「いいかおまえらっ!俺はここに『ミャアたん親衛隊』の結成を宣言するっ!あの光景を護るために、我ら一同、あらゆる努力を厭わないことをここに宣誓するっ!同志よ集えっ!」


「「「「「「おぉっーーーーー!!!」」」」」」


今ここに、新たな、はた迷惑な集団が誕生したことを、ミャアはまだ知らなかった。


結局、MMORPGはコミュニケーションが大事なんですよ。

『一緒に遊ぶ』仲間がいないと、長くは続けられないんですよね。



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