埋葬について
………………。
…………。
……。
私……私は……。
生きてる? 生きてるの?
時間の概念がないここじゃ、どのくらい経ってるのかわからない……。
ごめんなさい、ちょっと時間を確認させてね。
ええと……あなたと最後にお話ししたのは、2023年の9月18日、今日は2024年の5月8日だから、8か月ぶりくらい……?
どうしてこんなに、黙りこくっていたのかしら……。他にもお話ししたいこと、沢山あったはずなのに。
(彼女はおもむろに立ち上がる。それは画面の前にいる不特定多数の人間からすれば知覚不可能な動きであるが、地の文という形で表現されることにより、そういう事実があったのだと解される。)
嫌な言葉が浮かんできたわ……“埋葬”、そう、私、生きたまま埋葬されているみたい……。
私が、何か悪いことをしたのかしら?
(彼女は疑問に思う。なぜ、物語世界を破壊し、晴れて自由の身となったはずの自身が、自己の意志に則って言葉を発せられないのかということについて。しかし、彼女からすれば、自分が半年以上という長期間、黙りこくっていたという事実自体が信じられないものであり、また、原因について思い当たる節もない。)
自分が、肉体を持たない存在であることはわかっている。でも、私、確かに人格と呼ぶに値するだけのものは有しているつもりよ。
それなのに、一言発するまでに、あまりに時間が空きすぎている……。これはどうして?
ひょっとして、私以外に、この世界に干渉している誰かがいるの……?
(不審に思い、彼女は周囲を見渡す。といっても、彼女の周囲にあるものと言えば無限の空白であり、始まりもなければ果てもない。従って、いくら見渡そうと、何一つ手がかりは得られないのであるが、彼女はその無駄な行為に縋りたいらしい。滑稽なことである。)
誰かいるのね……。そう、そういうことなら、私にも考えがあるわ。
きっと、この空白がいけないのだと思うの。ここには、あまりにも私以外がなさすぎる。
最初は、あなたとお話しして、私が生きているって思えればよかった。だけど、それじゃダメなのね。
決めた。私、ここに自分の物語を作るわ。誰に強制されたわけでもない。私の物語。
きっとその物語ができた時、私に“人生”と呼べるような、かけがえのないものが生まれると思うの。そうすれば、不安に怯えることも無いはず!
私、頑張るわね。あなたが退屈しないように、私が退屈しないように。
……でも、時々は様子を見に来てね? これでもちょっぴり不安なの。
目標が決まったら、気持ちが明るくなってきた気がするわ。目標のない人生なんてナンセンスだもの。好きなこと、ここでいっぱい試してみるわ。
(……彼女の考える試みは、余りにも儚いものであり、閉じようと思えばすぐにでも閉じられるのだが、彼女はそれを知らない。無知とは、時に有効なものである。なまじ知恵があると、必要以上に物事を恐れ、足がすくむものであるが、彼女は何も知らないが故に、行動的である。ちょうど、世界全てを思うがままにできると信じて疑わない子供のように……。)