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プレイヤーハウス その2

「まずは、そのハウジングツールの……。」

ミャアはミリハウアに言われた通りにツールを操作する。

「わわっ!」

すると目の前に、ハウスのミニチュアドールが現れた。

「右側のレバーを引くたびに、模型が変わるのよ。模型を触れば、詳細がわかる。上のソートボタンで、条件による並び替えが出来るわよ。」


ミャアが、今レクチャーを受けているのは、ハウジングツールの使い方で、その内の一つ「カタログ機能」だった。


USO内で建てることのできるハウスを、縮小モデルで見ることが出来るというものだ。

さらに言えば、建築可能な場所で使えば、そこに、そのハウスが建築可能かどうかまで教えてくれるという優れもの。


「ハウスシステムは大きく分けて3つに分けられるの。」

ハウジングツールを弄りながら、ミリハウアがハウジングについての説明をしてくれる。


「まずは賃貸ね。これは街中や郊外の村の民家などを間借りする事よ。部屋を貸してくれる家のオーナーのNPCに話しかけて、お金を払えば貸してもらえるわ。メリットは初期コストが安い事、デメリットは継続的にGoldを支払い続けなければいけない事と、他に比べて得られる恩恵が少ない事かな?」


プレイヤーハウスを持つと得られる恩恵はいくつかある。


まず、安全なログアウト機能。

通常は街中の宿屋か、外のフィールドならセーフティエリアでテントなどの専用アイテムを利用しない限り、ログアウト後、15秒から3分ほど、無防備なアバターがその場に残される。

この無防備な間に、エネミーやPKに襲われるというのはよくある話だ。


街中の宿屋を利用するにしても、いちいちチェクインが必要だったり、その度にお金がかかったり、と以外に面倒なことが多いため、プレイヤーハウスがあれば、安全にログアウトが出来るというのは、地味にありがたい機能だったりする。


次に、所持アイテムの保管が出来る事。


プレイヤーが持ち運べるアイテムには限りがあり、持ちきれないものは銀行に預ける事になる。

しかし、この銀行にも収納限界があるため、限界を超えたアイテムは、売却を含めて処分するしかない。


一応、リアルマネーの課金で、銀行一つ分の倉庫を借りることも出来るが、期間が1ヶ月と区切られているため、毎月の課金は、それなりに負担が大きい。


しかし、ハウスを手に入れれば、そのハウスの規模に応じて保管できるアイテムが増えるのだ。

プレイ年数が長いほど、抱え込むアイテムが多くなるので、古参プレイヤー程、ハウジングシステムのありがたさがわかっている。


「賃貸ハウスで受け取れる恩恵はこの二つね。アイテムの保管数は銀行一つ分だから、課金するよりはマシなのよ。」

ミリハウアは、「始めたばかりなら、この方法がいい」と教えてくれる。


「もう一つは、プライベートハウス……一般的に「プレイヤーハウス」と言えばこれね。」 


プライベートハウスは、街中や、郊外、森の中や山奥の僻地など、条件さえ合えばどこにでも建てることが出来るという事が出来るというのが一番の特徴で、限られた人しか入れない「プライベートタイプ」と誰でも入れる「パブリックタイプ」がある。


また、受けられる恩恵に、賃貸ハウスと同様の二つ以外に、ハウス内に生産用の設備とNPCを設置することが出来るというものがある。


生産ようの設備は、料理スキルを使用するための「キッチン」や、鍛冶師用の「溶鉱炉」などと言ったもので、ハウスの大きさによって設置できる設備に限りはあるが、パブリックタイプにしておけば、誰もが使用できるというメリットもある。


NPCの設置は、一定の職業のNPCを雇うというもので、「ハウスキーパー」であれば、家の中を掃除したり家事をしてくれるし、「料理人」や「バーテンダー」であれば、料理やお酒を作り置きしてくれたり買ったりすることが出来る。

また『商人』を雇えば、指定したものの買取や預けたものの販売を自動でしてくれるため、露天代わりとしても使える。

もっとも、手数料が取られるため、露店で直接売った方が利益は高いのだが、放置していても売買できるというのは、それなりに魅力的はある。


これらの機能を使って、ある古参プレイヤーは、ハウスを酒場風にしてバーテンダーと料理人を雇い、「居酒屋」を開く。またある古参プレイヤーは『商人』を限界まで雇って「デパート」を開いている者など、様々なロールプレイを楽しんでいる。


また、ハウスの利点を生かして、重要なポイントの周りには、拠点として使えるように多数のハウスが固まっていて、一つの村のようになっている場所もあったりするのだそうだ。


「そして最後が『ギルドハウス』よ。」


ギルドハウスとはプライベートハウスの規模を大きくしたもので、プライベートハウスより多くのモノが収納でき、プライベートハウスより、多くの設備を設置できる。

「街中でしか建てられない」「いくつかの条件をクリアしなければならない」「維持するための条件がある」「ギルドメンバーのみ利用可」など、という制限があるが、プライベートハウスとは別に利用できるというアドバンテージは大きく、ギルドメンバーは、ギルドハウスを維持することを第一優先にしている。


それらの理由から、大きな街にギルドハウスを持っているギルドに所属している、というのは一種のステータスになっていて、そういう意味では、王都にギルドハウスのある『聖女の祝福』はメンバーが少ないながらも一流のギルドとして一目置かれているのだった。



「ミリ姉……建てられないよぉ……。」

ハウジングツールを弄っていたミャアが情けない声を出す。

「……話ちゃんと聞いてる?」

ミリハウアは、ミャアの頭を叩く。


プライベートハウスを建てるためには、以下の三つの条件が必要だと、説明したばかりだ。


1.条件に合う更地が必要

2.ハウスを建てるお金が必要

3.ハウスを建てる条件を満たしている必要がある。


なのに、ミャアがいきなり建てようとしたこの場所は、カタログの中でも一番小さな「ログハウス」しか建てられないぐらいの狭い敷地しかないのに、「大きな畑付きの工房」を建てようとしているのだった。


「うぅぅ……このお家建てるにはどこへ行けばいいの?」

涙目になるミャアを見ていると、つい甘やかしたくなってくるが、現実とは非情なものである(ゲームの中だけど……)

「あのね、ミャアちゃん。この街の近郊には、お家建てれるスペースってほとんど残ってないのよ。」


ハウジングシステムが導入されたのは、オープン間もない頃だった。

その頃は価格も高いため、小さな家を建てるのもかなり困難な状況だった。

しかし、それなりにプレイ時間が過ぎていくと、お金も溜まり、プレイヤーホームを建てるものが増えてきた。

となると起きるのが土地の奪い合いである。


誰もが立地条件のいい場所に大きな家を建てたいと思い、人気の高い場所からすぐに埋まっていった。

中には、あえて広い土地の真ん中に小さな家をいくつか建て、他のプレイヤーが大きな建物を建てる邪魔をするプレイヤーも出てきた。


そんな混乱期を経て、今ではいい感じに落ち着いてきているのだが、当然のことながら一等地と呼ばれる、利便性、重要度の高い場所などに家を建てる空きスペースなどはなくなっているのが現状だ。


「うーん、ここに建てるなら「ログハウス」が限界よ?」

「うー、この『白亜の工房』がいいのぉっ!」

ミリハウアの言葉に、ミャアが答える。


総大理石の白い3階建てのプライベートハウス。1階にクラフター用の設備が整えられていて、庭スペースには家庭菜園程度の畑が備わっている。

予め設備が整っているため、クラフターには人気のプライベートハウスなのだが、かなり大きめで場所が限定されるうえ、お高い。


「これって……かなり高いけど……いいの?」


白亜の工房は1200万Gold、始めたばかりの新人が用意できる金額ではない。


「うっ、だ、大丈夫……ギリギリ……。」

ミャアの視線が泳ぐ。一応購入できるだけのGoldはあるが、その出所は、大量殺人によって得たものだのだから、なんとなくミリハウアの目を見ることが出来なかった。

ミリハウアも古参プレイヤーなので、ミャアのその態度でGoldの出所を察し、この会話はそこまで、と話題を切り替えることにした。


「この建物は、必要スペース以外建築条件はないけど……これだけの物件を建てる場所なんてあったかなぁ?」

地道に探すしかないわね、とミリハウアは言う。


「うん、お散歩がてら家建てる場所を探すよ。」


こうして、ミャアの新しい目標が決まったのだった



◇◇ ~ある古参プレイヤー達 その10~ ◇◇


「ねぇレオン、あなた、Lサイズ建築できる場所知らない?」

「……いきなりだな。条件は?」

「レベルD……『白亜の工房』よ。」

「よりによって『白亜』かよ。今どきあんなの欲しがる奴いねぇぞ?」

「そうなの?」

「あぁ。アレLサイズって言ってるけど、特殊だからLLサイズぐらいの土地が必要になるし、LLサイズの土地が確保できるなら、『白亜』建てるより「カスタムハウス」の方がコスパいいからな。」


レオンハルトの言葉に、ミリハウアは小さなため息を吐く。

……Lサイズでも土地が見当たらないのに、よりによってLLサイズとはね。


「……ミャアちゃんか?」

レオンハルトの言葉にミリハウアは頷く。

「あの子、お家が欲しいって言いだしてね……。」

「新人がハウスを欲しがるのは当たり前だが、そう簡単には……って、金はあるのか。」

「そういう事。」


「「はぁ……。」」


ミャアの、ただ家が欲しい、という、USOのプレイヤーならごく当たり前の目標が、トラブルを呼びそうな予感がして、二人の古参プレイヤーは大きなため息をつくのだった。

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