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第20話 もう少し仲良くしなさ~い。

 なぁ~んで、みんなついてくるかなあ。これがモテ期ってやつなのか。邪魔くせえなあ。普段ならとっ捕まえて賞金に変えてやるところだが。

 俺は背後を振り返って、三人の女盗賊に尋ねた。



「……ついてくんなよ……」

「利用できるもんは何でも利用する。それがうちのママの流儀だからよ」

「ママ? 一家で盗賊やってんのか?」

「そう呼んでるだけに決まってんだろ。ボスだよ、ボス」



 濃いブラウン髪の女が不機嫌そうにそう言った。



「おまえがボスじゃないのか」

「どうせ面が割れちまったから教えてやる。あたしが副団長だ」



 こりゃいい。ツラ覚えとこ。

 本業は暗殺者だが、副業は賞金稼ぎだからな。女盗賊団レッドバルーンの団長と副団長は、まだタイムスにも顔が載っていない。たぶんこいつひとり捕まえりゃ、一千万はくだらねえだろう。

 美人だからちょいともったいないが。



「それを話すってことは、隙あらば後ろからブスっとってとこか?」

「そうだね。ぶっちゃけあんたの死体を騎士団に突き出せば、今夜の獲物なんかよりよっぽど高い賞金が手に入るからねえ」



 ひょっ!? 怖いこと言ってる!



「まあ、悔しいけど“王都の影”に不意打ちが通用するとは思ってないけどさ」



 俺は副団長ちゃんに顔を近づけ、声を低くして耳元で囁く。

 あくまでもクールに、渋くだ。



「……いいか、これは忠告だ。絶対にやめておけ。じゃなきゃおまえら全員、今日ここで首と胴体が泣き別れすることになる」

「だろうね。さっきから殺る機会をうかがってたけど、あんた、さっきからわざと隙を見せてあたしたちを試しているね」



 おいっ!? 聞いてないよ!

 やっべ。完全に油断してたわ。



「ほう。それがわかるとはな」

「ふん、あたりまえだろ」



 どうやら俺は自分の後ろをちょこちょことついてくるやつに弱いらしい。幼少期にスラムで飼ってた犬といい、中年期に暗殺未遂現場で拾ったリサといい、なんか気を許してしまう。

 いま不意打ちを実行されていたら、終わってたかもしれん。

 変な汗出るわ。んもう、これだから悪人はあ。

 内心を押し殺して、俺は指先で副団長ちゃんの首筋をなぞった。



「誘いに乗ってこなかったのはいい勘だ。案外長生きできるかもな」



 副団長ちゃんが怖じたように一歩退き、俺をにらみつける。



「ハッ、暗殺者の誘いになんか誰が乗るもんか。でもその上から目線は気に入らないね。いつか誰かに吠え面かかされることを祈ってるよ」



 やめてよね。変なこと祈るの。こちとら内心冷や汗だらだらなんだぜ。



「おまえ、名は?」

「言うわけないだろ。ふうせんではフレクルだ」

「そばかす?」

「そうだよ! 悪い?」



 副団長ちゃんが自らの頬を指さした。

 なるほど、頬にはそばかすがある。日焼けした肌のため、あまり目立たなかった。



「かわいいんじゃないか?」

「はいはいそりゃどうも!」



 ツンツンしてらあ。



「ところでフレクル、おまえらは城内への侵入口も用意してるのか?」

「あるわけないだろ。バカか。どうやって作んだよ」

「そうか。ならもう用はない」



 俺は王城庭園の見回り騎士の灯りを避け、城壁から王城の壁へと闇を伝うように静かに移動した。微かな足音が三人分ついてくる。

 勘弁してくれよ。



「おい、“影”」

「なんだよ。ついてくるなって言ったろ」

「おまえまさか正面から入るつもりか?」

「他に入り口はないだろ」



 視線を上げる。

 やや手狭で短い階段の上には城内への入り口があるが、木製の扉で閉ざされている。だが、その上には門衛用の覗き窓(ペヒナーゼ)がある。



「ふん……」



 当然、まともな人間じゃあ届く高さにはない……が。

 俺は周囲を確かめると、地面を蹴って跳躍した。空中で抜いたナイフを、石を積んで造られた壁面の隙間に差し込み、一度地面に着地する。



「おい“影”、あんた何やってんだ?」

「じゃあな、フレクル。あんまあくどい盗みはやめとけよ。恨みを買いすぎると、“影”に依頼が回ってきちまうからな。他の嬢ちゃんたちもせいぜい気をつけな」

「……」



 俺はフレクルにそう告げると、もう一度跳躍した。今度は壁を蹴って、先ほど差し込んだナイフに足を乗せ、刃のしなりを利用してさらに跳躍する。

 覗き窓の枠に両手をかけた俺は、腕の力だけで一気に窓枠へとよじ登った。この時点で見つかった場合には、両手を放して戻るつもりだった、が。



「こりゃあいい」



 中の衛兵は――居眠りしてら。

 ひとりは椅子に腰を下ろし、両腕を組んでマヌケ面を天井に向けて。もうひとりは木の安っぽい机に突っ伏している。

 机の上には瓶が一本と、木製のジョッキがふたつ。

 俺は鼻を近づけて嗅ぐ。



「……酒か」



 そう簡単には目を覚ましそうにないが、念には念を入れて。

 腰に吊した瓶から、ほんのわずかだけ中身を酒瓶に移し、そいつをカップに注ぐ。そして天井を向いて眠っている衛兵の口へと半分だけ流し込んだ。

 すぐに目は開かれたが、もう遅い。俺は衛兵の口を塞ぎ、もう一方の腕で動きを縛る。しばらく暴れていたが、混入した麻痺毒が効いたようで、すぐにおとなしくなった。

 同じようにして、もうひとりの衛兵も麻痺させる。

 彼らは夜番だ。朝方まで他の衛兵との交代はない。遠慮なく眠らせられる。



「さて、と……」



 こっからが本番だ。殺しも厭わない。

 覗き窓のある部屋から出ようとすると、外でドタバタという音が聞こえた。扉の向こうからではなく、窓の向こう側からだ。

 つまりは。

 俺は覗き窓から顔を出した。

 フレクルたちが、どうにか俺と同じ方法でこの窓から侵入しようと試みていた。壁を蹴ってナイフに足をかけようとするが、跳躍力が足りずに壁を滑って地面に着地するを繰り返している。

 俺は慌てて両手を振った。



「おい、やめろやめろっ。物音を立てるなっ。見つかっちゃうだろっ!?」

「うるさいっ、こっちにだって事情があるんだっ。ここまで来て退けるかっ」



 音を立てるな。ほんとに勘弁してくれ。

 俺は仕方なく小声で返した。



「わかった、わかったから。頼むからそこで静かに待ってろっ。暴れるなっ。いいな?」



 んもう……!

 ここで見つかったら台無しだろうが~……!


 仕方なく、俺は覗き窓の部屋から静かに出て、その下にある木造の扉の閂を内側から外してやった。

 扉を開けてやると、彼女らが滑り込むように入ってきた。フレクルが俺をキッと睨み上げる。

 俺は苦々しい思いでつぶやいた。



「……お礼は?」

「あたしらはあんたに城壁を越えさせた。あんたはあたしらを城内に導いた。これで貸し借りなしだろ」

「殺しにかかってきたのを許してやった上に、ナイフまで返してやったろ」



 フレクルが小馬鹿にするような半笑いで顔をしかめる。



「細かいねえ。あんた、モテないだろ。ヤニくせえし、オッサンだし。あ~あ、“影”ってもっといい男かと思ってた」



 イラぁ……。



「あいにく女には困ってない。おまえより若い娘や、おまえよりグラマラスな女から言い寄られてるからなあ」



 どっちも問題ありだけど。片方は聖女で片方は暗殺者だし。

 フレクルの顔が引き攣った。



「は? あたしと比べる必要あった!? ケンカ売ってんの!?」

「なんだぁ? 怒るなよ、平たい胸板族のコンプレックスかあ?」



 ここぞとばかりに半笑い返しで煽ってやると、フレクルの顔面が大発火する。



「はあッ!?」

「あんまり怒るとシワが増えるぜ、お嬢さん」



 俺はニヒルな笑みで告げてやった。

 口げんかでは圧勝だ――と思ったが。



「胸のことはともかく、年齢に関しちゃシワッシワのオッサンには言われたかないねッ! その顔、あんたが足の間にぶら下げてる袋にそっくりだねェ! あっははははは!」



 今度は俺の顔面が発火した。



「ふ、ふ、ふざけんなっ! そもそも俺ぁまだそんなに萎れてねえッ! 頬の張り艶とかよく見ろ! ぷりっぷりだわ!」

「うわ、キッモ。引くわ~」



 ガツンと額同士をぶつけて睨み合う。



「ああっ!?」

「なによッ!?」



 一触即発状態の俺とフレクルを、ふたりの女盗賊らが慌てて引き剥がした。



「ちょっと、姐さん!」

「“影”のオッサンも! いい加減にやめて! さっきから声でかすぎるからぁ……!」



 だがそのときにはもう、すでに手遅れになっていた。

 長い廊下の向こう側から、ガシャンガシャンとけたたましい音が響いてきている。



「あ……」


楽しんでいただけましたなら、ブクマや評価、ご意見、ご感想などをいただけると幸いです。

今後、作品を作っていく上での糧や参考にしたいと思っております。

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― 新着の感想 ―
[一言] をい。ばんよ、こえがおおきいのじゃ
[良い点] 更新お疲れ様ですヽ(´▽`)/ 折角侵入したのに痴話喧嘩で全て水の泡に……。 尤も全てをぶち壊していくそのスタイルはキライじゃないですが……(笑) [一言] おっさんは女子供に弱いんだから…
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