【閑話】私の幼馴染み・3
【閑話】私の幼馴染み・3
ライハルト様のお祖母様が亡くなられて以来、ライハルト様に会えない日が続いていた。
でもグリード伯爵家に遊びに行けるようになった。
グリード家へ遊びに行けるのに会えていないのは、ライハルト様がグリード家にいらっしゃらないからだ。
先代グリード伯爵が亡くなられてライハルト様のおとうさまが後を継がれたんだけど、ライハルト様は立派な伯爵になる為の修行? に出てしまったそうだ。
子爵家とはやっぱり違うんだなぁと感心する。上位貴族でいる為には、やはり努力も必要なのね。
「ライがいなくて寂しいの。ソニアちゃんが遊びに来てくれる時だけが、私の今の幸せだわ」
ライハルト様がいなくなって、私はデイジー様から直接お誘いを受けるようになった。
伯爵家の印章が押された招待状が私の名前宛で送られてくるのは気持ちがいい。
お母様宛でも、お姉様宛でもない。
伯爵家に呼ばれていくのは、私だけ。他に招待客がいることもなかった。
お父様とお母様はいい顔をしなかったけれど、格上の伯爵家から私の名前で招待状が届いてしまったらお断りするのは難しいみたい。渋々とだったけれど私がグリード家に遊びに行くのを止めなくなった。
ライハルト様がいないせいもあるんだろう。
本人がいなければ、私が「お嫁さんになる」なんて言い出さないと思っているのかもしれない。
「ライハルト様が早くお帰りになられるといいですね」
「うふふ。”ライハルト様”だなんて他人行儀よ。ライって呼べばいいわ。ふたりは幼馴染みなんだもの」
ライハルト様のおかあさま、デイジー様が私にライハルト様の愛称を許して下さったのは3回目に呼ばれた日だった。
偶に、私からお手紙を書いて遊びに行かせても貰った。
デイジー様の恋のお話を聞かせて貰った時は一緒にドキドキしたし、私もいつかライとそうなるんだと思うと足が勝手にバタバタしてしまった。
「エリハルト様とはラキサ学園で知り合ったの。とても繊細で不器用な方だったわ。けれど、そこが魅力的でね。どうしても離れたくなかったの」
「本当は持参金を沢山持ってこられたら良かったんだけど、でも私はしがない男爵家の娘だったからそれもできなくて。でも、それでもいいってエリハルト様は言って下さったの」
「結婚て素敵なものよ。だって、大好きな人と朝から晩まで一緒にいられるんですもの」
「愛する人の特別になれるの。幸せよ」
グリード伯爵家で出されるお茶は、ハーブティーといって不思議な香りがするものばかりで美味しいと思ったことはなかったし、お茶菓子すら出ないこともあったけれど、そんなことどうでもよかった。
私はもうお菓子に釣られる子供ではなかったし、デイジー様が語る幸せな恋と結婚のお話は何度聞かせて貰っても、その度に胸がときめく。
「あぁ、ソニアちゃんが私の娘になってくれればいいのに」
子爵家の二女で、みそっかす扱いされている自分が、望まれて伯爵家の娘になる。
しかも、そんなソニアの横にはあのライハルトがいて、「愛してる。君は僕の特別な人だ」そう愛を囁いてくれるのだ。
幼い日に一度しか顔を合せていないけれど、それでもあれは確かにソニアにとって初恋だった。
そうしてその初恋を応援してくれるのは、初恋の人の両親なのだ。
「えぇ、私も、ライのお嫁さんになれたら嬉しい」
だから。ソニアはその日が来ることを、ずっと信じていた。