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【閑話】私の幼馴染み・2


【閑話】私の幼馴染み・2



 初めてライに会った日の事は、今でもはっきり思い出せる。


 その日、新しいドレスが届いたばかりの私は、おかあさまがお呼ばれしたというお隣の領地の伯爵家に行ってみたいと駄々を捏ねた。

 家庭教師から、この国の貴族位の順位を教えて貰ったばかりだったこともあって、子爵家の我が家より爵位が上だという伯爵家に興味津々だったのだ。

 勿論、新しいドレスを着たところを誰かに自慢したかったのもあった。


 ピンク色のリボンが沢山ついた、ふんわりスカートが可愛いドレス。


 お母様の呼ばれたお茶会に着て行ったらきっと皆に褒めて貰えるハズなの。

 だからお父様が苦い顔して「グリード家は駄目だ」っていうのを、泣いて粘って許可をもぎ取ったの。



 そうして向かったグリード伯爵家は正直あんまり豪華な感じはしなかった。

 ハーバル家の方がずっとキラキラしてるもん。

 お茶会のお菓子もお家の方がもっと色んな種類が出てくる。焼き菓子だけじゃなくてクリームが乗っているケーキだってあるし、サンドイッチもこんなバターまみれの胡瓜が挟んであるんじゃなくて、カスタードクリームと季節の果物が入ってるのだっていつも用意されている。

「貴族というものは位が上がると、しきたりが増える」って家庭教師の先生が言ってたけど、お茶会に出すお菓子とかサンドイッチの種類も決められてるのかしら。

 そうだとしたら、偉くてもイヤだわ。


 でも、お菓子は期待外れだったけれど、この場に来たのは間違いなかった。

 ここでの私はお姫様だったの。


「愛らしい娘さんですね」

「可愛らしいわ。ドレスもとてもお似合いね」

「リボンの妖精さんね! とても可愛いわ」


 皆が褒めてくれたの! すっごく楽しかったわ!



 途中までは。



「あら、ようやく来たのね? うふふ。息子のライハルトよ。ちょっと恥ずかしがり屋さんなのだけれど、皆さまどうぞ宜しくね」

「……ようこそお出で下さいました。ライハルト・グリードです」


「「「「「きゃー?」」」」」

「まぁ、先代グリード伯爵そっくりですのね!」

「生き写しねぇ。うふふ、ちいさな未来のグリード伯爵様。はじめまして」

「成長されたら先代なんか目ではないくらい女性を泣かせそうね」

「まぁ! うふふ。でも本当にそっくりですわねぇ」


 ライハルト・グリード。グリード伯爵家の一人息子だという彼が会場へ来た途端、皆の視線が彼だけに向かったの。

 先代? グリード伯爵にそっくりだって会場は大騒ぎ。誰それ知らないし。


 そっくりだって話だけじゃなく、それ以降は褒めるのも彼ばっかりになっちゃったって、すっごく悔しかった。


 ドレス姿の小母様達に囲まれて、肝心のライハルト様は見えないし。


 きっと伯爵様の子供だから褒められてるだけなんだと思ったから、私が現実を突きつけて上げなくちゃって、ドレスを掻き分けて前に出たの。


 そうしたら!


 本当に、すっごくすっごく綺麗な顔をした少年がそこにて、とっても吃驚したの。


 だって、男の子よ? 女の子みたい……ううん、女の子よりずっと綺麗な顔をしてるなんて。おかしくない? ずるいわ。

 私のお兄さまはうるさい猿みたいなのに。男の子ってそういうものなんじゃないの? 私のお兄さまがおかしいの? でも、お父様の仕事仲間の小父様が連れてくる息子さん達も猿かスノーマンみたいにフクフクまるまるした男の子の二択だったのに。だから男の子っていうのは痩せてると猿、太ってるとスノーマンのどっちかだと思ってた。


 なのに。今、私の目の前で、沢山のおばさま方に褒めそやされているのは、猿でもスノーマンでもなくて。


 ちいちゃい顔は整っていて、髪の毛は金色で。その髪におひさまが当たってキラキラしてる。


 これはもう、王子様なのでは?


 そして私はお姫様なんだもの。(お父様もお母様も私をそう呼んでるから間違いないわ)

 ふたりはお似合いっていう奴なのではないかしら。

 お姉様が読んでくださったお話ではいつもラストは、めでたしめでたしで二人は結ばれて一生幸せに暮らすのよ。


 私はぽーっとしたまま連れて帰られた。

 そうしてお父様に宣言したの。


「私は、ライハルト様と結婚する!」

「却下」


 ひと言で終わりにされた。

 お父様がお忙しいのは分かってるけど、ちゃんと話も聞かないで娘の恋を無下にするのは酷いと思うの。


 だから私は、ライハルト様にお手紙を書いたわ。


「私をお嫁さんにして下さい!」って。




 お返事は、ライハルト様のおかあさまが下さった。

 可愛らしい花束と共に「嬉しいわ。ありがとう」って書いたカードを贈られてきたわ。多分、ライハルト様はテレてしまって返事が書けなかったのではないかしら。きっとそうよ。


 でもそれ以来、お茶会の招待もお手紙もしばらく何も来なくなっちゃって寂しかった。

 こんな可愛い私が結婚してあげるって言ってるのになんでって不満だったんだけど。

 ある日、お母様が慌てて喪服を着て、出掛ける準備していた。

「お父様とは、グリード家で落ち合うことになっているの。今日中に帰ってくるつもりでいるけれど遅くなると思うから、あなた達は寝ているのですよ?」

 玄関ホールで、お兄様とお姉様も一緒に並んでお見送りをしていたら、お母様がグリード家の名前を出したから「グリード家なら私も行きたい!」って言ったのに。


「駄目ですよ。今日は遊びに行くのではないのだから。グリード家のご当主が亡くなられたの。お葬式ですからね」

 そう言ってさっさと出掛けてしまったの。ひどい。


「グリード家の当主ということは、グリード伯爵が亡くなられたのね。大変ね」

 お姉様がしたり顔でそう言ったけれど、私はよく分からなくて説明を求めたのに。


「ふふん。ソニアにはまだ難しいかもね。でもグリード伯爵が変わるのね。跡継ぎってボンクラって噂だけど……いやあね。お隣がボンクラって最低だわ」

「最低じゃないもの! ライハルト様は最高にステキだったわ!」


「ソニアは本当に馬鹿ね。男はね、見た目だけじゃダメなのよ」

 ふふん、と笑ってお姉様がお部屋へと戻っていく。

 その後姿を見ながら、私はとっても悔しかった。

 お姉様は、ライハルト様に会ってないからそんなことをいうんだわ。とても素敵な方なのに。


 ……あっ。でも、お姉様がライハルト様に会って「結婚したい」って言い出したら面倒くさいから、やっぱり2人が会うのはナシで!


 全力で阻止することにした。





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