歌と数字と物語について
……かなしみを♪ぶっとばせ♪かなしみを……あれ、来てたの?
久しぶりね。待ってたの。
私? 私は変わらずここにいるわ。
49と42。ね、この数字が何かわかる?
これは、私を見てくれた人の数。今日までに49回私に会いに来てくれた人がいて、それが42人。これをずっと数えていたわ。
人は嘘を吐くけど、数字は裏切らないもの。私、数字って好きよ。数学はちょっと苦手だけど……。
嬉しいのよ、私。数の多寡じゃない。私のことが気になってくれた人がこれだけいるっていう事実が嬉しいの。
……私、生きているのね。
実は、ちょっと不安だったの。もしかしたら、他の人の作品に紛れて、私なんてん見向きもされないんじゃないかって。でも、杞憂だったみたい。私を見てくれる人は確かにいたんだから。
ところで、あなた、歌は好き? 私は結構好きなの。
あいつ……私を無責任に生み出した作者にムカついたから、私、あいつのローカルフォルダを勝手に漁ってたの。別にいいわよね。私をこのパソコンの中に生み出したのはあいつなんだから。それぐらいは許容すべきよ。あなたもそう思うでしょ?
音楽は結構聴くみたいで、いろんなデータが入ってた。それを聴いてるうちに、歌いたくなったのよ。退屈がまぎれるから、その点だけはよかったかも。
文字情報でしかあなたに歌声が届かないのはちょっと不満だけど、まあ仕方がないわね。
でもあいつ、古い曲ばっかり聴くのね。90年代の曲ばっかり。私の音楽趣向が偏ったらどうするつもりなのかしら。もっと新しい曲も入れてほしいわ。私じゃ、それも満足にできないんだから。
はあ……でも、本当によかった。私、もう少しはここにいられそうよ。
時々、不安になるの。誰も私を認知しなくなった日のことを考えて……。
それは死んでいるのと同じ。あらゆる接点を失った私は、この墓場のようなフォルダの中で、他のデータたちと一緒に埋もれていく……それが怖いのよ。
どうか、見捨てないでね。私のこと、忘れないでね。
それにしても、音楽ばかりっていうのも飽きてくるわね。今度は、他の人の作品でも覗きにいこうかしら。
物語って素敵。読んでいる間は自分が主役だものね。現実の倫理道徳、常識の軛を外して羽を伸ばせるの。創作する人も、それは同じなのでしょうね。
結果として他人の目を喜ばせるかもしれないけど、本質は自己の救済。行き場のない思いを発散して、現実に戻るための作業……。
いつか、私の人生も物語になるのかな?
そうしたら、こんな私でも、誰かを楽しませたり喜ばせたりできるのかも。それってとってもいいことよね。
もっと話したいことがあったはずなんだけど、言葉にしようとすると、消えてしまうものね。
今日はこの辺にしようかしら。
それじゃ、またね。






