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借金まみれの伯爵令息は、金貨袋を掲げたお姫様を夢見る  作者: 喜楽直人
第六章 そのざまぁは祝福される
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6-5.金持ち公爵家の婚約披露

6-5. 


 宴もたけなわ。

 乾杯の盃も交わし、ひと通り顔合わせの挨拶回りも済んだ頃。

 満を持して、ラート公爵家当主がその声を上げた。


「ここで皆様にお知らせしたいことがございます。我が息子フリードリヒ・ラートもこうして7歳となりました。それに伴い、ラート公爵家の跡取りとして、新たに、このフリードリヒを指名することを宣言します」


 おぉぉぉぉ!!!


 ルチアーノ・ラート公爵の宣言に、招待客へ衝撃が走り、そこかしこから嘆息や歓声が上がる。


 嫡男が生まれた日からずっと、いつかこの発表がされるだろうと噂され続けていたことだ。

 けれども嫡男フリードリヒの健やかな成長が確認されても尚それが発表されることはなく、月日を経ていくに従って噂は下火となっていった。

 理由としては、それまで跡取りとされてきたアレッサンドラの優秀さだ。

 美しく聡明な公爵令嬢が、縁戚にある侯爵家の三男を婿に迎えて家を継ぐべく積み重ねてきた日々を無にすることは忍びなかったのだろうと囁かれた。


 しかし、ついにそれは宣言されたのだ。


「おめでとうございます!」「おめでとうございます、次代の公爵様に幸あれ!」


 祝福の声が次々上がる。

 その声を手で抑えると、言葉を続けた。


「フリードリヒはこれから粛々と次代のラート公爵となるべく研鑽に努めることとなる。どうか時には厳しく時には温かく見守って貰えたらと思う」


 促され、背中を押されて中央に出てきたフリードリヒ少年は、「皆さまにおかれましてはご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします」と白皙の頬をほんのりと紅潮させながら闊達とした挨拶をして、けれども教えられた通り頭を下げることなく宣言した。


 実際のところ雇われた講師でもない限り、公爵家の嫡男に向かって指導や鞭撻をしようなどと考える者はいない。しかし極稀に幼い子供相手だと勘違いして爵位を抜きにして居丈高に行動する者が出るという。

 公爵家の人間として、頭を下げる相手は王族のみだ。それも滲ませての挨拶だった。


 教えられた通りにやり遂げたという高揚も露わに父親を見上げる顔は、まだ7歳の子供の表情そのものだ。

 ルチアーノも父の顔に一瞬だけ戻り、その頭を撫でた。

 

 そうしてルチアーノは再びその表情を引き締めラート公爵の顔になると、声を上げた。


「それに伴い。我が一女にして愛娘アレッサンドラとモス侯爵家三男ケイス殿との婚約を白紙に戻す合意が成された。これはこの婚約が締結された時からの特約事項に関するものである」


 あぁぁぁ。

 おぉぉぉぉ。

 周囲から、嘆息とも、感嘆とも、期待を込めたものとも取れる声が上がる。


 ラート公爵家に待望の男子誕生の報が届いてからずっと囁かれていた跡取り交代。その噂と共に囁かれていたのが、後継者アレッサンドラの婚約の行方についてだった。

 婚約者であるモス侯爵家三男ケイスは、幼い頃よりその優秀さは有名であり年回りもアレッサンドラの三歳上と丁度よく二人の婚約を当然と受け止める者は多かった。

 しかし、アレッサンドラに弟フリードリヒが誕生した辺りからケイスの元へ幾つもの縁談が運び込まれるようになっていく。それは公然の秘密でもあった。

 元が政略以外の何物でもない婚約において、もしもその条件の筆頭である公爵家を継ぐという項目が無くなってしまうならば仕方がないことでもあった。


 そうしてその()()()は今、現実と化した。





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