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1-9.孤独な日々

1-9.



 やってきたブラン伯爵により、エリハルト・グリードはそのまま王宮へと連れていかれた。

 そこで徹底的に調べ上げられていたらしい。


 そうして、喪主となる筈だったグリード伯爵家嫡男エリハルト不在のまま、ロイハルト・グリード伯爵の葬儀はひっそりと執り行われた。


 しとしとしとしと。

 生ぬるい雨の降る中で執り行われたそれは、妻であるカリン・グリードを喪主として、嫁のデイジー・グリードと孫ライハルトのみが参列するだけの、古い家柄のグリード伯爵家の当主だった男を葬送するものとは思えないような、とても静かで小さなものだった。


 グリード伯爵家の危機をその堅実な采配で乗り越えようとしていた矢先に、当主であるロイハルトを襲った悲劇。

 堅実な領地経営の下、領民に慕われ尊敬された領主を見送るにしては、あまりに寂しいものだった。




 葬儀を終えても、エリハルトはなかなか王宮から帰ってこなかった。


 その間、ライハルトはなぜか祖父が生きていた頃とあまり変わり映えのない生活を送っていた。

 勿論、訓練所に足を運ぶことはなかった。その代わり、毎日ひとりで木剣を振った。

 頭の中で組打ちの相手を思い浮かべ、ただひたすらに、頭の中で思い描いた相手と剣を組みかわす。


 頭の中で何人もの仲間を思い浮かべて木剣で叩きのめすイメージを繰り返した。

 けれどもただ一人、ライハルトが一番剣を組みかわした相手だけは、そこに含まれることはなかった。


 勉学についても、ライハルトは今まで以上に努力した。

 グリード伯爵家の図書室にある本を片っ端から読み込んでいく。

 最初は目についたタイトルの本を。その次は興味が惹かれたものに関連する本を。少しずつ範囲を広げて読み込んでいく。

 少しでも疑問が出た部分について理解できるような内容の本を探していく内に、気が付けばグリード伯爵家の小さな図書室にあった本でライハルトが手に取ったことのないものなど無くなっていた。

 場合によっては既に読み終わった本を何度でも手に取って、他の本で得た知識と擦り合わせていく。


 ライハルトの頭の中で、「読み終わったらそれきり」だった本の内容というものが、点と点を結ぶと線になるように、繋がりが構築されていく。

 それは一気にライハルトの知識を深めていった。


 ライハルトは何かに憑りつかれたように、図書室の本を読み漁る。


 最初の頃は、晴れた昼間に外で剣を振って、雨の日や外が暗くなってからランプの灯りのしたで本を読んでいたが、それだとランプ油の消費が著しいことに気が付いてからは、明るい時間に本を読み、本の文字が目で追えなくなったら剣を持って外に出ていくことにした。


 これまでは、伯爵家の跡取りとして大事に育てられてきたライハルトが勝手な行動を許されることはなかったが、今はライハルトが目に見えるような問題を起こさない限り誰も何も言ってこなかった。

 いや、問題を起こしていたとしても、何も言われなかったかもしれない。


 領地運営と金策に走り回る祖母と母、爵位を継ぐ筈のエリハルトが帰されない事により爵位返上の噂が立ち浮足だつ使用人たちには、ライハルトに構う余裕などない。


 意味があるのかないのか、あくせくと屋敷の外と中を出たり入ったり右往左往しているだけのようににライハルトには見えたが、ライハルトが視界に入ると皆が取って付けたような笑顔で「勉強はどう? 捗っているかしら」と話し掛けてくるので、「はい、おばあさま」「はい、おかあさま」「大丈夫」とこちらも判で押したように相手に合わせて同じ返事を繰り返した。


 つまり、誰もライハルトのことなど、見ていなかった。


 そんな余裕を持つ者は、此処には誰もいなかった。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 声を掛けられるだけ、まだまし…… いや、中身が無いから眼中に無いのと同じなんだよなぁ。 それでも真面目に取り組んでいるライハルトくんはさすが貴族の子と言えるのかも。
[一言] 読み切りでは飄々としてみえたライハルトの裏にはこんな苦労が…(ノД`)
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