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借金まみれの伯爵令息は、金貨袋を掲げたお姫様を夢見る  作者: 喜楽直人
第七章 夢の始まりは悪夢の終わり
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7-4.軽率で浅慮な婚前前契約書違反


7-4.

 


 5年前に一度は流れた話ではあったが、お披露目会の後、結局ライハルトの後見人はブラン伯爵に変更がなされた。



 父親であるエリハルトが、ラート家との婚約が公表された翌日に、それを口実に借金をしようとしたのだ。


 勿論それは婚姻前誓約書で交わした内容と反する行為で、あっという間にラート家から報復を受けた状態だ。


『エリハルト・グリード及びデイジー・グリードが、息子ライハルトの婚約を口実に借金の申し込み等を行い、その契約を取り交わした商会もしくは個人とは、ラート公爵家とその一門は以後一切の取引を行わない事とする』

 ふたりの婚約を公表すると共に告知されたこの言葉を、その金貸しは知らなかったが、知らなかったからこそラート公爵家の長女が借金だらけのグリード家の長男と本当に婚約を結んだりしたのか確認を取ろうとして、急ぎラート家へ確認が入ったのだという。

 なんともお粗末な有様だった。


 エリハルトからは「内密に」と頼まれはしたが、それを受け入れるほどの仁義もグリード伯爵家に対して持っていなかったその金貸し屋は、即ラート公爵家へ遣いを出したのだ。

「詳しいお話を」と連れ込まれた応接室でエリハルトの前に出されたお茶が、冷める時間もなかったそうだ。



 お披露目会の当夜はラート公爵家所有の別邸に泊り、昼食を兼ねる形で遅めの朝食を取ったライハルトは、良くしてくれた使用人たちへ丁寧に礼を告げて回り終えて、馬車へと乗り込もうとしているところで、その知らせが書かれた手紙を受け取った。


 眩暈がするような報告に、ライハルトは足元から崩れ落ちる感覚を覚えたがなんとか気力で持ちこたえると、「至急、ラート公爵様へお取次ぎを願えますか?」と気丈にも答えた。


 こうしてライハルトは学園をもう少しだけ休むことになる。



 ラート公爵家ではなくブラン伯爵家へ連れていかれたライハルトは、そこでその日の夜まで待たされることとなった。

 ようやくブラン伯爵がラート公爵を伴ってやってきた時、二人から笑いかけられたが、ライハルトは笑顔どころか挨拶もままならず頭を下げるのが精一杯の有様だった。


 メイドから茶を配られ、三人だけになると徐にルチアーノが口を開いた。


「もっと後ろ暗い相手に話を持ち込まれなくて良かった」

 落ち込むライハルトの耳へ届いたその言葉は、励ましなのかすらライハルトには判断がつかなかった。

 それでも声が出せないほど憔悴していたライハルトに質問を口にする気力を取り戻す切っ掛けにはなったようだ。事件を知ってから最も気になっていたことを口にした。


「あの、アレッサンドラ様との婚約は……こんやく、は、」

「キミが犯した罪ではない……が、ただ無罪放免とはいかない。判るね?」

 ライハルトの疑問を遮るように、ルチアーノが強い口調で言葉を発した。

 ルチアーノが目に宿した光は強い。

 その光に射貫かれるように、ライハルトは目と手をギュッと閉じると絞り出す様に返事をした。

「ハイ。勿論です」


 再び目を開いた時には覚悟の決まった顔になっていた。


 それを見たルチアーノの表情が少し緩む。

「まずは、エリハルト・グリードのグリード伯爵代行としての資格を剥奪。父としてではなく後見人扱いとして傍にいることを許されていたが、今回その権利も剥奪された。伯爵位を継ぐ予定である息子の未来を食い潰す行為を仕出かすような者を後見人の地位につけておくことは出来ないという、王宮の判断によるものだ」

 ライハルトが、ぎゅっと再び目を瞑る。

 けれども決して、ルチアーノの言葉を遮ろうとしない。


「ライハルト・グリードが学園を卒業してグリード伯爵位を継ぐまでの期間は、その後見人をブラン伯爵が引き受けて下さることになった。以上が、今回の件について王宮にて判断が下されたものだ。もし納得できないのであれば十日以内に上申書を提出すること。それを以て沙汰を待つこととなる」

「……父と母への処罰は、私の後見人から外される事、それだけでいいのですか?」

 俯きながら小さな声で訊ねた声に、ルチアーノはフンと吐き捨てるように強く息を吐く。


 それだけで、ライハルトの肩が小さく跳ねた。





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