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借金まみれの伯爵令息は、金貨袋を掲げたお姫様を夢見る  作者: 喜楽直人
第六章 そのざまぁは祝福される
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6-8.美しい婚約者


6-8.



 すぐ目の前に立たれてみれば、ケインよりも、ライハルトの視線の方がずっと高い位置にあった。

 透き通った色味の薄い青い瞳に冷たく見下ろされていることに気が付いたケインが怯む。

「くっ」

 気後れしてしまったケインの足が後ろに下がると、ライハルトはアレッサンドラの手を自分の腕に巻き込み直すようにしてより一層その身を引き寄せた。


 そうしておいて、ちょっと目を見張って見下ろすと、目を細めて褒めそやした。


「それにしても、今日のアレッサンドラは一段とお美しいです。そのドレス、いつもよりずっとお似合いです」

「でも、お願いしたデザイナーの方はいつもと同じなのよ」

 照れた様子のアレッサンドラが、上擦った様子で否定した。


 すぐ目の前、体温まで感じられるほど近くから見下ろされ、惚れ惚れとした様子でライハルトから突然褒め讃えられたアレッサンドラは、嬉しすぎたのか普段なら絶対に言わないような可愛くない物言いで言い返してしまった。


 普段なら「ありがとう」でさりげなく流して終わるアレッサンドラが見せた、常にないその表情に周囲の視線が集まる。

 そして、ふたりの距離の近さと礼儀正しい親しさに、その視線が微笑ましいものへと変わっていく。

 ある程度、年齢を重ねればわかるものがある。それは目の前で寄り添って立つ真新しい婚約者同士は、相手を大切に思っているという事実。お互いを見つめる視線に、きちんとした熱がある。

 これを演技で行える者もいるだろうが、今のふたりを観察しているのは、いずれも劣らぬ社交界で人の意を汲む事に長けた者たちだ。演技であればすぐに分かる。


「デザイナーの方が言ってました。ヒールの高い靴を履ければ、その分スカート丈が長くできて優雅にドレープが出せるのだと。ですから、お願いしたんです。私のプライドがギリギリ保てる高さのヒールを、アレッサンドラが履いた状態でデザインして欲しいと」

「まぁ。そうだったんですね。それで今夜のダンスシューズはいつもよりヒールが細いのですね」


 ヒールが細い。つまりはそれだけ高さのあるものだということだ。


 そこまで会話を盗み聞きして、周囲はようやくこの会話が、さきほどケインがアレッサンドラを侮辱した意趣返しだと気が付いた。


『男勝りに優れた体躯に引け目を感じずに、傍に寄れる相手が見つかってなによりだ』


 新しい婚約者は、元婚約者であるケインの横に立つよりずっと高いヒールをアレッサンドラが履いていても問題ないし、それを履いた姿はとても魅力的だと伝えたいのだ。


 ケインと婚約をしていた間、アレッサンドラが履いていた靴は常にヒールの低いものばかりであった。

「有事の際に安定している方がいいから」と周囲には説明していたが、本当は、初めてアレッサンドラが高いヒールの靴を履いたデビュタントの日、目線が少しだけではあったがアレッサンドラの方が高くなった事に、ケインが大いに不機嫌になったのだ。入場と国王陛下への挨拶が終わると、婚約者の癖にアレッサンドラの手を振り払って「近寄るな」と言い放ち、友人たちの処へ行ってしまったのだ。

 あれ以来、アレッサンドラはケインの前でヒールの高い靴は履いていなかった。


 ドレスの裾を凝視しなくとも、ヒールのある靴と無い靴では女性の動きはまったく違うものとなる。

 今のアレッサンドラの動きの方がずっと優雅で女性らしいのはそのせいかと周囲は感心した。

 なにより、意趣返しが込められていたようだが、ドレス姿を褒めたライハルトの言葉に嘘はないのが良い。誰の目から見ても、そこに不自然さはまったく感じられなかったし、今もライハルトがアレッサンドラを見つめる瞳には熱が灯っている。







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― 新着の感想 ―
ざまぁの仕方が洗練されていて尚且つクリティカルヒットなのが素晴らしい! 元婚約者の言動の下劣さがより際立ちますね!
[良い点] すごぉい! おもしろ! 貴族社会ならではのからくり、楽しいですw
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