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借金まみれの伯爵令息は、金貨袋を掲げたお姫様を夢見る  作者: 喜楽直人
第七章 夢の始まりは悪夢の終わり
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7-7.その頃の金持ち公爵令嬢とその侍女


7-7. 



「アレッサンドラ様、待望のモノが届きましたよ」


 侍女アリーによって部屋へと運ばれてきたのは花束だった。添えられているカードにはライハルトの署名がある。


 にやにやと顔を覗こうとする侍女の視線を交わして後ろを向きながら、震えそうになる指で封を切る。


 白い無地のカードには『ようやく学園にいけそうです。お会いできることを楽しみにしています。――ライハルト』と、丁寧な文字が綴られていた。


「よかった。ようやくライハルト様が学園へお戻りになられるそうよ」

 カードを胸にしたアレッサンドラが安堵の微笑みを浮かべる。

 その様子に、アリーも笑顔になった。

「色々と大変だった御様子ですけれど、落ち着かれたのでしたらなによりです」


 アリーには詳しい事情は何も分からないままだったが、それでもラート公爵が難しい顔をして急いで手配を行っていること位は分かる。


 そして何度かブラン伯爵が夜遅くにやってきていたことも気が付いていた。


 ブラン伯爵の開いていた訓練所に愛娘と愛息子ふたり揃って通わせてはいたが、単に国内で最も快闊で高潔であると高名な元騎士団長が主宰しているということで選んだだけであったようだ。

 そしてラート公爵家とブラン伯爵として交流が深かったかといえば特にそのようなものはこれまでなかった。ライハルト・グリードとの見合いの件があって交流が始まったといえるほど、王宮内でのものはともかく、ラート公爵邸に招くようなことはこれまで一度もなかったのだ。

 それが婚約が調い、お披露目が済んだというのに難しい顔をして忙しなげに情報を交換しているのだ。


 アレッサンドラ自身は、ルチアーノから呼び出されてある程度の内容を教えて貰ったようで、しばらく暗い顔をしていた。


 それらと併せて考えれば、アリーの中でライハルト・グリードの身に何かあったに違いないと推測するのは難しくなかった。


 アレッサンドラが何を教えられたのかはアリーには分からない。


 ただ、学園への送り迎えをする馬車を降りる前や乗り込んできてすぐ、小さなため息を吐くようになられたのが気に掛かっていた。


 それでも今こうして婚約者ライハルトからのカードを受け取り笑顔を見せてくれるなら、この婚約は間違いではないのだ。

 大体、間違っているならばラート公爵は今すぐにでもこの婚約を破談にして、ライハルトが生きていることを後悔させる位の事はするだろう。

 弟君にかまけてアリーの主を蔑ろにしていると恨んだ時期もあったが、それももう遠い過去だ。

 今のアリーは、アレッサンドラの父親として、ルチアーノは正しくアレッサンドラの幸せを第一に考えてくれると信頼していた。

 


「そうね。いろいろとお辛い状況に置かれていたらしいから。……しばらくは学園に戻られてもお忙しいかもしれないけれど、落ち着いた頃を見計らってお茶にお誘いしてみようかしら」


 あの、お披露目前の二週間の間に開かれた婚約者同士の交流を目的とするお茶会は、フリードリヒの独壇場と化してしまった。

 ――今度こそ、婚約者としてきちんと温かな交流を持てたらいい。

 そんなアレッサンドラの気持ちはお見通しだとばかりにアリーがくすくすと笑いながら提案した。


別邸ヴィラに詰めている使用人に連絡して、ライハルト様のお好きな食べ物について情報を集めておきますね」

 アリーの指摘に、今更ながら自分がライハルトについて何も知らないのだと少し落ち込んだアレッサンドラだったが、すぐに気を取り直して「お願いするわ」と頷いたのだった。


「それにしても随分長く学園をお休みされることになってしまわれたのですねぇ。でも優秀な方だとお伺いしてますし、この位で勉学についていけなくなるような事もないですよね」


 アリーが集めた情報では、ライハルトの成績は学園で斡旋を受けた仕事をしている生徒たちの中では群を抜いて良かった。

 学園でも十指に入る。そのほとんどが幼い頃から家庭教師がついて先んじて学んでいた者ばかりであることを考えると、かなり健闘していると言えるだろう。

 

「そうね。ライハルト様ならそちらの心配は要らないと私も思うわ。けれど、お早い復帰を祈りましょう」






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― 新着の感想 ―
[良い点] すぐニヤニヤしちゃうアレッサンドラちゃんw はよ幸せになってw
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