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借金まみれの伯爵令息は、金貨袋を掲げたお姫様を夢見る  作者: 喜楽直人
第六章 そのざまぁは祝福される
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6-7.元婚約者は傲慢な侯爵令息


6-7.



「これはこれは。おめでとうございます。私との縁組が解消してすぐに相応しい方が見つかったようで何よりです」

 

「ケイン様。こちらが私の新しい婚約者のライハルト・グリード伯爵令息ですわ。ライハルト様、こちらが」


 アレッサンドラがケイン・モス侯爵令息へライハルトを紹介し、続いてライハルトへケインを紹介しようとしたのだが、それを制するようにケインはグイっとライハルトに向けて前に出てそれを遮った。

 アレッサンドラがケインに向かって咎めるように呼び掛けるのを無視して、ライハルトを上から下まで検分するように眺めた後、薄ら笑いであげつらった。


「次代グリード伯爵のお噂は兼ねがねお聞きしていたよ。口さがない者たちは、持参金さえ積めば誰でも手にできる素晴らしい嫁入り先だと噂していたけれど。ふぅん。なるほどね、見目は悪くない。学園での成績もそれなりに優秀で、剣術もなかなかなのだそうだね。なるほど、()()()()()()()()確かにお買い得だ! なにより背もアレッサより高いのがイイ。良かったなぁ、アレッサ? その、男勝りに優れた体躯に引け目を感じずに傍に立つ事ができる相手が見つかって、なによりだ」

 つらつらと下品な物言いで論う言葉のどこにも、元の婚約者への労りや親愛は見つけられない。

 周囲にいた為に耳へ届いてしまった人も眉を顰めた。


 けれど。それを言われたライハルトは、自身の背中へ婚約者の身体を隠すと軽く頭を下げた。

 その所作は、あまりに様になっていて美しい。

 そうして、綺麗な顔に柔らかな笑みを貼りつけると、殊更丁寧な口調で、しかしあまりにも明確にバッサリと切り捨てた。


「ライハルト・グリードと申します。名前を知らない貴公子様? 推測することはできても愛しいアレッサンドラからの紹介を拒否されたからには私が名前をお呼びする訳にもいきません。つまりは会話を続けることもできないので、これにて失礼いたしますね。まだご挨拶が済んでいない方が沢山いらっしゃるのです。では、アレッサンドラ、いきましょうか」


 さっとアレッサンドラに向き直し、ライハルトはその手を自身の腕に巻き込むと「さぁ。挨拶廻りの続きに参りましょう」と声を掛けた。


「おい、待て!」

 確かに紹介を断るという、祝いの席で主役の二人に対して取るにはあまりに無礼な態度を取った自覚はあったものの、これまでずっとアレッサンドラに対して似たような態度を取ってきていたケインには、それをずっと格下の伯爵家の人間に指摘されたことに対して怒りしか覚えなかった。


 ケインの呼び止めた声に、ライハルトは確かに足を止めたが、ライハルトが口にした言葉はケインが考え求めていたものとはかなり違うものだった。


「あぁそうだ。お願いがあるのです、アレッサンドラ。貴女の婚約者は私でしょう? 私以外の赤の他人の男から愛称を呼ばせるなど、どうぞお止め下さい」

「え、えぇ。そうね、ライハルト様」

 突然の呼び捨てに、アレッサンドラの胸がきゅっと高鳴った。

 正式に婚約者として披露されたこの場において、元の婚約者がアレッサンドラを愛称呼びし、それに抗議することなく返事をしてしまったのは確かにアレッサンドラの失敗だった。その状態で、正式な婚約者となったライハルトがアレッサンドラを様付けで呼び掛けるのは確かによろしくない。

 だが、初めて敬称なしで、しかもこれほど甘い響きをもって呼び掛けられるなど、アレッサンドラには想定外すぎた。

 思わず上擦った声を返してしまったアレッサンドラの瞳を、ライハルトが悪戯っぽい光を秘めた瞳で見返してくる。

「様も、いらないでしょう? 愛しい婚約者殿」

「ら、らいは、ると」

 その、当然と言えば当然であるライハルトの要求を、アレッサンドラはほんのりと目元を赤く染めながら受け入れた。

 婚約が白紙に戻った今、アレッサンドラとケインの間で愛称を用いるような温かな交流はない。婚約している間ですら温かくなどなかったのだから。

 けれどケインには、ライハルトの要求をとてもではないが飲むことができなかった。


 別に、アレッサンドラに未練がある訳ではない。

 ケインは自分が、公爵家に顔の効く特別な存在でなくなるのが嫌なのだ。それだけだ。

 特別な存在のアレッサンドラを虐げる言葉を発しても許される――それがケインに昏い自尊心を満足させてきた。


「おい、俺はアレッサの婚約」「いいえ、アレッサンドラ様の婚約者は、私ライハルト・グリードです」


 ずいっとライハルトが一歩ケインに向けて足を踏み出し近づく。





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