1-6.夜の闇の中に差すちいさな光
1-6.
『僕の身体が筋力に長けていないからってなんだっていうの? 自慢できるところは他にある』
『今の僕の力では君に敵わないかもしれないけれど、僕が持っていて君が持っていないものだってある』
『僕の方が技は冴えてる。次は避け切る』
『ホラ、勝ったぞ! 次だって負けないさ』
一番たくさん傍にいて、一緒に剣の腕を磨いてきた仲間の言葉。
突然、訓練所にこなくなった相手だけれど、それでもあいつの本気は今でも疑ったことなどない。
弱くて強いあいつが、よく言っていた言葉を噛みしめる。
今の自分にはなにも無い気がするけれど、でも本当に何も持っていない訳じゃない。
他者を圧倒できる力が欲しければ、力の無いことを嘆くより、いま自分が持っている物を磨いて伸ばしていけばいい。
『本当にお前は、お前の曾祖父さんによく似た顔をしている』
父から、毎日の様に言われている言葉が頭を過った。
『お前ならきっと、お前の曾祖父さんが作った借金を穴埋めしてくれる、裕福な結婚相手に恵まれる』
そこに、もうひとつの記憶が重なる。
『かあさまね、とうさまのことが大好きで大好きで大好きだったの。持参金も用意できない貧乏男爵家の娘だったから諦めかけてたんだけど、でもどうしても大好きだったから。お嫁にきちゃった』
たしか、子守役のベティが結婚するといって辞めると知った頃の事だと思う。
辞める理由の結婚というものがどんなものか聞いたライハルトに、ベティは幸せそうな顔で「自分が大好きになった方の特別になることです。好きになった人と家族になれる。幸せなことですよ」と教えてくれたのだ。
そして、「ライハルトお坊ちゃまのおとうさまとおかあさまも、結婚をして、家族になったんですよ。そうしてライハルト坊ちゃまがお二人の間に生まれたのです。素晴らしい事です」そう言われて、ライハルトは大泣きした。
「とうさまとかあさまが家族じゃなかっただなんて、嘘だ。ベティのウソつき!!」と。
困ったベティが謝罪するのを、母は軽く笑って、ライハルトに教えてくれたのだ。
『かあさまね、とうさまのことが大好きで大好きで大好きだったの。持参金も用意できない貧乏男爵家の娘だったから諦めかけてたんだけど、でもどうしても大好きだったから。お嫁にきちゃった』
教えて貰った時は気にならなかった、”持参金”という言葉。
きっとあれが、父がライハルトに教えたかった言葉なのだ。
『お前ならきっと、お前の曾祖父さんが作った借金を穴埋めしてくれる、裕福な結婚相手に恵まれる』
──持参金。借金の額より、金貨一枚でも多くのお金を多くグリード家に入れられる妻を、得る。
きっとそれが。
このグリード伯爵家を、借金漬けにした放蕩当主であったという曾祖父ウィリハルトそっくりの綺麗な顔に生まれたライハルトの使命、生まれてきた意味だったのだ。