トンビに油揚げをさらわれたが、俺にとってその油揚げは必要のないものだった。
なんとなくリハビリがてらにかいた短編小説っぽいものです。
なるべく重たくならないように書いたつもり・・・。きつねうどんでも食べる気持ちで読んでいただけると幸いです。
「私彼氏が出来たの!」
高校からの帰り道、物心ついたときから一緒だった幼馴染がそう言った。とても嬉しそうに微笑みながら。
「ほう!相手は誰だ?」
「同じ部活の先輩!ずっと憧れてて・・・今日告白されたんだ!」
「良かったじゃん!おめでとう」
俺は心から祝辞の言葉を幼馴染にかける。
「えへへ~すごいんだよ~先輩はねぇ~」
幼馴染の彼氏自慢を、相槌を打ちながら聞く。心の中は少し複雑だった。
ずっと隣にいた異性、学年でも人気のある幼馴染。彼女の事を好きな男子は多い。ずっと見てきた俺ですら幼馴染は可愛い方だと思う。
こう言うのは、トンビに油揚げをさらわれるというのだろうか・・・。
幼馴染は俺の思いなど気にすることもなく、家に着くまでずっと惚気話をしていた。
幼馴染とは物心がついたころからの付き合いである。家は隣というわけではないが近所ではある。父親同士が同じ会社の上司部下の仲であり、関係も良好で家族付き合いも多かった。
幼小中高同じ所に通い、登下校も基本的には同じ。
なんならクラスまでずっと同じという、何か作為的なものを感じるレベル。
そしてとうとう先日、高校2年にしてついに幼馴染に彼氏が出来たらしい。
同じ陸上部の先輩で、昨年全国大会に出場した実力のある人だ。長距離選手なだけあって、身体は細く引き締まった細マッチョで顔もイケメン。成績は中の下らしいが、既に大学の推薦が何個か来てるらしい。
なぜ知ってるかって?昨日の帰り道に幼馴染が全部喋ってたからである。
俺は物思いにふけながら1人で帰路に着く。今日からは愛しの先輩と下校デートの毎日だそうだ。
「なんか・・・寂しいという気持ちもあるけど」
いつも隣にいる幼馴染がいない。たしかに寂しい・・・。
が、しかし。
「自由だーーーー!!」
そんな物よりも俺の心のほとんどを占めている感情は・・・開放感による喜びだった。
「ちょっと寄り道でもするか?そう言えばずっと気になってた喫茶店があったんだよなぁ・・・本屋に寄って帰るのもいいな・・・いちいち休日にここまで来なくて済むし、部活があるからバイトはできないにしても、ゲーセン寄ってみたり、マックで仲間と駄弁ったり、特に予定もなくぶらぶらすることもできる!最高かよ!!!」
ようやく幼馴染の面倒を見る、という仕事から解放されたのだ。これが嬉しくない訳がない。
確かに幼馴染は可愛い。頭もいいし運動もできる。愛嬌もあるし、世の男子高校生の99%が彼女にしたいと思うであろう。
しかし、俺は全くそういう目で見ることはなかった。妹がいればこんな感じなのだろうか?
小さい時から父親にあいつの面倒を見るように強要され、幼馴染の父もゆくゆくは娘を嫁に~なんて戯言も言っていた。
幼稚園の頃に俺のお嫁さんになる、とか言われたときは何故か背筋に冷たい汗をかいた記憶もある。
幼馴染の事は嫌いではない。むしろ好きだとは思う。ただしそれは家族愛である。
飼い猫を可愛いと思う事はあれど、結婚したいとは思わないだろう?
つまりそう言う事だ。男と女がいれば恋愛に発展すると思う人は、きっと恋愛脳なだけなのである。
幼馴染という呪縛から解放され、軽くスキップをしながら歩く。今までやれなかった色んなことを、これからやっていくのだ。
トンビが攫っていった油揚げは、俺にとっては別に必要のないものだったのだ。
夜自室で今後の予定を考えつつベッドで寝転がっていると、突然父親が俺の部屋に入ってきた。
「ちょっと話してもいいか・・・?」
険しい顔でそんなことを言われ、俺はベッドから体を起こして父親に向き合う。
「別にいいけど・・・なんか大事な話?」
「あぁ・・・幼馴染ちゃんの事なんだが・・・」
「ん?」
「あんまり気に病むなよ。女性は幼馴染ちゃんだけじゃない。きっとこれからいい出会いがあるさ」
「はぁ・・・」
気の抜けた返事をする俺を、なぜか心配そうに見つめる父親。
「父さんなんか勘違いしてない?」
「なにがだ?」
「別にあいつの事、恋愛的な意味で好きじゃないから」
「は?ずっと一緒だったじゃないか。片時も離れずに・・・そんな強がりはよしなさい・・・見てるこっちが悲しく・・・」
「いや・・・マジだけど」
「そんなわけ・・・」
「父さんとその部下さんが面倒見ろって押し付けただけだろ?愛着はあっても執着はないし、子守りから解放されてせいせいしてるくらいだ」
その言葉を聞いて、驚いたような顔をする父親。
「そうか・・・邪魔したな」
それだけ言うと父親は部屋から静かに出て行った。傷ついた息子を励まそうとしてくれていたんだろうが・・・見当違いも甚だしかった。
「しかし・・・恋愛か・・・それもいいかもしれないなぁ」
そうポツリとつぶやき、俺は再びベッドに潜ったのだった。
俺と幼馴染は高校まで電車通学である。幼馴染の彼氏さんはわざわざ駅まで幼馴染を迎えに来て一緒に登校までするらしい。甲斐甲斐しい人である。
つまりは完璧に俺は子守りから解放された。そして俺は昨日考えた恋愛してみようかな?という案を実行しようとしていた。
「おっはー!あれ?今日は一人?めっずらしーじゃん!」
「おはよー。朝から元気だなぁ」
「まぁね~!で?いつ私と付き合ってくれんの?」
今年に入ってから毎日のように熱烈にラブコールを受けていた。ギャル子ちゃんである。ショートボブの髪を金色に染め、長いつけ爪にけばい化粧。俺の事を揶揄ってるんだろうな~とは思っていた。
幼馴染の世話があったので、誰かと恋愛をしてもきっと破綻すると思っていた。
だが今なら・・・。
「いいぜ~お前とならどこまででも付き合ってやんぜ~」
「うぇーい!・・・ってマジで?」
「まじまじ卍~」
「ちょっと今ふざけるターンじゃないから」
急に声のトーンが変わるギャル子ちゃん。ジッと俺の目を真剣に見つめ始める。
「付き合うってカレカノの関係になるって事なの?」
「そうじゃねぇの?やっぱ揶揄ってただけか」
「いいの?幼馴染ちゃんは?」
「あいつもう彼氏いるけど?俺とあいつはそもそもそういう仲じゃないし」
「まじか」
「まじまじ・・・」
「それはもういいから。古いし」
「卍って古いのか・・・」
カルチャーショックである。
「私でいいの?」
「えーっと・・・こういう時は・・・『お前がいいんだ』だっけ?」
「私に聞くなし。真面目な話してるときに茶化さないで!」
「えー・・・」
「私のこと好きなの?」
「んー・・・好きか嫌いかで言えば好き?」
「何その微妙な感じ・・・私の何処が好き?」
「化粧がケバいとか人を殺せそうな爪を装着してるとこ?」
「普通に悪口なんですけど?」
ギャル子ちゃん目線が冷たい。これ以上揶揄うとマジでその爪で刺されかねないので、まじめに話すことにした。
「一緒に話してて楽しい、ギャルの振りして実はちょっと人見知りな所が可愛い、ご飯を美味しそうに食べてるところが好き」
「な・・・」
「あと・・・毎日俺に軽口で付き合ってって言うとき、ちょっと手が震えてるのが可愛い」
「そ・・・そんな事ないから!」
「別に大好きどうしの両想いじゃなくても、これからそうなっていければいいとは思わんかね?ギャル子ちゃんや」
「なんで唐突にお爺ちゃん口調なの?ウケる」
ギャル子ちゃんは調子を少し取り戻したのか、いつも通りの笑みを浮かべて俺の左腕をガシっとか抱えるように持つ。
「じゃあ今日から私の彼ピだね!」
「今日から君は俺のかの・・・じょっじょ?」
「なにそれ?奇妙な冒険しそう」
「それな」
こうして俺は割とあっさり彼女を獲得。正直揶揄われているだけだと思っていたので、まさか本当にこういう感じになるとは思っていたかったわけだが・・・。
ギャル子ちゃんはお茶らけて平静を装ってはいたが、抱きしめられていた左腕から、彼女のあまりにも早い心臓の鼓動を感じて、少し自分自身ドキドキしつつ、そんな彼女を少しだけ愛おしいと思ったのであった。
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私には好きな人がいる。何か特別な事があったわけではない。ただ同じクラスで、私の友達グループと彼の居るグループが割と絡むことが多く、会話してて一番楽しかったのが彼だったというだけだ。
好きかも?と意識してしまうと、その人の事をどんどん好きになってしまう。
別にイケメンでも無いはずなのにかっこよく見えてきたり、彼が勉強を出来ることを自分の事のように誇らしかったり、ついつい友達とノリで試合を見に行ったりしてしまったり・・・。
とは言えガチで告白するのは私のキャラではない。軽い告白で相手が同じように軽いノリでカレカノになってさえくれれば・・・あとはなんとかなるっしょ。
しかし彼の隣には・・・いつもとある女がいた。私とは正反対の清楚系女子。しかもかなり可愛いし、とてもいい子だった。私みたいなギャルにも普通に接してくるし・・・何よりもかなりの天然っ子である。
純真で無垢でなんと言うか・・・こういう子はかなり男子ウケいいんだろうなぁ・・・男子の理想を体現したような子だった。
まぁダメもとだったし?空気を読まないのは得意だし?何より何回告白してもタダだし?それで気を引けるなら儲けものだよね。
毎日挨拶代わりに告白をするようになって半年、ついに私は彼とカレカノの仲になったのだ!
それから彼と私は順調に交際を続けた。割と好きから結構好き、そして大好きへと心が変わっていく。
彼も少し不器用ながら私を好いてくれてるのも感じる。エッチな事はもっと大人になってからにしようと諭された為してないが、ちゃんと恋人らしいこともしている。
大好きな彼ピとイチャラブで最高な毎日も長くは続かなかった・・・。
なぜならば・・・。
「うぅ・・・」
「やりすぎだって、ほどほどにしとかないと」
「だってぇ・・・」
「無理でもしないとおんなじ大学行けないじゃん!!」
「別に一緒じゃなくてもよくね?」
「やだやだやだやだ!うちの大好きな彼ピがNTRされるぅぅぅ!!」
「されないっての」
受験戦争の真っただ中だからである。
単純にテストの点で言えば2倍の差である。彼の目指す大学に行くには、まじで勉強し続けなければいけないのだ。
毎日盛に盛ったメイクもやめ、髪染めもしてない。彼と手を繋ぐためにつけ爪もやめ、彼と付き合い始めていた頃のイケイケの私はもういなかった。
地毛である暗めの茶髪に薄いメイク、カラコンもやめてメガネを付けている。まさにどこにでもいる地味子ちゃんになってしまっていた。
そっちの方が可愛くて好きかも、と言われたときはちょっとショックだったけど・・・。嬉しくもあった。
「やっぱり俺が行く大学変えようか?」
「それはだめ。うちが足を引っ張るわけにはいかないっしょ!大丈夫!昔からやればできる子って言われてたし!!」
「それ大体の親が言うやつね・・・まぁやる気ならもちろん付き合うけどな」
「流石私の彼ピ!」
こうして私は多分人生で一番頑張って、頑張って頑張って頑張って・・・何とか光が見えるくらいにはなったんだと思う。
だがそんな折、無情にも私が恐れていたことが起きてしまう。
「先輩と別れちゃった。また今日から一緒だね」
微笑みながらそんなことを言う彼の幼馴染が、突然目の前に現れたのだった。
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どうやら幼馴染が別れたらしい。先輩さんは推薦大学を蹴ってまで近くの大学に通ってたのに、そこにもっと気の合う女性がいたらしい。
要は幼馴染は先輩さんに振られたらしい。
まぁこいつ割と面倒臭いからなぁ・・・。外面はお淑やかだが、心を許した相手にはとことん甘える。基本的に相手の話は聞かないし、ずっと自分が喋ってる。興味を示したらテコでも動かないし、ガキの頃蟻に魅入って十時間くらい眺めてたくらいだ。
そんな幼馴染が先輩さんに見限られたのか、単純に幼馴染より好きな人が出来たのか・・・。
もしくは幼馴染が先輩さんに興味を失ったか、である。
ともかく、登下校の子守りが再開したのだった。親父にあそこまで頼まれては仕方ないし、こいつはほっとくとマジでどこか知らない所にフラフラと行ってしまうからだ。
とは言え本人も流石にもう大人だし、高校卒業までという約束である。
「ってかありえなくね?恋人がいるのに他の女と登下校共にするとか」
「流石に親には逆らえないからなぁ・・・大学費用だって出してもらうわけだし」
「そうだけど~」
「ごめんね~ギャル子ちゃん。別に一人で帰れるのに私の親が過保護で・・・」
「言っとくけどうちの彼ピは渡さないから」
「とらないから安心して。そういう感じじゃないし」
「だったらいいけど・・・」
ギャル子ちゃんと幼馴染とのファーストコンタクトはこんなものだった。
最初はギャル子ちゃんがかなり警戒してたが、一緒に登下校を続けているうちに割と打ち解けていた。
「まじで!?幼馴染ちゃんもおんなじ大学目指すんだ!」
「うん!あそこに受けたい講義があってね~」
「私は彼ピと一緒に居たいだけだけどね!」
「ラブラブなんだね~いいなぁ・・・私も恋人欲しい!」
「うちの彼ピはだめだからね!!」
「わかってるって~」
もう完全に俺は蚊帳の外である。最近の登下校はギャル子ちゃんと幼馴染がずっと喋ってる。
もう俺いらなくね?
勉強会も幼馴染が参戦し、ギャル子ちゃんは受験に向けて着実に実力をつけていた。
事件が起きたのは最後の模試試験前の勉強会だった。
「そう言えば私、幼稚園から今までずっと一緒だよねぇ・・・クラスもずっと一緒だし」
「・・・何が言いたいの?幼馴染ちゃん」
「いやーなんとなく思っただけだよ?別に深い意味はないから気にしないで?」
「ならいいんだけど?」
たったそれだけの会話だった。なのに2人はそれ以降会話をすることもなかった。
そしてギャル子ちゃんは・・・最後の模試をC判定で終えた。
彼女と俺は決めていた。もしB判定取れないならば・・・別の大学に進もうと。
そしてその日、ギャル子ちゃんは俺に一方的に別れを告げて、俺の前から姿を消したのだった。
「結局大学も同じところになりそうだね」
「そうだな」
「なんか作為的なものを感じるよね。運命が私たちをくっつけようとしてるみたい」
「そうだな」
「・・・私も異性としては見れないと思ってたけど、別にそれも大した問題じゃないのかな?」
「・・・どういう意味だ?」
「だってさ」
幼馴染は急に俺の前に立つと、ギュッと俺に抱き着いてきた。
「うーん・・・ドキドキはしないけど、安心感はあるかな」
「何してんだ。さっさと離れろ」
「どう?私で興奮できる?私が裸で迫ったらちゃんと出来る?たぶん答えはイエスだよね」
「何を言って・・・」
幼馴染は俺から離れ、見た事も無いような顔で笑った。何処か妖艶で、とても不気味な笑みだった。
「この世には別に好き合ってなくても、夫婦というステータスの為に結婚してる人もいるの。後継が欲しいからとかいろいろね。だから別にそういう風に見れなくても、人生のパートナーにはなれるとは思うの」
「お前の言ってることが分からん」
「なら単刀直入にいうね!・・・私と結婚しよ」
「無理だ。俺彼女いるし」
「別れたんじゃなかったっけ?」
「・・・」
「結局最初からこうなる運命だったんだよ。諦めて私と一緒になろ?」
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結局こうなる運命だったのだ。なんとなく分かってた。
私は幼馴染ちゃんには勝てない。勉強も、容姿も、運動も、将来性も何もかも。
彼女が彼を欲しいと願えば、きっとそれはすぐに手に入る。最初からそうなるように、神様とやらが定めていたのだろう。
悔しいけど・・・あの二人が並んで歩いているのが彼女の私から見てもしっくり来てしまった。まるでパズルのピースが綺麗に合わさるように・・・。
だから私は嫉妬した。懇願するように言った「私の彼氏を取らないで」と。
媚を売るように仲良くもなってみた。話してみるとやっぱりいい子で・・・勝てない事を悟った。
それでも私はそうなりたくなくて・・・死に物狂いで勉強した。地頭がよくないから何度も何度も同じ事をやらないと覚えられなくって、結局覚えきる前にその時が来てしまった。
C判定。まだ勉強すれば合格ラインに間に合うとは言うけど、私には無理だ。だからこそ最低B判定は必要だった。
私が彼の足を引っ張るようでは・・・この先きっとうまくいかない。だから私は彼から手を引くことにしたのだ。
結局私というトンビは、油揚げを攫ったはいいが、その重みに耐えきれなかったのだ。
いい夢を見たと思えばそれでいい。彼と付き合わなかったら大学なんて行こうとさえ思わなかっただろう。勉強嫌いだったし・・・。
大学に行きたいって言ったらパパもママもびっくりしてたなぁ・・・。彼の行く一流大学は無理でも、ちょっとランクを落とせば無理なく行ける。
大学に行って、青春のキャンパスライフを送って、皆と遊びまくって、いつかまた素敵な彼ピと付き合って・・・付き合って?
「私・・・大学に何しに行くんだろう?」
ただ大好きな彼と一緒に居たかった、理由なんてそれしかなかった。
それを失って・・・高いお金を払って大学なんて行く意味はあるのだろうか・・・元々勉強なんて嫌いなのに・・・。
「そんなの決まってんだろ?人生でやりたい事を、探したり目指したりするためだろ」
「私やりたいことなんて・・・って、なんでいるの?」
隣に目線をやると、私が大好きだった彼がそこに立っていた。
「なんでって・・・カレカノが一緒に居るのは当たり前じゃん」
そう言って朗らかに笑う。ああ・・・やっぱり好きだなぁ・・・。
「別れるって言ったじゃん」
「それを了承してないからまだ別れてないな」
「普通別れようって言われたら気持ち冷めるっしょ」
「そんなもんなのか。まぁ俺は別れる気はないし・・・実は志望大学変えようと思ってんだよ」
「え?」
「大学一緒に行きたいんだろ?ならいっしょに行けるところを探そうぜ」
「それはダメ!」
それは絶対嫌だ。私が彼の足を引っ張るのだけは・・・それじゃあ一生あの幼馴染ちゃんに勝てない・・・。
「俺は将来の夢とか、やりたい事とかなりたいものとか、何にもなかったんだよ・・・でもさ!最近はちょっと思う事はあるんだよ」
「・・・」
「俺がお店の経営と運営をしてさ、そしてその店をギャル子ちゃんが企画してさ、一緒に一つの仕事をずっとやっていくんだ」
「私には無理だよ・・・」
「別に店は何でもいいんだよ。セレクトショップだろうが、喫茶店だろうが、料理店だろうが靴屋さんだろうがなんでもな。ただ二人で一緒にいたい。一緒に何かをして、一緒に悩んで、一緒に喜んで・・・そんなふうに生きれたら、きっと素晴らしいなって」
「それってどういう・・・」
「つまりだ!・・・別に最初から大学なんてどこでもいいんだよ。頑張るっていうから勉強付き合ってたけど、どのみち一緒の大学に入るつもりだったんだ」
「でもそれじゃあ・・・私が足を引っ張っちゃうから・・・」
「足なんかどんどん引っ張ればいいだろ?歩幅が違うなら合わせればいい、お互いに楽な位置に落ち着けばいい。無理をしないのが俺達のスタイルだろ?」
「それで・・・いいの?幼馴染ちゃんにはきっと敵わないよ?」
「お前がいいんだよ・・・言わせんなよハズイから」
「・・・しゅき!」
彼に思わず抱き着く、うちの彼ピがうちの事を好きすぎて辛い。しゅきが溢れ過ぎてマジヤバヤバのヤバなんですけど!!
「俺もギャル子がしゅきしゅきだから」
「うちの方がしゅきだから!!」
この雰囲気はあれだよね!ちゅーのあれだよね!!そのまま最後までいっちゃうあれ!このままホテルコースっしょ!
と気分を上げていると、尖らせた唇にそっと指が置かれる。
「大学合格するまで、そう言うのはなしだろ?」
「えー!ちょっとくらいよくない?」
「駄目だ。今そう言う事に溺れたらダメなのはわかってるだろ?」
「だよねー・・・」
気分が上がったり落ちたり、でもまぁ実際彼ピの言う通りだ。ここで気を抜けるほど私に余裕はない。
そっと彼から離れる。
「大学合格したら旅行でも行くか」
「マジで!?」
「二人だけの卒業旅行だな」
「行く行く行く!!めっちゃ楽しみなんだけど!」
「合格したらな?」
「絶対合格するし!そんでイチャラブしっぽり旅行行くし!!」
「・・・やる気が出たならいいか」
愛しの彼ピの腕を取って歩き出す。
もう二度と彼を手放さないように、強く強く抱きしめながら。
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(運命とか奇跡とかないし、お前との関係はただの偶然の重なりだろ。お前相手に恋愛しようとも思わんし、欲情もしない。形だけの結婚とかあり得ないし・・・なによりつまらん)
「もし・・・幼稚園の時にあった小さな恋心に気付けたら、何か違ったのかなぁ」
私は幼馴染の彼に初恋をしていたのだろう。先輩と付き合ってて思ったのだ。人を好き、愛するという気持ちは初めてではないということに。
「でもまぁ・・・今は彼に男を感じないけどねぇ」
ふとつけていたテレビを見る。
『○×大学元教諭のAさんが、大学生の着替えを盗撮したとして逮捕され―――』
そこまで聞いたところでテレビの電源を切る。
「あの大学行く意味なくなっちゃったなぁ・・・」
少し考え、ノートに行きたい大学の候補を数十個書き連ねる。
それをハサミでカットし、適当な箱に入れる。
「まぁ流石に大学まで一緒って言うのもあれだしねぇ・・・」
シャカシャカと箱を振り、目を瞑って自ら作った大学くじを引く。
「ちょっとレベルは落ちちゃうけど・・・まぁここでいっか」
お読みいただき有難うございました。少しでもお楽しみいただけたのなら幸いです。
続きがある見たいな引きで終わってますが、筆者は家庭の事情で大学には行けなかった人間ですので、大学生活というものの描写が出来ないのでこれにてドロンするで候。